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映画、監督、俳優からの学び

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映画に興味ある人に、交流のあった監督や好きな映画から学んだ事を書いています。
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記事一覧

水木しげるの生きる力と見えない世界

水木しげるの生きる力と見えない世界


1.「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」昭和の闇と現代の共通点

 「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」は、戦争という不条理な現実を生き抜いた水木を主人公に、戦中・戦後から続く昭和の闇の世界を構造的に描いていた。ここで描かれる水木は、現実の水木しげるではなく、会社の中で使い捨ての駒として扱われている水木。
 戦後を野心的な会社員としての水木が、目玉親父と幽霊族、戦争中、虫けらのように死んでいった戦友の怒りと怨念を抱

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宮沢賢治と宮崎駿から学ぶ日本の基層文化の再生

宮沢賢治と宮崎駿から学ぶ日本の基層文化の再生


1.トトロと山猫、森の神や精霊の世界

 宮崎駿が絵本「どんぐりと山猫」を読んで、山猫が小さかったことが気に入らず、自分なりの山猫のイメージ、大きさは2メートル以上でボーッと立っていて、足下でどんぐりたちがキイキイ言っている。その強烈なイメージからトトロは生まれたという。
 トトロ美術館の看板には、トトロの原型になったヤマネコの看板が掲げられている。

 宮沢賢治の「どんぐりと山猫」の山猫は、ど

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矛盾の芸術:宮沢賢治と宮崎駿に学ぶ「今を生きる姿勢」

矛盾の芸術:宮沢賢治と宮崎駿に学ぶ「今を生きる姿勢」


1.宮沢賢治:災害と社会の矛盾の中で成長

 宮沢賢治と宮崎駿が子供の頃生きた時代と震災や津波、異常気象、パンデミック、戦争が続く今の時代とが重なるように思える。
 昔から親しんできた二人の作品が、今になってリアルに感じ、現代と照らし合わせて今一度、彼らの表現の背景を考えたみた。

宮沢賢治の生きた時代は、冷害による凶作、日露戦争、第一次世界大戦、関東大震災の、明治から大正1933(昭和8)年

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ゆったりとした気持ちになる「カムイユカㇻ」の魅力

ゆったりとした気持ちになる「カムイユカㇻ」の魅力


映画「カムイのうた」、アイヌ文化と「カムイユカㇻ」

 映画「カムイのうた」は、文字を持たないアイヌの口承文学である叙事詩「ユカㇻ」をローマ字と日本語訳で表現した知里幸惠さんの19年の生涯を描いたもの。
 印象に残ったのは、想像以上のアイヌの人々への過酷な差別と偏見。
そのやり切れない感情を、竹の板と紐の振動で表現するムックリの不思議な音色。
 夜の森から見つめるシマフクロウの神秘的な眼差し、風

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「アバウト・タイム」日常的タイムトラベル、トライアル&エラーのすすめ

「アバウト・タイム」日常的タイムトラベル、トライアル&エラーのすすめ


①「今日が人生最後の一日だったら何をする?」の答えを探す「タイムトラベル」

 「アバウトタイム」は、父親から代々受け継いだ「タイムトラベル」の能力を、21歳のティム(ドーナル・グリーソン)が使って、自分の恋愛の失敗や友人や家族の不幸な出来事を消そうと奮闘するラブコメディ。リチャード・カーティスの監督としての最後の作品。
 リチャード・カーティスは、インタビューの中で、この映画は「今日が人生最後

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「PERFECT DAYS」人を幸せにする持続可能なモノ作りの3つのヒント

「PERFECT DAYS」人を幸せにする持続可能なモノ作りの3つのヒント

「PERFECT DAYS」は、シンプルに楽しい至福の映画体験だった。
 長年ヴィム・ヴェンダースの映画を観てきたが、これほどわかりやすく心に響いた映画はなかった。
 私はこの映画からストレス社会から抜け出し、人を幸せにする持続可能なモノ作りの姿勢や楽しさを改めて教えられた。

①日常の観察から生まれる心の安定と優しいまなざしを持つ事

 「PERFECT DAYS」はトイレ清掃作業員の日常が繰り

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岡本喜八監督『ネガからポジへ』痛烈な喜劇「肉弾」

岡本喜八監督『ネガからポジへ』痛烈な喜劇「肉弾」

1.ネガからポジへ

 「ゴジラー1.0」を見て、昔の戦争映画が見たくなった。それで岡本喜八監督の「肉弾」を見た。
 岡本監督の映画が好きだ。「大誘拐」「ジャズ大名」「近頃なぜかチャールストン」「ブルークリスマス」「沖縄決戦」「肉弾」「独立愚連隊」
 リズムとテンポとユーモアがあって、楽しみながら見てしまう。観た後に痛烈なメッセージが届き、それについて考えこんでしまう。
 岡本喜八監督のエッセイ集

