ビートルズのユーモアと宇宙の核の事、LOVE PSYCHEDELICO「Help!」と新曲
NHK The Covers「ザ・ビートルズナイト!」は楽しい番組だった。
いろいろなミュージシャンたちのビートルズのカバーだが、特に自分達なりにアレンジされた曲が印象に残った。
ラテン系にアレンジされた「アイ・ウィル」井上陽水や、自分流の日本語訳で歌う斉藤和義「ジェラスガイ」は「焼きもち焼きの男がいるよ~♪….、小っちゃい奴さ~」と口笛を吹き歌われるだけでジョン・レノンが急に身近になり自分自身のように感じた。
1.「人にものを伝える時はユーモアが大切」オノ・ヨーコの言葉
中でも印象深かったのはLOVE PSYCHEDELICOのKUMIが力を抜いて軽やかに歌う「Help!」だった。
これはビートルズの公式Youtube「Help!」のMV。歌詞は「心が落ち込み、助けを叫ぶ」内容なのに、曲が流れただけで、わくわく感と、心軽く元気をもらえる不思議な曲。CDの曲を聞いているとジョンのシャウトの印象が強いが、MVでは思いのほか軽やかに歌っている。
縦一列に、顔を覗かせ演奏する、ポール・マッカートニーとジョージ・ハリスン。最後尾のリンゴ・スターだけが傘を差し、3人にかぶってカメラに写らず、右往左往しているのがユーモラスで楽しい。
こちらはLOVE PSYCHEDELICOの公式Youtube「Help!」のカバー、軽やかにさりげなく歌うのがかっこいい。
MCのリリー・フランキーも「心の叫び」である「Help!」を、なぜ軽やかに、力を抜いて歌うアレンジにしたのか?聞くと。
LOVE PSYCHEDELICOのギターのNAOKIがジョン・レノンの妻オノ・ヨーコに会った時常に言っていた「人にものを伝える時はユーモアが大切」
という言葉を大切にしたアレンジであるという。
シリアスな「心の叫び」をシリアスに伝えるのではなく、明るくPOPにユーモアをくるんでその真意を伝える。これは至難の技だ。
そもそも「ユーモア」をどう捉えるか?が難しい。
2.ユーモアの語源「4つの体液」その混合の度合いの変化
まず「人を傷つけない上品なおかしみや、しゃれ」とある。TV番組で見る「人を騙したり、見下したり、バカにしたり、困らせて(その反応)」を見て笑うのは、上品なユーモアとは言えない。
ただ自分の失敗や心の中の苦しみを「笑い」に変えて、「笑い」飛ばすには「ユーモア」が必要だ。もっと本質的に語源を調べると
ユーモアの語源はラテン語「humor(フモール)」の人間を生かす本質的な血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁の4つの体液の意味で、この混合の度合いと変化よって、気質や気分が決まると考えられた。
特に、笑いを生む変わった滑稽な人間の振舞いや気質を持った人の体液の事をユーモアと呼んだ。映画で言えばチャップリンやバスター・キートン、落語や狂言の中の登場人物の体液はユーモア。
笑いを生み出す体液の流れは、体液の変化のない気分の沈んだ、決まった気質のまま縛られた人々の気持ちを変化させ、解放させて、気分が和やかになる。
笑いが健康や免疫力アップにつながる事が自然と納得できる。
ビートルズのユーモアは、人を傷つけない人間味のある笑い。自分の苦しみ、悲しみ、叫びさえ、ユーモアにくるみ、非人間化の流れを壊す自由と解放へのユーモア。
しかし、ユーモア、笑いの感覚は言葉の壁や感性の違いで、国を超え、世界中に広がる事が難しい。
3.「Help!」のメロディの中にあるPOP感とユーモア
なぜ、ビートルズの曲、悲痛な4人の叫び「Help!」が、世界中の人々に伝わるのか?
その謎もLOVE PSYCHEDELICOのギターのNAOKIが説明してくれた。
従来の3コード、サビだけPOPの曲ではなく、「Help!」から自由にコードを使い、ロックを表現するようになったこと。
そのためユーモアやPOP感が、メロディの中に表現されている事。
悲痛な閉塞感、どうしようもない個人の心の奥の叫びが、メロディを聞くだけで、陽気なユーモアとPOP感を伴なってわくわく伝わる。
にもかかわらずジョン・レノンの声は「ヘルプ!ヘルプ!助けて!助けて!」とシャウトし、深く心の奥に刺さる。
4.「宇宙の根っこにつながる核」と新曲「NOW AND THEN」
最後に「Help!」の普遍的な魅力について語るLOVE PSYCHEDELICOのKUMIの言葉も印象深い。
その言葉を頭に置き、番組を見た後、ビートルズの新曲「NOW AND THEN」のMVを見た。
「NOW AND THEN」は、デモテープから22年ぶりに蘇ったジョン・レノンの声と、過去のビートルズの映像と4人の演奏シーン。
現在と昔のポール・マッカートニーとリンゴ・スターの演奏。
過去の中のジョン・レノンとジョージ・ハリスンの演奏。
この生と死の絶対的な時間のズレのある映像が、「NOW AND THEN」という曲の世界で一つになっている。
ジョン・レノンの曲なのに、ポール・マッカートニーとリンゴ・スターが『ジョン・レノンとジョージ・ハリスンがいないのが寂しい』と歌っている演出がされていているのが切ない。
曲は美しく、その中で陽気にはしゃぐジョン・レノン、哲学者のようなジョージ・ハリスン。
全体にユーモアにあふれ、様々な「NOW AND THEN」の時間軸の中のビートルズの歴史の総集編のような映像が続き、MVは、若き日の4人のライブの終わりの深いお辞儀とその後の空舞台で終わる。
やはり、ビートルズを聞くとわくわくし、楽しくなり、そして深く切なくなり、生と死、永遠、宇宙の果ての事を考えてしまう。それゆえ命の儚さと同時に尊さを知る。
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