ドッペルゲンガーを探して 第二十九回
子どもの頃から、喧嘩さえまともにしたことがなかった。荒っぽいことは見るのも苦手で、そんな場面に出くわすと浩市は一目散に逃げ出した。卑怯者と思われようが、小心者と蔑まれようがそんなことは別に構わなかった。暴力は自分には向いていないと浩市は思っていた。それがどうしたことだ。マヤを何度も何度も殴りつけ、その衝動を抑えることができなかった。そして飯田を殴ることで恐怖や不安を一瞬にして自分のなかから消しさることができた。何もかもこれまでの自分とは違っていると浩市は思った。自分がなにか