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アフターコロナの覚悟

6月も1週間が過ぎ、世間は少しずつ動きを取り戻してきた。
緊急事態制限が発令される前に遡れば、2月末からの約3ヶ月間は自由に外に出掛けることができない状況下にあった。
そうしたなかで、認知症状を呈する高齢者の数が増えているというニュースを耳にした。そしてそれは、身近にも起きていた出来事だった。
そのことについて記そうと思う。

コロナ前、電車で1時間ほどのところに住む義理の父は、何かにつけて息子たちのサポートをしてくれていた。
具体的には次男の塾や体操教室の送り迎えなど、多いときには週3日は自宅と都内を往復してくれていた。80歳をすぎても気丈な義父が、孫の送り迎えをしている姿は頼もしくさえあった。若い頃から柔道や合気道をして身体を鍛えていたことも背景にあると思われる。

ところが、3月から小中学校が休校になり、塾もオンラインで行なわれるようになると、必然と外出する理由は失われ、また、外出を控えなければならない状況となった。この間、およそ3ヶ月。

外出自粛がもたらしたもの

ヒトの筋力はどれくらいで低下するのだろうか。
よく知られている調査では、宇宙飛行士が宇宙空間に6ヶ月滞在すると筋力は10~20%くらい低下するというデータがある。
地球に帰還してスペースシャトルから出てきた宇宙飛行士は、重力の重さに耐え切れないため自分で立つことができない。かくも筋力は落ちてしまうものだ。そして、元の状態に戻すために45日間のリハビリプログラムが用意されている。(引用:JAXA 宇宙医学からみたリハビリ

翻って、自宅に3ヶ月こもり切りの高齢者には何が起きたのだろうか。
宇宙飛行士同様に、義父は足腰の力が落ちていると妻から様子を聞いた。玄関先で転倒して、一人では立ち上がれなかったそうだ。3ヶ月前には電車に乗って都内まで孫の送り迎えに往復していたのに。
介護は誰もが通る道とはいえ、このような形でコロナウイルスの影響が現れるとは、コロナ憎しである。
義理の父も、明らかに変化した自分の体力に自信をなくしてしまっているらしい。さて、このあとどうするか。

私の仕事柄、家庭でできるリハビリ体操を義父に勧めることは簡単だ。
場合によっては、介護認定を受けて訪問リハビリを行うこともできる。妻にそのような提案をしてみると、義父は早速、病院を受診したそうだ。
そしてわかったのは、単に下肢の筋力が落ちてしまっただけでなく、認知症状も見られる可能性があること。
たしかに、日中の活動量が減って単調な生活が続くと、ヒトの脳機能も一気に下降曲線を辿ることがある。

半分本当、半分冗談のような話だが、それまで元気だった高齢者が、伴侶に先立たれてしまったため介護施設に入居したところ、一気に認知症状が進んだという事例がある。
環境が変わること、自由に外出できない環境にいることは、かくも残酷な状況を生み出している。
義父に限って言えば、長谷川式スケールの100から数字を引いていく計算が覚束なくなったり、それにより自信を無くしてとにかく怒りっぽくなったようである。

介護と向き合う

離れていてもそこは家族。
このあと何ができるのか、妻とも話をしたのだが、どうも口数が少ない。
いくら、こちらが介護のことを多少なりともわかっていて、これからこうしていこうと提案したところで、実の娘である妻はまったくの素人なのだ。
今回の義父の変貌ぶりを目の当たりにして精神的にショックを受けている。
そしてそれを受容するまでにはしばらく時間がかかるに違いない。

両親のどちらかが介護を必要とする状況になった時、しかもそれが急速に事態が進展した時には心の準備もできるはずがない。
介護職を経験したことのある立場の者であっても、まずは当事者を中心とした家族の役割を再構築することから始めることになる。

このあと、どう関われば後悔しないのか。
やがて訪れる死を迎えるまでの取り組みは、まだ始まったばかりだ。そしてそれが何年続くのか、誰も知るすべはない。
父と母を支えるべき妻はどのような気持ちでいるのか。
義理の息子として何ができるのか。
考え出せば尽きることはないのだが、確実に言えることは家族の一員として痛みを分かち合う覚悟を持つことだと思う。

今日はここまで、よい旅を。

physical, mental, spiritual and social well-beingに生きるお手伝いをしています。2020.3に独立開業しました。家族を大切にし、一人ひとりが生き生きと人生を楽しめる社会が訪れるといいなと思いながら綴っています。