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深海のタコの柔軟性。

気づかなかったが肩こりがどうもあるようで、よく日光の差し込む南向きのリビングで柔軟体操をやってみる。両手を後ろに組んでグイッと上に持ち上げるやつを。

ぐぐぐっと持ち上げてみると、背中周りから肩にかけて筋肉が伸びるようで気持ちがいい。


でもある程度の高さまで持ち上げてみると、少しの痛みとそれにともなう不快感があるので、ちょうどいいところでストップしてみる。

この様子を見ていた妻に「旦那、ぜんぜん腕が上がってないよ」と半ニヤケで言われた。自分としては、めいっぱい腕を上げているつもりなのだが、客観的第三者がこの様子をみると全然上がっていないらしく、この様子はひどく滑稽に映るようだ。


「これでも高校時代は柔軟性のイトーと呼ばれたのになぁ」

私のこの言葉を妻は信じられないようで、私としては過去の栄光を証明したいから一生懸命に説明してみる。


私は高校時代サッカー部にいたのだが、選手としてのタイプは魔術師マジシャン系で、自他ともに認める柔らかなボールタッチで見るものを魅了した。


こうやって恥ずかしげもなく書くと、いかにも「自称」の域を出ないが、本当なのだ。

監督からは「よぉ、魔術師マジシャン、今日の調子はどうだ?」と言われて「へい、絶好調でござんす」と媚びながらにやけていたし、普通の人ならばヘディングをしそうな高さのところでも右足をニュイっと伸ばし、まるで手でボールを触るように足を使ってボールを収めたもので、その様子をみたチームメートからは「マジでジダンすぎる」とため息が漏れていたから本当なのである。


もしくは柔軟体操をすれば、両足は壊れたコンパスのように広がり、前屈をすれば伸ばした足の裏に両手がベタリとくっつく、さながらタコのような男だった。あのころの私をさして「深海のタコ」と評してくれる人がいなかったのが惜しい。


高校生というのは15歳くらいだが、それが今では33歳になり、自称「深海のタコ」は見る影もなく「陸上のおっさん」と化している。


「おかしいな、昔はタコだったんだけど」


部屋の中で一生懸命に柔軟体操をしてみても、足は上がらず、背中は硬くまるまる一方でタコはタコでも形状記憶の茹でダコのようであり、妻は呆れ顔で「マジでタコ」と言う。


ここで言えるのは、身体の柔軟性は長いこと放置していると劣化して硬く凝り固まるということで、若さを維持するためには多少の負荷をかけ続けなければならないということ。そしてそれは精神にも同じことが言えるということ。


プロ野球選手が引退し、脚光を浴びない解説者にまわるとたちまち太っていく。

「大谷翔平が二刀流に挑戦する」という報道が出たときも茹でダコの人たちは「そんなのムリだ」とか「プロ野球を舐めるな」とか言ってたけど、いいものをいいだけ食べ、新しいものを取り入れず、適度な運動をしないから柔軟性のないタコになるわけで、あの人たちがマジでタコだったのならば歯ごたえがゴムのようにありすぎるタコになるのかな。

イチローが引退してしばらく経つが、たまにニュースに出てくる彼をみると、現役当時と変わらない引き締まった身体をキープしていてすごいなと思う。

そういや大谷くんが二刀流に挑戦することを表明したとき「やってみればいい」とか「おもしろいと思う」と好意的だったのはイチロー、松井秀喜、落合博満あたりだったから、彼らは引退してもなお深海のタコだったのだろう。


つまりは若さを失ったとしても柔軟性を維持するためには、結局日々の鍛錬、それは1日3分でもいいと思うんだけど、そういう「負荷ストレス」を自分にかけなきゃいけないわけだから、これは精神的な柔軟性にも似ているなと思う。新しいものを取り入れることも柔軟性がないとできない。



私の場合、身体の柔軟性は失われつつあるけれど、精神だけはタコのようでありたい。だから頭の新陳代謝を上げ、日々に少しの負荷をかけてあげる。


そう考えると、こうして文章をしたためるというのはまずまずの負荷がかかるわけだから、これからも続けていかないとな、と思うわけである。

「書く」という一点においては、いつまでも深海のタコのようでありたいもので、新しいものを「いいね」と言ってふにゃふにゃと受け入れるような人間タコでありたいのだ。


<あとがき>
若さを失い、運動もしない日々が続くと身体がぶくぶくになっていくのって、人間のバグですよね。神は設計をミスってるんじゃないかと思ったりします。でもこのあとがきを書いていて思ったのは、神は日々の鍛錬を怠るなよ、と思ってこういうふうに設計したのではないかとも思うわけです。……いや、そんなこと思ってない。食べたいものを食べて好きなだけ横になっていても太らない永遠の身体を手に入れたいものですね。今日も最後までありがとうございました。

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