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新卒の冬、初めてのボーナスは全部シュトーレンに溶けていった

今年のクリスマスは、葉山に住んでいる知人のケーキ屋さんのお手伝いのアルバイトをするはずだったのだけれど、数日前に「もっとお店の近くに住んでいる人で入れる人が見つかった」と連絡があって、予定がなくなってしまった。

実は、クリスマスで賑わう街を、余ったケーキを抱えて歩いてみるのが密かな私の夢なのだが(できれば雪が降っているとなお良い)それはまたいつか。

とにかく私なりにクリスマスだからこそできることを考えた結果、直前キャンセルが出まくってるタイミーでレストランの調理仕込みバイトに入ったのち、書きかけていたシュトーレンの記事を完成させることに決めて、今キーボードをパチパチ叩いている。

シュトーレン狂

シュトーレンが好きだ。

どれくらい好きかと言うと、新卒1年目の冬「クリスマスを待ちながら、毎日スライスして味の変化を楽しむ、というストーリーが好きなんですよね〜」なんて言いながら気になるシュトーレンを買い集めていたら、初めての冬のボーナスを、全額シュトーレンにつぎ込んでいた。

当時の上司は、私の事を今でも「シュトーレン狂」と呼ぶ。

狂った理由

突然だけど、皆さんは初めてのパン屋に行ったら、どのパンを買うのだろう。私は、今後も通ってみたいなと思ったら、まずはクロワッサンとベーコンエピを買うことにしている。理由は、オーソドックスだからこそ、お店のこだわりが一番わかる気がするからだ。

昭和の感じが漂うパン屋さん左、お店の名前に「ブーランジェリー」って入ってる最近の感じ真ん中、天然酵母推しのお店右(個人的独断と偏見に満ちたベーコン・エピ論)

ご存知の方も多いかもしれないが、シュトーレンも、さすがドイツの伝統菓子なだけあって、本場ドイツドレスデンのシュトーレンを名乗るにはそもそも「小麦粉1kgにつきバター500g、レーズン650g、レモンピールとオレンジピール200g、アーモンド150g」でなければならないなど、厳密に定められたレシピが存在する。

しかし、令和5年現在、日本で店頭に並ぶシュトーレンの多くは、そのルールをベースにしつつも、独自の発展を遂げているように思う。
だからこそ、お店の個性がはっきりと現れるのが、ここ数年さらに人気を博している理由であろう。

昨今は、カフェに百貨店、ショコラトリー、スーパーでもシュトーレンを見るようになった。クロワッサンやベーコンエピのように安くはないので、普通は、流石にいくつも買うのは気が引けるのではないだろうか。(おい聞いてるか、新卒時代の私 普通はそういうもんなんだぞ)

スターバックスのケーキ・シュトーレン(2015年)

シュトーレンついての歴史だとか分類、また、超有名店のシュトーレンの話は、書店やキュレーションサイトを見ればよくまとまっていると思う。

今日ここでは、私がここ10年ほどで欲望のままに食べ漁ってきたシュトーレンの話、すなわち私の話をしてみようと思う。

生地なのか、具材なのか。

平成後期から令和にかけて、日本では様々なシュトーレンが生まれ消えていったと思うが、ここ最近はそれらのシュトーレンのアイデンティティが、生地にあるのか、具材にあるのかを無意識に汲み取るクセがついた。

生地をまず堪能すべきシュトーレン

滋賀県の浜大津にかつてあった自然派パン屋さんのシュトーレン (2013年)

まず生地を堪能すべきシュトーレンは、とにかく、とにかく小麦・捏ねる工程・焼き時間・そしてバターへのこだわりがすごくて、パン屋さんが作るシュトーレンに比較的多い印象。本場っぽい、厳格で質素で無骨な感じ。いわゆる「ちょっと持ち帰るには重すぎるだろ」サイズのシュトーレンは、大体こっちに勝手に分類してきた。

焼き上がった後、古くから伝わるレシピ通りに、何度も繰り返し澄ましバターを染み込ませた生地からは、毎日少しずつバターが滲み出てくる。

まぶされた粉糖がそのバターを吸って、まるで夜に再び凍った残雪のみたいに、ギュッと固くなって、ツルリとした質感になって、ところどころひび割れてたりする。

さらに時間が経過すると、真っ白だった粉糖の層に、少しずつバターの黄色味が移ってくる。この状態になるのを敢えて待って売られているシュトーレンも時々見かけるし、見つけると買ってしまう。

