見出し画像

微分積分はわからないけれど ~書評:孤独の価値~

高校生になると、数学が途端に難しくなる。
おそらくこのくらいの年齢には抽象的な概念を理解することができるであろう、という考えのもとに、教育カリキュラムが組まれているに違いない。

そこで登場するのが微分積分。
サイン、コサイン、タンジェントと呪文のように唱えてみても、さっぱりその意味は理解できなかった。そしてズルズルと数学が嫌いになっていく。

嫌いなことは聞いていても記憶に残るはずがない。高校生活も折り返し地点の頃には、100点満点のテストのはずが10点満点表記で十分な点数を見ることになる。

それにしても、親は偉いものだと思う。そんな自分に「勉強しろ」とはひと言も言わずに、黙々と片道40分かけて自転車通学する息子を卒業まで見守ってくれていた。(よもや言われたかもしれないが聞こえていなかったのだろうと思うことはある)

ついに私は微分積分を理解することなく高校を卒業するのだが、これまでの人生でさして困った目には逢っていない。

このご時世、コンビニでは交通系マネーで支払いを済ませ、スーパーでの買いものも基本、キャッシュレス。
たまの休日に立ち寄る昔ながらの八百屋では、500円でおつりがくるだけの買いものでこと足りている。
よい時代になったものだとつくづく、思う。

そんな私が人生の後半に差し掛かり、微分積分の恩恵を受けるとは露ほども思わなかった。まさに青天の霹靂。
「微分積分って役に立つじゃん!!」という本を紹介したい。

ジャケ買いならぬ、タイトル買い。
幻冬舎から出版されていることにも目を奪われた。

肝心の微分が出てくるのは69,70ページ。

ここでは、寂しさの状態と感情の変化について語られている。
曰く、感情の変化として「いつが最も寂しさを感じているか」の説明に微分を引き合いにして説明されている。(積分は出てこない)
最も寂しさを感じているのは、寂しさがどん底の時ではない、のだと。

こう置き換えるとよいだろう。
ジェットコースターが一番怖く感じられるのは、頂点から谷底に向かって滑り落ちている最中だと。

頂点と谷底のちょうど中間点が速さが最大になる「最も怖い瞬間」であり、それを感情の加速度と表現している。
頂点から勢いがついて、「キャーこわいー」と手に汗をかき叫んでいる瞬間が最も感情が高ぶるのだと。

谷底まで来てしまったら、あとは上るだけなので怖くもなんともない。

頂点から谷底まで移動している中間点の状態を微分すると「速度」が算出され、それが怖いという感情の「変化率」がMAXになったことを数式として表現している。恐るべし、微分。

孤独と向き合うにはどうしたらよいか、という目線で手に取った本なのが、思いがけず微分積分の素晴らしさを知ることとなった。

このご時世、寂しさ=マイナスという価値感が世間を覆っているが、ひとり静かに本を読み、自分と向き合うことで感じる景色があるのも悪くない。

physical, mental, spiritual and social well-beingに生きるお手伝いをしています。2020.3に独立開業しました。家族を大切にし、一人ひとりが生き生きと人生を楽しめる社会が訪れるといいなと思いながら綴っています。