マガジンのカバー画像

季節や日々の小さな物語

18
季節を感じる事や記憶に残る人や映画に関する小さな物語「面白い」「大事」と思った事を書いています。
運営しているクリエイター

記事一覧

格差社会での多様性、ピンクの眼鏡のYさんと競艇の食堂のおばさんの事

格差社会での多様性、ピンクの眼鏡のYさんと競艇の食堂のおばさんの事


1.格差社会での多様性

 自由と豊かさをもたらすはずの多様性という言葉、私はなぜか束縛と不自由さを日々感じる。多様性社会の前に格差社会が強くあり、その中での「多様性の要求」が、どこか息苦しくしているように感じる。
 格差社会のピラミッド構造の中で、下の者は上へ登る事で、上の者は下へ落ちない事で精一杯。人と深く関わる余裕もない。
 多様性という言葉で都合よく「人は人、自分は自分」と割り切る。

もっとみる
宮沢賢治の童話「どんぐりと山猫」に学ぶ、想像力を引き出す表現(前半)

宮沢賢治の童話「どんぐりと山猫」に学ぶ、想像力を引き出す表現(前半)


 宮沢賢治の童話に学ぶ、想像力を引き出す表現を「どんぐりと山猫」を通して考えてみた。長くなったので、今回は前半だけです。

1.どうすれば、自分の想像力を使う読者・観客になれるのか?

 ネガティブな感情を生む空想からわくわくどきどきの想像力に変換する。

 「どんぐりと山猫」はシンプルな物語。
 いきなり山ねこから、めんどうな裁判へのおかしなはがきが届く。
 状況設定もわからず、奇妙なはがきで

もっとみる
ゆったりとした気持ちになる「カムイユカㇻ」の魅力

ゆったりとした気持ちになる「カムイユカㇻ」の魅力


映画「カムイのうた」、アイヌ文化と「カムイユカㇻ」

 映画「カムイのうた」は、文字を持たないアイヌの口承文学である叙事詩「ユカㇻ」をローマ字と日本語訳で表現した知里幸惠さんの19年の生涯を描いたもの。
 印象に残ったのは、想像以上のアイヌの人々への過酷な差別と偏見。
そのやり切れない感情を、竹の板と紐の振動で表現するムックリの不思議な音色。
 夜の森から見つめるシマフクロウの神秘的な眼差し、風

もっとみる
雪の夜行列車と祖父の言葉と布袋さん

雪の夜行列車と祖父の言葉と布袋さん

 各駅停車の夜行列車には、人はまばらだった。車窓は、足下からの蒸気暖房で白く曇っていた。指でこすると、キュキュと物悲しい音がした。
 窓の外は真っ暗だった。真っ暗の中、小さな生き物のように無数の雪片が舞っていた。
 1983年、冬、祖父が倒れ入院した。私が夏、帰省した際には、祖父の喉から遠い海鳴りの音が聞こえていた。

 祖父は、左官屋の棟梁だった。大阪で仕事をして、芸者をしていた祖母と結婚した。

もっとみる
M1さや香の「見せ算」、数字の気持ちを想像する深くて面白い漫才

M1さや香の「見せ算」、数字の気持ちを想像する深くて面白い漫才

 M1決勝ネタのさや香の「見せ算」の事はいろいろ書かれている。あのネタを聞いて以降、「数字の気持ち」を想像してしまう。
 まず「見せ算」の説明を、さや香の漫才から引用する。

 「だからなんなん」石井さんの突っ込みは正しい。同感です。
 なのに数字の気持ちを想像するようになってしまった。
 私の住んでいるマンションの部屋番号には4も9もない。4見せ9はどんな気持ち?4と9は日本人の勝手な死と苦のイ

もっとみる
消えた映画館、おばあさんとストーブと源さんの事

消えた映画館、おばあさんとストーブと源さんの事

1980年代大学生の時、大阪の吹田映劇という映画館で映写技師のアルバイトをしていた。飄々としてお洒落でユーモアのある支配人が好きだった。
 不思議な映画館で、普段は主に洋画のピンク映画を上映しているが、毎月、何日かは映画サークルに貸して主にヨーロッパのアート系映画を上映していた。
 忘れられないのはオールナイトのルキノ・ヴィスコンティ特集「ベニスに死す」「ルードウィヒ 神々の欲望」「家族の肖像

もっとみる
「フィルムなつかしい」と言う学生達と繋がり表現の豊かさを持つ事

「フィルムなつかしい」と言う学生達と繋がり表現の豊かさを持つ事


1.16ミリフィルム映画を「なつかしい」と言う学生たち

 学生映画のある場面の撮影に使うために、16ミリフィルムの映写機を久しぶりに回した。映写機にかけたのは、20年以上昔の、10分ほどの学校を舞台にした短編映画だった。
 デジタルネイティブで、4Kのクリアな映像にこだわるZ世代の彼らが、なぜか映像を見て「なつかしい」と言い始めた。
 教室の別の場所では、別の班が別の映画製作の話し合いをしてい