包装が簡素なのも、生地から堪能すべきシュトーレンの条件のひとつだと言えるだろう。

上記の浜大津で買ったシュトーレンは、ラップでぐるぐる巻きにされていたのを、直接エコバッグに入れて持ち帰ったのをとてもよく覚えている。

具材から堪能すべきシュトーレン

AMBESSA & MITOSAYA nuss stollen 2023 (2023年)

一方で、ナッツやフルーツ、柑橘のピールを始めとした多種多様な具材に幅を利かせているシュトーレンは、具材にアイデンティティの比重がかかっているシュトーレンだと思っている。

シュトーレンに練り込むドライフルーツの王道といえばレーズンだけど、代わりにブルーベリーやクランベリーにしてみたり、アーモンドの代わりに栗を入れてみたり。オレンジやレモンのピールは、柚子や酢橘に姿を変える。

写真のように具材をペースト状にして、ぐるりと巻き込んだものは、「ヌス・シュトーレン」と呼ばれ、かくいうわたしも、やはり断面がいつもと違うと、テンションが上がってしまう。

リビエールのシュトーレンとうちの猫(2022年)

具材にバリエーションが出てくると、生地もそれに引きつられて、抹茶味やショコラ味に姿を変える。シュトーレン自体の色が緑色になったり茶色になったりするので、見た目にインパクトがあって華やかだ。

粉糖はいわゆる「なかない(溶けない)粉糖」を使っているのか、そもそもバターの比率が少ないのか、時間が経っても純白でサラッとした状態を保っているものが多い。(今年買ったヌス・シュトーレンはなんと粉糖が一切ついていなかった!これはこれで食べやすくて良い!)オーソドックスなシュトーレンは一般的に半年ほどもつと言われているが、具材が多いものは糖度が低く、水分量が多いからだろうか、足が早い(賞味期限が短い)のも多い。

そして、小ぶりなサイズで、ラッピングが凝っているのも、具材を堪能すべきシュトーレンに多い気がする。スライスする前から、何枚も写真を撮りたくなる。

リビエール シュトーレンの包みがキリストの「おくるみ」に似ているところを忠実に、かつ可愛らしく表現しているところにリビエールらしさがある (2022年)

無論、これは私が勝手に分類しているのであり、お店側は不本意かもしれないけれど、でもやはり、特徴を握るきっかけがあるからこそ食べ終わっても記憶に残り続ける。

それに例外だってたくさんあって、例えばパン屋といっても、ハード系のパン専門のパン屋と、デニッシュ系が得意なパン屋じゃまた違うし、店名に「ブーランジェリー」とついてるパン屋さんのシュトーレンは、思わず誰かへの贈り物にしたくなる状態で店頭に並んでいたりする。リビエールさんなんかは、去年とはまた全然違った印象のシュトーレンを販売されていた。

そんな違いが、シュトーレンは本当に楽しい。

シュトーレンに狂った後に残る弊害

オーセントホテル小樽 プレミアムシュトーレン(2017年)

歴史が誇る完全メシ・高栄養食・シュトーレン

シュトーレンの作り方を知っている人達ならご存知の通り、シュトーレンは保存性を高めるためにすましバターの洗礼と、粉糖のお清めをを受けている。そして生地にはナッツやドライフルーツ。
これぞ糖と脂のマリアージュの模範解答、シュトーレン。

まじで、ただただ単純に、超高栄養食。
歴史に証明された完全メシ。

食べ過ぎると普通に胃がもたれて、普通に太る。
お正月前に身体を甘やかしてしまうと結構大変。聞いてるか、新卒冬の私。

お財布も注意

シュトーレンに胸がワクワクしてしまう人種は、だいたいガレット・デ・ロワにも心が踊るタイプだと思う。そうだろ?

