反出生主義について


 反出生主義について真面目に勉強したことも討論したこともない(生まれてこないほうが良かった: 存在してしまうことの害悪とか読むべきだと思う)。ただ、日々考察しているし、よくネットで見かけているし、その中で私個人のオリジナリティがぼんやりと浮かび上がってきた。また、この、あらゆる時代・地域の人間とって過激であり、もし正しければ多大な影響を及ぼすであろう主義を体系的な考察抜きで支持するのは恥ずかしいことである。そして最近、この主義で論文を書くという人がフォローしてくださったので、この記事を書く。


・反出生主義の根拠とは

 
 反出生主義の、少なくともTwitter上での根拠は二つあるようだ。

 一つ目は、「人生は必ず不幸になる。ゆえに、人生を始める出生は悪である」ということだ。

 これはかなり怪しいと思う。なぜなら、人生が必ず幸福になるのであれば出生も善になるからだ。これは出生の権利に注目しているのではなく、出生の結果について注目している点で、功利主義に近いと思う。

 私は思うのだが、仮に誰かが銃を乱射したとして、弾丸が命中した先が自殺志願者の集団だったら、この乱射は正当化できるのだろうか。また、必ず幸福になるような方法がなんらかの理論や科学によって成立したとして、それは維持できるのか。そしてなにより、絶対などない。絶対に幸福になることも絶対に幸福になることもない。

 ゆえに、「人生には不幸の可能性が絶対に1%は残るが、それを理解したうえで生殖することは許されない。理解されていないのなら周知するべきである」と主張したい。

 さて、二つ目の根拠は、「他人の人生を他人が始めさせてはいけない」ということだ。

 これはカントの権利論的な考えに近いと思う。当然のことだが、他人の人生に干渉することは基本的によくないと思われている。その点、人生を始めさせるというのは最強の干渉だろう。

・生殖は道徳的・倫理的か

 
 もちろん、生殖は義務ではない。我々はしたいからする。その点、趣味と変わらない。

 そう言うと「いや、子供がいなければ社会が成り立たない。人類は絶滅する」と反論が来るかもしれないが、社会が成り立たないことのなにが問題なのだろうか。人類が絶命することのなにが問題なのだろうか。そしてそれらは非倫理的・非道徳的なのだろうか。

 はっきり言うが、問題にしているのは人間である。地球は人間がいなくなろうと存在し続ける。そしてむしろ、国家の維持のために、現在の大人たちのために子供たちを生贄にする。それこそ非道というものだ。ファシズムだ。人間のために社会が作られたのであって、社会のために人間が作られるわけがないのだ。

・出生の責任

 
 子供が不幸になったとして、その責任は取れるのだろうか。もちろん、不可能だし、取れるからと言って生殖が許されるわけではない。子供が不幸になってから、親が責任を取る=幸福にさせるまでにラグがあるからだ。

 責任を取る必要はない、と言う者もいるかもしれないが、そうであれば子供たちも親になんら責任を持たないのだ。

 また、銃の乱射事件が起きたとして、その責任が使用者にあったとしても、銃がなければ銃の乱射事件が起きなかったことは事実である。そして、子供を作らなければその子供が他人を殺さないことは事実である。

 また、不幸がどこに現れるかというと、もちろん人生の中である。なぜなら、不幸とは自然界に存在するのではなく、人間と人間の動き(人生)の中に現れるからだ。つまり、子供を作るとは不幸が発生する場を作るということである。

 また、子供は子供であることを決してやめない。成人や大人という概念は人間が勝手に決めたものであるのにも関わらず、誰かが誰かの子供であることは自然界の不動の事実である。そして、成人や大人の概念がなければ、それらを理由に子供を責任の主体にさせることもできないのだ。

・人間を殺すのは親である

 
 人は病気や犯罪者や事故によって死ぬのだろうか。では、それらのようなありとあらゆる想定外の死因をなくしたとして、人間は不死になるのだろうか。いや、死ぬ。寿命があるからだ。つまり、どんな外的な要因や想定外の死を無くしたところで死ぬ、なぜ死ぬのか、命があるからだ。そしてその命は子供が意図して/欲して手に入れたのではなく、親が押し付けたものである。つまり、人間の死因とは「生まれたこと」であり、「生まれたこと」の要因は「親が産もうとした」ということである。親は、どれだけ慈悲深く見えても、子供を殺すのだ。

 追記

 生まれてこなくなかった、と、生まれてくるべきではなかった、は違う。

・余談・反出生主義はなぜ流行らないのか

 
 面倒なのでやっぱり書かない。書いても論文には使われないだろうし。もしかしたら↓に載っているかもしれない。


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