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夏合宿と恋バナと新人戦

部屋とワイシャツと私、みたいなタイトルですみません。
…ちょっと違うか。

5月の連休が明けてから、1年生は先輩の指導のもと少しずつダンスの足型を覚えていきました。最初に習うのはワルツ、そして新人戦に出場するためにタンゴの足型も覚えます。

今回は、組んで踊れるようになるまでの練習風景と夏合宿、新人戦のことについて記憶をたどりながら記していきます。


ワルツの一歩目はウォークから

社交ダンス(または競技ダンス)には10種類の踊りがあります。
そういうことも部に入ってしばらくしてから知ることになるのですが。

種目は大きく2つ、スタンダードとラテンにわかれ、その先に5種目ずつ合計10種目のダンスがあります。学生がダンスに費やせる時間は限られているので、すべてを踊ることはできません。まれに4年制大学を5年、6年かかるつわもののダンス部員もいますが、それはさておき…。

入部して最初に習うのは社交ダンスの華、ワルツです。
映画のシーンでもよく見かけるのはほとんどがワルツ。

1,2,3のリズムに合わせて足型が決まっています。そして、足型よりも大切なのが動き=ムーブメントです。
振り子が左右に揺れるように大きく体を使って、音楽を表現できる…ようになるのは、しばらく先の話。30年経った今でも修行中の身です。

さて1年生のうちは、まずヒールに慣れることから始まります。男性は約3cm、女性は7~9cmのヒールを履いて踊るのです。

そもそも普段はスニーカーだから、革製の靴なんて履いたことがない。
しかも、ヒールが高い!そういう男子部員は私だけではありませんでした。慣れないバランスでよたよたと歩く。

ここで問われるのが「一定の速さでまっすぐ歩くこと」

当たり前じゃないか、と思うかもしれませんが、足の振り出し、着地、体を前へ送る動きなど、いちいち考えてしていることではありません。
私たちがコンビニまで歩いて買いものに行くときは、無意識のうちにゆらゆらと左右に揺れながら、時には赤信号で立ち止まったり黄色信号で駈け出したりしています。

例えば、フリーハンドで「白い紙にまっすぐな線を引いてください」と言われたらどうするでしょうか。ペンをもってまっすぐに線を引こうと努力はしますが、それでもちょっと曲がったりします。

それと同じで「一定の速さでまっすぐに歩く」ことがどれだけ難しいか。
フリーハンドで直線を引くのとおなじ感覚です。そして、このひたすらまっすぐ歩くのが練習の始まりでした。まずは、そこから。

どうやって一歩、一歩を出すのか。
・そのときの目線の高さは
・肘の張り加減は
・背すじの伸び具合は
・腰が引けていませんか
・踵とつま先使ってますか

そんなことを気にしながら歩く。
無意識を意識化する作業の始まりです。

不思議なもので、キャッチボールをするなら何となく相手のいるほうへ球を投げれば飛んでいきます。ペダルをこげば自転車はまっすぐに進みます。

でも、対象は自分の体ぜんぶ。
それをコントロールしながら音楽に合わせて踊るとなると、かなりのトレーニングが必要になります。30年経った今でも修行中の身です。

…ここまで読んで「社交ダンスってハードル高そう、私には無理!」と思う読者がいると思いますが、そんなことはありません。海外へ行くなら英語と同じくらいダンスも必要ですよ(笑)

それはさておき。
目をつぶっていても腕の位置や股関節の角度がわかることを専門的には【深部感覚】といいます。楽しんで踊れるようになるまでに、この深部感覚を研ぎ澄ましていくことがひたすら求められます。しかもヒールのある革靴を履いて。

そして、夏合宿

大学は前期、後期の2期制ですが、前期試験の前に夏休みがあります。
どの運動部も、秋シーズンの大会に向けて夏休みの間に合宿と強化練習が組まれていました。あ、うちの大学では文化部扱いでしたが。

私の所属していたダンス部は当時、琵琶湖のほとりで3泊4日の合宿をしていました。夏休みに入る頃、まだ姿勢も足型も覚束ない1年生は先輩のいう通りにするしかありません。

合宿は朝の走り込みから始まります。
ほかの体育会から比べたらストレッチしてる程度なのでしょうが、高校まで運動音痴を自負していた私にとってそれは人生で最も運動した時期でした。

眠たい目をこすって走るというか歩いていると、琵琶湖をわたる風が心地よく吹いてきます。

朝食のあと、午前中は基礎練と決まっています。
まずはホールド10曲。1曲3分なのでだいたい30分位でしょうか。真横に肘を張り続けます。そして、1曲ごとにヒールアップを繰り返します。

1年生は肘を張り続けることにやっと慣れた時期ですが、秋の競技会に向けて夏合宿で一気に仕上げるのです。

ヒールアップは踵のある革靴を履いているのに、さらにそこからつま先立ちになる姿勢を続けます。
どうしてもふらついたり、6曲目くらいから踵が上がらなくなってきます。当然、真横に張っているはずの肘も下がってきます。

