横溝正史の魅力
こんにちは、ぱんだごろごろです。
皆様、それぞれにお気に入りの小説家や漫画家さんがいらっしゃることと思います。
今、私のエンターテインメント部門での一番のお気に入りの小説家は、何度も書いているように、大沢在昌です。
が、彼以外にも、ほぼ50年愛読し続けている作家がいます。
それは、横溝正史です。
江戸川乱歩も同じく、愛好している作家ですが、事あるごとに、つい手に取って読みたくなるのは、横溝正史なのです。
私にとって、横溝正史がそこまで親しみやすいのは、一体なぜなのか。
先日、ふっと、その解答ではないか、と思われる理由が思い浮かびましたので、今日はそのことについて書いてみたいと思います。
中学生の頃、一番好きだったのは、「女王蜂」でした。
絶世の美女が登場する、華やかなストーリーで、舞台にも温泉(修善寺)が使われるなど、私の好み満載だったのです。
美女に温泉、私の好みは、中学生の頃から変わっていないのですね。
改めて認識しました。
そして、人生の晩秋から初冬に向かっている今、一番好きなのは、「悪魔の手毬唄」です。
あれ?
やっぱり、この作品も、温泉(正確に言えば、冷泉)が舞台ですね。
そして、美女が三人も登場します。
私の好みって、人生の早春の頃から、まったく変わっていないのですね。
どういうことでしょうか。
それはともかく、横溝正史の魅力は、まず、その紋切り型の文章表現にあります。
紋切り型と言うと、決まり切ったもので、型通り、新鮮味がない、などと、悪いことのように言われますが、読み手が共通する文化を持っている場合、多くを語らずとも了解してもらえるという利点があります。
それも、人目をはばかるような話題の場合、それはもっとも有効に働くのです。
例えば、横溝正史の作品によく出てくる、不倫や不義密通などにおいて。
作品発表時の読者たちは、正史の語るひと言で、ああ、これにはこういう町や村の歴史や背景があって、周囲の人たちは、主人公にこういう態度を取るだろう、とわかるのです。
それは、物語を聞く人、読む人に、共通した理解の土壌(決まりごと)があって、その上で、物語は進展して行く、ということでもあります。
古典文学などを見ても、貴種流離譚などは、その種のよく知られた例です。
身分の高い貴人は、若い頃に、流浪の運命を余儀なくされます。
『源氏物語』の「須磨・明石」のくだりが一番有名な例ですが、『竹取物語』(かぐや姫)なども同じ貴種流離譚の流れを汲む物語です。
美しく高貴な姫が、赤ん坊の姿で、竹の節から生まれてきました。
最後には、姫の生まれ故郷である月から迎えが来て、姫を月の国に連れて帰りました。
では、なぜ、月から迎えが来たのでしょうか。
姫の罪を償う期間が明けたからです。
姫は月の国で罪を冒し、罰として、地球の国に島流しになりました。
姫は、赤ん坊の姿になって、地球の島国に生まれることで、人生をもう一度やり直す修行を行い、クリアできたので、無事に月の国に戻れることになったのです。
当時の人は、かぐや姫の物語を読みながら、それが貴種流離譚で、姫はいずれ月の国に帰ることを知っていました。
そして、物語には何も書かれていませんが、かぐや姫がどんな罪を冒したのかもだいたいわかっていました。
高貴な、若く美しい姫が冒す罪。
それは恋愛沙汰に決まっていると、当時の人たちは知っていたのです。
道を踏み外す罪。
不倫です。
若く美しいが故に、かぐや姫は、月の国の男たちの心をかき乱したに違いありません。
さらに高貴な生まれの姫は、自分の行為、言動が周りにどんな影響を与えているか、知ろうとはしませんでした。
高貴な育ち故に、あまりに無邪気で、男の気持ちというものに無頓着だったのです。
それが彼女の罪でした。
かぐや姫の相手はどんな立場の男だったのでしょう。
姫と逢瀬を重ねるからには、かなりの権力を持つ実力者であったでしょう。
不倫と言うからには、結婚できない相手、つまり妻子のある男です。
当時の読者たちは、かぐや姫が月の国で、大の男を狂わせ、分別を失うような振る舞いをさせたであろうことを、容易に想像できたのです。
話を元に戻して、横溝正史の魅力は、紋切り型の他に、古風な言い回しをするところにもあります。
一例を挙げれば、「悪魔の手毬唄」の中の仁礼嘉平の言葉。
『据え膳食わぬは男の恥と、つい』
新明解(国語辞典)さんに解説してもらいましょう。
横溝正史の文章には、昔なつかしい魅力があります。
古風な言い回しや紋切り型の表現が多いのも、書いてあるものを読むというより、耳のそばで、物語が紡ぎ出されるのを聞いているかのような快感を生み出す要因の一つになっているのではないでしょうか。
横溝正史の魅力はここにあるのでは、と思っています。
いつでも帰れる、田舎の実家のようなあたたかさと懐かしさを感じるのですよね。
江戸川乱歩は、それに対して、グロ度がちょっと高めと言うか、読む時に、少しだけ気が張るのです。
『孤島の鬼』のように、心底、偏愛する作品もあるのですけれどね。
今日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。
『かぐや姫』のくだりは、私が自分の考えをテキトーに書いたものですので、そのおつもりでお読み頂けると幸いです。
*タイトル画像は、ゆみなかさんからお借りしました。
ありがとうございました。
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