これはウルーウールのガレット・デ・ロワ 

ガレット・デ・ロワというのはまじで簡単に説明すると、フランスで年始に食べる伝統菓子で、パイとアーモンドクリームで作る。表面に切り込みを入れてつける模様が可愛い。

中にフェーヴと呼ばれる小さな陶器の人形が入っていて、切り分けられたガレット・デ・ロワを家族や親戚と分け合って、この人形が入ってたら当たりで、1年幸せにいられるとも聞くし、場合によってはお願いごとを聞いてもらえたりするらしい。(中目黒に近いパティスリー・ラ・グリシーヌさんのカウンターにはこのフェーヴがいっぱい並んでて可愛いです。)

こちらも最近はいろんなところで見かける。価格的にはシュトーレンより少しだけ安いかな・・・?くらいなんだけど、表面の模様とフェーヴが色々と凝っていて、まあ、集めたくなるわけです。特にフェーヴ。もうこれも、気を抜くと、何回年始迎えるつもりなんですか、ってくらい買っちゃうことあるから気をつけて。聞いてるか、新卒のわt

今年の東京ではフェーヴだけ売ってる文房具屋さんが多かった気がする。奥渋のSPBSにもあった。

そして、そうしているうちに、“日本のバレンタイン”がくる。私は実はチョコレートがそんなに得意ではないからまだよかったものの、これでチョコも好きだったら、新卒の厳しい冬を越せていなかったに違いない。(自ら招いた厳しい冬のくせに)

てか最近のバレンタインの受注、まさかの前年11月とかから始まることあるよね?みんなどうやって蒐集欲コントロールしてるの?もしかしてみんな私みたいに買い込んでるのかな?

記憶に残るお店とシュトーレン

さて、ここからはシュトーレンを見つけては買っていた私の、記憶に残っているシュトーレンとそのお店について書いてみたいと思う。

1.ウルーウール(滋賀・甲南)

ブルーベリーのシュトーレン  (多分2013年)


滋賀県の甲南という田舎にある、パンとお花のお店「ウルー・ウール」
旦那様がパン職人で、奥様がフラワーアレンジメントというハイブリットな、小さなお店だ。

場所は滋賀県甲南。信楽に近いと言えばイメージしやすいだろうか。

正直、公共交通機関でお店に行くのは難しいと思う。お店に行こうと思うと、車で山を切り拓いて作った農道や、田舎特有のひらけた景色に一本続くような道路を進んでいく。田んぼ沿いに小さな看板が立っている。車一台が通るのがやっとな上り坂になっている畦道の中腹にさらに細い上り坂があって、その上にお店がある。
とにかく、初見で考えなしに突き進むととんでもないことになるので、初めてお店にいくときは、大通りの邪魔にならないところに一度車を一時停止して、お店の方の様子を見にいった方がいいかもしれない。

慣れれば、通い続けると、四季のうつろいを堪能できる立地だ。春は桜が咲いて、夏は緑が濃くなって蝉の鳴き声はうるさいくらい。秋は横の田んぼの稲穂がキラキラ黄金色に輝いて、冬はあたり一面が銀景色になる。時折現れる田んぼのおじちゃんはレアキャラで、パンすごい人気みたいやな、と声をかけてくれる。お店の中に横に長い小窓があって、そこから見える裏山の景色が借景みたいで、これまたとっても素敵なので、行ったら見てみてほしい。滋賀にいたときは、水を張りたての田んぼだとか、雪が溶けて少し淡い緑が見えてくるような、季節と季節の変わり目まで見つけるくらいに足繁く通っていた。

華やかなデニッシュ類も豊富なこちらのお店の定番は、ブルーベリーのシュトーレン。ブルーベリーの酸味がバターたっぷりの生地との相性ばっちりで、そして口当たりが繊細で、どれだけでも食べられる感じ。最近は抹茶味なんかも作られていて、そちらもおすすめ。
こちらは少しだけ時期をずらしてガレット・デ・ロワも出されてます。こちらも大変に美味。

2.はちはちインフィニティ(京都) 

3000円 2015年 

当時の日記を読んでると「3年越しの恋、一昨年からの憧れ、はちはちインフィニティのシュトーレン」と書いているんだけど、そんなことは全く覚えてない。手に入れてしまえば最後、3年もの片想いを忘れるだなんて、私も現金な人間である。