もっとみる
わからないはわからないまま受け入れる、クラムボンとクラムボン(原田郁子)「銀河」のこと

わからないはわからないまま受け入れる、クラムボンとクラムボン(原田郁子)「銀河」のこと

 秋が深まるとなぜか宮沢賢治の「やまなし」が読みたくなる。
 誰も知らない山深い清流の底、二疋の子蟹が会話している。その春編と冬編二つの青い幻燈の話。クラムボンが登場するのは春編だけど…。

 青い水の底、赤い子蟹、光、「かぷかぷ」映像的で音が響く、楽しい描写と時間が続くかと思いきや、しばらくすると…。

 何が起きたのか?サスペンスか?ミステリーか?と期待していると…。

「クラムボンはわらった

もっとみる
「アナザーストーリー・手塚治虫 ブラック・ジャックの伝言」と「火の鳥 鳳凰編」のこと

「アナザーストーリー・手塚治虫 ブラック・ジャックの伝言」と「火の鳥 鳳凰編」のこと

 NHKアナザーストーリー「手塚治虫 ブラック・ジャックの伝言」を見て、戦争体験が表現の核になっているのを再確認した。
 編集者や医者の視点からの「ブラック・ジャック」の語りも興味深かったが、一番印象に残ったのは、手塚治虫(1928年・昭和3年生まれ)の映画「ブラックジャック 瞳の中の訪問者」を撮った大林宜彦監督(1938年・昭和13年生まれ)の手塚漫画についての言葉だった。

 そして大林宜彦

もっとみる
お前とクリームパンと人間インストールの事

お前とクリームパンと人間インストールの事

 最近、バラエティで何人かの芸人がアイドルやタレントを遠隔操作、人間インストールをして、別人のように笑いのセンスや知識をひけらかし、番組をめちゃくちゃにするという企画をよく見る。
 笑ってしまうが、観た後、なぜか不安になる。心がざわざわする。遠隔操作されている人間が、自我を捨て、誰かに操られる。
 操る側も普段ならそこまでしない過激なボケやツッコミで番組を壊す。
それを私たちは笑ってただ見ている。

もっとみる
スティーヴン・キングの「書く理由」、荒井由実「ひこうき雲」と幸さんの事

スティーヴン・キングの「書く理由」、荒井由実「ひこうき雲」と幸さんの事


スティーヴン・キングの「書く理由」と「ひこうき雲」

 荒井由実のアルバムが好きだ。「ひこうき雲」「MISSLIM(ミスリム)」「コバルトアワー」「14番目の月」
 小学生高学年から中学生の時、リアルタイムで聞いた。
 当時、私は「ひこうき雲」が苦手だった。「ひこうき雲」を素直に受け入れるまで時間がかかった。それから気がつけば、もう半世紀近く、聴き続けている。
 私にとって「幸(ゆき)さんのこと

もっとみる
「幽霊じゃなくて、魂…」と曾祖母(99歳)の呼びかけ(お盆の話)

「幽霊じゃなくて、魂…」と曾祖母(99歳)の呼びかけ(お盆の話)

 先祖の霊(魂)が戻って来るというお盆が来るたびに思い出す。
 99歳で亡くなった曾祖母(そうそぼ)の事。私は、彼女から花札のやり方を教えてもらった。
 特に、1月 の松に鶴、2月の 梅にうぐいす、4月の藤にホトトギス、7月の 萩に猪、8月の芒(すすき)に月、10月 の紅葉に鹿、11月の柳に小野道風の絵札が好きだった。

 曾祖母と住むようになったのは私が小学生の頃で、90歳を過ぎていた。
耳も遠

もっとみる
桂 枝雀さんの結婚式スピーチと巨大な餅の話

桂 枝雀さんの結婚式スピーチと巨大な餅の話

 結婚式のスピーチで最も記憶に残っているのは桂枝雀さんのスピーチだ。大学の頃、大阪のホテルでブライダルの撮影を3年近くやった。
 その日は桂米朝一門の若手落語家の結婚式だった。もうずいぶん前なのでどなたか名前を忘れてしまったが、次のような内容だった。

 会場が一瞬凍った。間をおいて枝雀師匠は、

 師匠は深々とお辞儀をして去った。会場は笑いと拍手に包まれた。私はなぜか泣きそうになった。
 それか

もっとみる
雨上がりの花と花言葉とヒロイン②

雨上がりの花と花言葉とヒロイン②

 「雨の日を楽しく」過ごすために「雨上がりの散歩」をして「雨上がりの花」をスマホで撮って「花言葉」を調べた。
 その「花言葉」と花から映画や絵画のヒロインをイメージしたら「映画」「絵画」が別の見え方をした…の2回目です。 

 インドハマユウ(浜木綿 Grand crinum lily):夏の浜辺に咲く白いユリに似た花。花言葉はその見た目から「繊細な美しさ」「優しさ」「汚れがない」。虫媒花でスズメ

もっとみる