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今日100番目のお客様は今日初めてのお買い物

買い物をしたり外食したりすると
たまに感じの悪い接客を受ける事がありますよね。


僕がよく行っていたコンビニには夜遅く行くと決まって感じの悪いおじさん店員がいました。

お弁当をレジに持って行くと
『めんどくさい』を隠そうともせず
「ポイントカードお持ちですかー」
と吐き捨てるように言う。
一切の抑揚を捨てたセリフ回し!
THE 棒読み!立派!

「いえ、ありませ、、」

僕が途中まで言うとおじさんは喰い気味に
「あたためますかー」
と同じ調子で被せてくる。

そしてその後も

僕「あたためお願いしま、、」
おじさん「お箸つけますかー」
僕「1膳くださ、、」
おじさん「袋はいりますかー」
と、次から次へと無表情で激しいパンチを繰り出す。
そして僕の答えには返事もしない。
表情1つ変えずにアイコンタクトもない。
ただ、お箸は入れているから聞こえてはいるようだ。
僕はつい奥歯に力が入る。

会計が終わって商品を渡す時も
「ほれ、これ持ってとっとと帰れ」みたいな投げやりな態度で渡される。
おじさんのせいで弁当の味が3割落ちる気がするわ。

腹が立ったので
もうこのコンビニには来たくなかったが、
車で帰宅する時はこのコンビニが1番都合の良い場所にあったので何度も行く事になってしまった。

「今日はあのロボットみたいな人がいませんように」
そうお祈りしながら行っても
83%の確率でおじさんは待ち構えていた。

気にしないようにしようと思っても
いつも寸分の狂いもない棒読みで僕の言葉を遮る感じの悪いおじさん。
僕のイライラは頂点を迎えた。

ある日僕は我慢出来ず、ついに実力行使に出てしまった。

いつものようにレジへお弁当を出すと同時に
「ポイントカードありません温めてくださいお箸とスプーンください袋ください」
僕からの先制攻撃でおじさんの手を全て封じてやった。

おじさんはハトが豆鉄砲を食らったような顔をした。
人ってホントにこんな顔するんだ!って思うくらいに見事なハト顔だった。

そして、びっくりしすぎたおじさんはバグってしまった。
「えっと、、あー、あたためますかー?」
そう言いながらオロオロしている。

その姿に目の当たりにすると
「さっき言ったけど!」って追い討ちをかけるのは可哀想に思えてしまって
「はい、お願いします」
そう答えた。

するとおじさんは落ち着きを取り戻したようで、困ったことにいつもの感じの悪いおじさんに戻ってしまった。

それでもあのハト顔が見れた僕は満足だった。
そして僕がこのコンビニへ来る役目は終わった気がして、それ以来あのコンビニに行っていない。
さよなら、ポッポちゃん。


————-

腹の立つ接客に出会うともちろんムカつく。
でもそれと同時に昔の自分を反省してしまう。

僕は20代の頃、デパートの食品売り場の店員だった。8年くらいかな。接客業をしていた。

毎日店には何百人とお客さんが来て、
僕だけでも1日に何十人と接客をした。

中には変なお客さんもいて、
買い物のついでか知らないが何の脈略もなく嫌味を言う人もいるし、
お金を払う時にまるで投げつけるように乱暴に出す人は意外と多い。

お釣りとレシートを渡そうとすると、レシートと小銭のミリ単位の隙間に頑張って手を入れようとしたり、
僕らがお釣りを手に渡そうとする瞬間に手のひらをくるりとひるがえすもんだから小銭が床にぶち撒かれたり、
そんな事は日常茶飯事。
どうやら彼らはレシートを受け取りたくないらしい。
レシートを受け取ってしまうと末代まで呪われてしまう一族に違いない。

そんなクセのあるお客さんに心を折られたり、長時間の勤務のなか次から次へ忙しくお客さんを捌いて売上予算を追いかけているうちに僕のホスピタリティがどこかに消えてしまう事もたびたびあった。

自分の体調や気分に振り回されてサービスにムラが出まくり。
嫌な態度を取ってしまった自覚もある。
とうていプロとは呼べない販売員だったと今の僕なら分かる。
でも当時は自分で気付く事が出来ないままだった。

僕はすごく感じの悪い接客をしていただろう。思い出すと恥ずかしさと申し訳なさで心がいっぱいになる。
いや、心がいっぱいどころか
心から溢れ出した恥ずかしさが部屋中を満たし、その中で溺れそうになる。


気持ちが腐っている時に人と接する事の楽しさを思い出させてくれたのはお客さんだった。

お店のガラス張りの厨房にいると
買い物に飽きた子供達が集まってくる事がある。
フライヤーやシンクや冷蔵庫と僕が作業で動き回ると子供達もガラスの向こうであっちに行ったり、こっちに行ったり。
走り回る。

作業台の下の冷蔵庫から材料を取り出そうとしてしゃがむと小さな子供は僕を見失う。
そして立ち上がって僕が現れるとまた嬉しそうにはしゃいでいる。

それが楽しくて、僕は仕事そっちのけで子供達とガラスを挟んでかくれんぼをしたりした。


杖をついてゆっくりゆっくり歩いて来たご婦人が杖を忘れて帰る事もしばしばあった。

会計の時お財布を出す為に杖をちょいと脇に立て掛けて、帰る時には杖を忘れてしまうのだった。
僕は忘れられた杖に気が付いて慌ててお客さんを追いかけるんだけど、
皆さん帰りは杖がなくてもスタスタと素早く歩くので見失いそうになる(汗)

追いついて杖をお返しすると
恥ずかしそうにしながら感謝される。
そんなやり取りが嬉しかった。

人と接する事の楽しさを感じると僕は思い出す。

僕にとって今日100番目のお客様でも、そのお客様にとっては今日1回目のお買い物かもしれない。

だから1番目のお客様でも100番目のお客様でも同じように丁寧に気持ちの良い接客をして、楽しい気持ちで帰って欲しい。

そう反省するのだった。

ただ、忙殺される日々の中で無自覚にまた気持ちが腐っていく事の繰り返しでもあった。
本当に未熟者だった。

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そんな自分の経験もあって、
今の僕は感じの悪い店員さんに出会ってしまうとムカつく気持ちと、過去の自分の反省と、店員さんへの同情とを同時に感じる。

だから今はせめて客として
自分の事情でイライラを抱えていても、感情を店員さんへぶつけないようにしている。
店員さんに気を遣って自分が無理する訳ではないけど、人と人が接する上でお互いが嫌な気持ちにならない程度の最低限の節度は保つ。さらにはお互い良い気分になれたら最高だ。
お客様は神様ではない。
お客さんは人、店員さんも人なのだ。

『コンビニ店員に感じ良く接するお客さん選手権』があったら40代男性部門で上位に食い込む自信がある。

感じの悪い店員さんにも客であるこちらが丁寧に接していると、途中で店員さんがハッとするのか態度を改めてくれる事も多い。

それでも頑なに感じの悪い接客を貫く店員に対しては我慢出来ずにこちらも感じ悪くなってしまう事もある。
そして2度とその店には近寄らない。

販売の接客の話に限らず、日常の中で誰と接する時でも
『お互い気持ち良く過ごせる接し方をしようよ』
という考えが僕の中に定着してきた。
イライラを他人に伝染させる権利もなければ、伝染させたところで良い事なんかありゃしない。

今なら昔よりずっといい接客が出来そうだからもう一度接客業をしてみたいなと思う事がある。

でも図太さも身に付いてきたので
理不尽な態度のお客さんをけちょんけちょんに言い負かしてSNSで炎上しそうでもあるから
やめておこうと思う。




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