私がこのお店に通っていたのは京都の西陣にお店があった時のことなので、今下鴨にある店舗「自然酵母パンの店 はちはち」の前身の店である。当時ドイツパンにはまっていた私は、京都や滋賀のドイツパンなお店をほっつき歩いていた。そんな中で見つけたのが当時のお店だった。

初めて行った時は正直迷った。バス停からも少し距離があった気がする。竹藪の中にあった古民家だった。

お店、というかもはや普通に家なので、玄関は靴を脱いで入る仕様。かなり上がり框の高さがあって、建物の古さを感じた。居室らしいところにいくつかこたつ机が置いてあり、神棚であったであろう場所に、ずっしりとしたカンパーニュやディンケルブロートが並べられていた。

窓から見えるのは雑木林とも取れる中庭で、日本のドイツパン専門店であそこまで侘び寂びを感じられるのはあのお店しかない気がする。新店舗ができる頃には東京に来てしまっていたので、まだ行けてない。どんな感じなんだろう。

オーナーは、わかりやすく言うならば、多分ドイツパンの変態だと思う。THE・職人で、基本的には一人でお店を切り盛りされていた。時々女性がお手伝いに来られていたのだが、何かの拍子に「母です」と教えてもらったことだけ覚えている。お店は雰囲気が変わっているかもしれないけれど、オーナーさんはきっとあの感じなんじゃないだろうか。

書いてたら少しずつ思い出してきた、確か初めて行った年は、シュトーレンはもう売り切れていたのだったと思う。翌年は仕事にかまけてたらうっかり忘れたんじゃないかな。

ガッツリ本場志向のシュトーレン。店頭ではハーフサイズなんかでも売ってるみたい。美味しく食べるにあたり、スライス厚に指定があったのもものすごい覚えてる。

今年の分、まだ買えるあたりも、ものすごい本場っぽい。通販で買うなら、フルーツケーキも買ってみるといいと思います。ケーキというか、小麦で繋いだフルーツの集まり。結構ハマります。

3.wakkaya(滋賀県多賀 閉店済)


こちらは閉店してしまったのは知っているものの、どうしても忘れられないお店とシュトーレン。

滋賀県の湖東、もう少しで湖北地方くらいの場所に位置する、多賀大社の参道に、Wakkayaという小さなドーナツとパンのお店があった。オーナーは鎌倉で修行をされたのち、2012年に多賀にてお店をオープン。

できるだけできるだけお店に近い場所で作られた食材を使おうとする姿勢と、その優しいパンやドーナツが好きで、車を1時間くらい走らせて定期的に通っていた。滋賀というとひとくくりに田舎な感じがするかもしれないけれど、多賀は結構本当にめっちゃしっかり田舎で、具体的には消滅した限界集落がいくつも存在するくらいで、Wakkayaさんのオーナーさんはだからこそ多賀を選んでいた気がする。(そして私が大好きな宗教施設もたくさんあります) 

Wakkayaのシュトーレンはインパクト大の茶色だった。チョコレートなどを入れているのではなく、きび砂糖の色だ。中までしっとり仕上がっているのが印象で、複雑な甘味がクセになる。包装紙がほんっとうに可愛かった。私があまりにもここのシュトーレンの話をするもんだから、滋賀を離れて上京してからも、私のことをシュトーレン狂と呼んでいた上司が、Wakkayaのシュトーレンを毎年買って送ってくれた。


後にクグロフなんかも売っているのを見つけたらしく「私は普通のケーキを買おうと思います」という内容の捻くれた手紙と共に送ってくれたこともある。その翌年、お店は惜しまれながらも閉店。

オーナーさんは店じまいした後奄美大島に移住されてお料理教室などをされているみたいなので、また、何かご縁があれば、きっとあの感じをまたどこかで食べられるのかもしれない、と思うと、これがまた、生きる力になる。

最後に

クリスマスイブに6000字もしたためてたら22時なんだが〜〜?
これ公開できたらご褒美に明日代官山TSUTAYAで欲しかったけど我慢してたクグロフのスノードーム買いに行くんだ〜〜!もう決めたもんね〜〜!!!
皆さんの記憶に残ってるシュトーレン・クグロフ・パネトーネ・レブクーヘン!もしあったら教えてください。来年買います。いや、今年買ったらごめんなさい。

みなさんメリークリスマス!

#創作大賞2024 #エッセイ部門




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