すると、先輩登場。
「はい~、肘張って」
「目線は上!」
「しんどい時こそ笑顔や」
「踵ついてるで~」

もう~やめてくれ~とほんとに思いました。
のちに3年生の幹部になると、自分たちが笑顔でそれをやるのですが。

10曲ホールドが終わると、ボックス10曲が待ってます。
ワルツは右回転の動き、左回転の動きがあるのですが、右回転(ナチュラルターン)5曲、左回転(リバースターン)5曲ずつ。
1,2,3の音楽に合わせて、まっすぐ進んで90度横に向く。
これをまた30分近く繰り返すのです。

もう大変以外の何物でもありません。
学連の皆さんは今でもこのような練習をしているんでしょうか?
不思議なもので、もう一度やってみたい…という気持ちになることがあります。それだけ非日常の時間だったことは確かです。

夏の体育館。
30年前は、今ほどの猛暑ではなかったのですが、それでも汗が滝のように流れてきます。よく見ると黒いTシャツの背中に白く塩が吹いている仲間もいました。そして、辛いときこそ声を出す。
このよくわからない方程式にのっとって、ワルツの曲に合わせて「い~ち、に~、さ~ん」と大声を張り上げていました。

ホールドとボックスが終わると、先輩1人に1年生数人がついて足型の指導を受けます。グループ分けの基準は、身長です。

ほぼおなじ身長の先輩からステップやムーブメントを習います。体格が同じということは手足の長さもほぼ一緒。
身長差がある人から習うよりも、似通った人から習うほうが動きも似ていて効率がいいということでしょう。

午後からはカップル練習の時間でした。
先輩方はすでに固定のリーダー、パートナーがいます。1年生は身長が近い男女がグループになって、組んで踊ります。秋の新人戦を目指して。

そして、練習の終わりは試合形式。
1分30秒の音楽を流して、競技会に見立てて数組が同時に踊ります。最後の最後、疲労困憊しているのですが、ココは気合いと集中力なのでしょう。
この経験があったからこそ、いまの私の集中力があるのだと思います。

まさかの恋バナ

夕食をはさんで夜は2時間ほどの自主練習。そして自由時間となります。

3泊4日の合宿も最終日の前日のことでした。
合宿もあと半日を残すのみ。
午前中の試合形式を残して、ちょっと気持ちも軽くなっているときに打ち上げコンパが始まります。

当時、大学生のコンパといえば、それはヒドイもので(笑)
今ならネット上で叩かれるようなことがふつうに行われていましたので、文章に残すのはやめておきます。

さて、コンパが終わって消灯時間になったのですが、
4回生の神様(H本先輩)から1年男子に呼び出しが掛かります。

「おまえ、誰と組みたいねん?」
「◯◯さんと組んで試合に出たいです」

新人戦のカップルは、夏合宿のあとに発表です。
合宿はそのための試金石。
先輩方は1年生の踊りを見て、こいつとこいつを組ませたらイイとこ行くんちゃうか…そんなことを考えているのです。

カップルを組むためには身長や動きも大切なのですが、もう一つは相性。わかりやすく言うと個人の好き嫌いです。
「◯◯さんはちょっと苦手」
そういうこともあります、人間だもの。

そう考えると、社交ダンスって身体能力だけじゃなくって、コミュニケーションの取り方も大切な要素です。むしろ、踊りの質はレッスンを積んでいけば上達しますが、ヒトとしての相性はどうしようもありません。
そこで、合宿の終わりに先輩がそれとなく聞くのです。

ひと通りの1年男子に意見を聞いたあと、唐突に先輩が言いました。
「ところでお前、誰のこと好きやねん?」

「…は?」
一瞬、ひるみましたがお酒の勢いもあって
「え~、僕は◯◯さんと◯◯さんがカワイイと思います」
「僕は◯◯さんがタイプです」

そんな会話が繰り広げられました。
部員が寝起きしていた広間は、コンパのあとで誰がどこに寝ているか、もうよくわからない状態です。「◯◯さんが好き」というシラフでは言えないことを暴露し合いました。

そして翌朝、H先輩と1年男子の会話は、まわりで寝たふりをしていた女性陣にすべて聞かれていたことを知ったのは、1年女子の目線が冷たいと気付いたときでした。

その時です、私が本気でダンス部をやめようか悩んだのは。
新人戦の練習をしているはずなのに、相手と目も合わせられません。人生で一番、気まずかった思い出です。

新人戦がやってきた

そんな夏合宿が終わり、いよいよ新人戦。
秋シーズンのスタートです。

9月に行われる新人戦はワルツとタンゴの2種目。
リーダー1人につき、ワルツのパートナー1人、タンゴのパートナー1人と組みます。当時、私を含めて1年男子は4人。
男子4人と女子8人で新人戦に臨みます。

当時、創部して4年目だったうちのダンス部は、背番号を背負っているだけで落とされる…つまりそれだけ弱小だったという記憶があります。
仕方ないといえば仕方ないのですが、やはり勝てない試合は面白くありません。
元来の運動音痴に加えて身長が高くはない私(170cm)は、予選落ちは当然の結果でした。

しかし、4組のうち1組が新人戦で決勝に残るという快挙もあり、それは3年後の快進撃の萌芽となったのでした。

physical, mental, spiritual and social well-beingに生きるお手伝いをしています。2020.3に独立開業しました。家族を大切にし、一人ひとりが生き生きと人生を楽しめる社会が訪れるといいなと思いながら綴っています。