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「82年生まれ、キム・ジヨン」顔のない小説と顔を持った行動の映画

「82年生まれ、キム・ジヨン」顔のない小説と顔を持った行動の映画


1.顔のない小説、誰もが感じる危機感と喪失感

 私は、好きな小説の場合、映画化は観たくない。映画化された作品を観てしまうと、読んで想像したイメージが、映画化されたイメージに上書きされて消えてしまう。これが困る。
 本を読み返す度に、映画の演者たちの顔が浮かぶ。困る。「困る」なら観なければ良いのだが…。ときどき原作では良くわからなかった事が、ぱっと目の前に広がる事がある。
 で、原作「82年生ま

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「フィルムなつかしい」と言う学生達と繋がり表現の豊かさを持つ事

「フィルムなつかしい」と言う学生達と繋がり表現の豊かさを持つ事


1.16ミリフィルム映画を「なつかしい」と言う学生たち

 学生映画のある場面の撮影に使うために、16ミリフィルムの映写機を久しぶりに回した。映写機にかけたのは、20年以上昔の、10分ほどの学校を舞台にした短編映画だった。
 デジタルネイティブで、4Kのクリアな映像にこだわるZ世代の彼らが、なぜか映像を見て「なつかしい」と言い始めた。
 教室の別の場所では、別の班が別の映画製作の話し合いをしてい

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22年後に気づく「アメリ」の事件、動機、謎の鍵となる3人の人物

22年後に気づく「アメリ」の事件、動機、謎の鍵となる3人の人物

「アメリ」リマスター版が22年ぶりに劇場公開されるらしい。
 それとは知らずにNetflxで「アメリ」を再見した。久しぶりに見ると、「アメリ」の鍵を握る3人の人物、語り手、ダイアナ妃、ルノワール「舟遊びをする人々の昼食」の「水を飲む娘」が浮かんできた。

1.語り手:「アメリ王国」のニュースを語るのは誰?

 映画「アメリ」は、アメリの頭の中と現実がミックスされたパリ・モンマルトル、アメリの仕事先

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侯孝賢監督が教えてくれた3つの事、それでも、人と世界を美しいと感じる事

侯孝賢監督が教えてくれた3つの事、それでも、人と世界を美しいと感じる事


侯孝賢監督が教えてくれた3つの事

 侯孝賢監督の「冬冬の夏休み」「童年往時/時の流れ」「恋恋風塵」は私にとって大切な幼い頃の記憶と原風景につながる映画だ。

 Yahoo!ニュースの記事を読み、侯孝賢監督が、アルツハイマー認知症で監督を引退した事を知った。

 侯孝賢監督の「童年往時」を見て「こんな映画が撮りたい」と夢中になり、侯孝賢監督の作品を観てインタビューを読み、多くの事を学びたいと思っ

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「パリ、テキサス」と「東京物語」、心の空白と風景(世界)の光の物語

「パリ、テキサス」と「東京物語」、心の空白と風景(世界)の光の物語

 10月23日(月)から始まる東京国際映画祭「小津安二郎の生誕120年、没後60年記念」で、小津監督の35本の映画がアーカイブで上映されるという。
 コンペティション部門の審査委員長は、ヴィム・ヴェンダース。
 映画「ベルリン 天使の詩」は「全てのかつての天使、特に安二郎、フランソワ、アンドレイに捧ぐ」と、映画監督:小津安二郎、フランソワ・トリュフォー、アンドレイ・タルコフスキーに捧げられている。

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「少年の君」と「スタンド・バイ・ミー」雌鹿(よりよきもの)の事

「少年の君」と「スタンド・バイ・ミー」雌鹿(よりよきもの)の事


1.中国映画「少年の君」の事

 中国映画「少年の君」主演の二人に魅せられた。
 成績優秀で大学受験を控えたチェン・ニェン役のチョウ・ドンユイ(周冬雨)と彼女を守るシャオベイ役のイー・ヤンチェンシー(易烊千璽)
 チョウ・ドンユイはチャン・イ―モウ監督「サンザシの樹の下で」で主演デビュー人気が沸騰し、中国では「13億人の妹」と呼ばれている。
 イー・ヤンチェンシー(英語表記はJackson Ye

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正解のない答えを探す、映画「アステロイド・シティ」ウェス・アンダーソン

正解のない答えを探す、映画「アステロイド・シティ」ウェス・アンダーソン


 映画「アステロイド・シティ」何も考えずに見て、面白かった。
でも、疑問だらけなのは間違いない。それで浮かんだ疑問を自分なりに考えてみた。考えなくても楽しめるし、考えても楽しめる映画。
 それが「アステロイド・シティ」と言う不思議な映画。
正解は人それぞれ、そもそも正解はないかもしれない…という映画。
※ネタバレあります。

1.なぜ、1950年代なのか?

 この映画は、モノクロ映像のTV番組

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