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ドイツ政府によるロシア国営ガスプロム子会社のドイツ政府暫定管理下への移行について。

ドイツ政府ハーベック経済相は4日、ベルリンで記者会見を行い、ロシア国営ガス会社ガスプロムのドイツ子会社ガスプロム・ゲルマニア(所在地、ベルリン)を暫定的にドイツ政府の管理下に置き、経営および事業運営をドイツ政府エネルギー規制当局(連邦ネットワーク庁)に委託する決定を行った旨発表した。暫定管理の期間は、今年9月30日までで、ドイツ政府が経営陣を新たに指名する。

ガスプロム・ゲルマニアは、ドイツ国内およびヨーロッパ各国でガスプロムが手掛けるガス卸売り配給事業、ヨーロッパ・スポット市場での天然ガス取引およびアジアLNGスポット市場取引、ヨーロッパ最大規模のものを含む天然ガス貯蔵基地運営、などのダウンストリーム事業を一手に手掛けている。

昨年、世界的にエネルギー価格が高騰し、特にヨーロッパの天然ガス・スポット市場において顕著な値上がりがみられた時期に、ガスプロムが供給量を絞る操作を行い、意図的にスポット価格をつり上げているのではないかと広く噂された。当時は疑惑を裏付ける証拠は確認されずそのままとなっていたが、先週、EUの公正取引規制当局である欧州委員会がガスプロム・ゲルマニアの社内に突然査察に入った。それに引き続き3月31日には、今度はガスプロム・ゲルマニアの親会社であるロシア・ガスプロムが、ガスプロム・ゲルマニアの株式を手放す発表をした。

このロシア側の動きの裏側には、ガスプロムのロシア・ダミー会社が一旦株式を買い取り、そのうえで一気にガスプロム・ゲルマニア自体を清算させてしまうという目論見があった。これを察知したドイツ政府は、週末に対応策を検討し、外国企業によるドイツ国内の重要な産業に関する企業の売買を阻止できる法的根拠に基づき、ロシア・ダミー会社への売却を無効とする決定を行った。

ハーベック経済相は記者会見で、今回の措置は天然ガス配給という重要なインフラ事業が、クレムリンの意向で自由に操作されるのはドイツに取り望ましくない、それを阻止するために取った措置だと説明した。今回の措置は、いわゆる接収ではなく、暫定的に政府管理下に置くもので、その後適切な事業者を選定して会社を引き渡すという考えを明らかにした。

ドイツ政府の狙いは、もちろん、そうしたガスプロムの影響力の排除にあることは間違いない。しかし、EU当局の独禁法の運用を長年みてきた筆者としては、本当の目的は、ガスプロム・ゲルマニアを政府管理下に置く間に、ロシアがガスプロムを通じてヨーロッパでどのような価格操作を行ってきたのかを徹底的に調べ上げることを考えているのではないか、そのように筆者は憶測している。また、ガスプロムは、こうしたドイツ、EU側の意図を事前に察知して、ガスプロム・ゲルマニアを清算してしまおうと考えたのだろう、そのように筆者には思えてならない。ドイツ子会社を清算してしまい、ロシア側の親会社と完全に関係をなくしてしまえば、仮に査察の結果がクロと出て欧州委員会が巨額の罰金を科そうにも、後の祭りということになるからだ。欧州委員会による独禁法関係の判断は、意図的な事案に対して非常に厳しく出るので、罰金も巨額なものが予想され、ロシア側はこれを先回りして回避しようとしたのであろう。

しかし、今後仮に欧州委員会が査察の結果をクロだと発表したとしても、ロシア側は、ドイツとEUがでっちあげた捏造だと非難する姿勢をとるであろうことは容易に予想される。そして、当然のことながら、ロシア天然ガスの取引条件をルーブル払いに変更要求しているのを武器にして、ドイツとEUに対して、サイドから揺さぶりをかけるに違いない。ガスプロム子会社の取り扱いをめぐる、今後のドイツとEUの動きと、ロシアの反応をよくみていく必要がある。

(Text written by Kimihiko Adachi)

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