『壺中美人』(横溝正史)と『孤島の鬼』(江戸川乱歩)
こんにちは、ぱんだごろごろです。
このところ、通勤時間を利用して、近しいnoterさんから教えて頂いた本を読んでいました。
そのうちの一冊が、コメント欄で、ももまろさんから教えて頂いた、横溝正史の『壺中美人』です。
『病院坂の首縊りの家』の方は、家の本棚にあったので再読し、ついでに『悪霊島』も読み、『壺中美人』は、電子書籍店のコミックシーモアで購入しました。
『壺中美人』を読み始めて間もなく、既視感を覚えました。
舞台は成城、走って逃げる若い女を追う巡査。
決め手は、巡査の、
『お嬢さん、奥さん』と、走りながら呼びかける言葉でした。
相手が若い女ゆえ、未婚か既婚かわからず、お巡りさんは律儀にも、どちらでもいいように、両方の呼びかけをしていたのです。
このシーン、絶対に覚えがある、と思って、本棚を探したところ、案外あっさり見つかりました。
『支那扇の女』です。
『壺中美人』では、川崎巡査でしたが、『支那扇の女』では、木村巡査でした。
二人とも、若い女を追いかけるに当たって、『おい、止まれ』などとは言わず、『お嬢さん、奥さん』と呼びかけるのです。
やさしいですね。
追いかけて、どうなったか。
その後の展開は、もちろん二つの作品では、まったく異なります。
犯人像も動機も違いますので、安心して楽しめました。
さて、その謎解きに関してですが…。
横溝正史は、ある登場人物に、トリックを使っています。
それは、別の作品にも、使われていたもので、性別を瞞着する(ごまかす)トリックなのです。
それは、異性愛者と見せかけて、実は同性愛者だった、いや、その実、本当は…?
ネタバレにならないように書くのは難しいのですが、横溝正史の別の作品では、美少年に女装させて、周りには女性と思わせた上で、付き合っていた年上の女もいましたよね。
横溝正史は犯罪を描く上で、変態的な性愛を多くテーマにしています。
さて、横溝正史の盟友に、江戸川乱歩がいます。
いずれ劣らぬ、ニ大巨頭、日本が誇る人気探偵小説家の二人ですが、作品中での、同性愛の理解、表現、解釈においては、横溝正史より、江戸川乱歩の方に一日の長があると言わざるを得ません。
それはもう、江戸川乱歩の『孤島の鬼』を読めば一目瞭然、それに比べると、数多の作品における、横溝正史の男性同性愛に関する理解は、ある作品中の、「同性愛病患者」という言葉に表されているように、現代の我々から見ると、古めかしいものに思われるのです。
もっとも、それも無理のないことで、横溝正史と違って、江戸川乱歩は、『孤島の鬼』を書く以前から、男色に強い興味を持っていました。
あの、南方熊楠や稲垣足穂までもが高く評価したという、男色研究家の、岩田準一は、乱歩の仲の良い友人でした。
乱歩と岩田準一の二人は競って、男色作品の文献を渉猟して、研究をしていましたから、その成果が『孤島の鬼』でも、遺憾なく発揮されたのでしょう。
『孤島の鬼』のクライマックス、地底の迷路での、主人公蓑浦へ向けられる、高貴な風貌を持つ美青年、諸戸の悲痛、切実な恋心。
乱歩自身は、この作品中に同性愛の要素を取り入れたことで、「筋を運ぶ上で邪魔になった」と言っていたらしいのですが、私は無論そうは思わず、同じくそうは思わなかった人として、作家の筒井康隆がいることを挙げておきます。
彼は、乱歩の最高傑作は、『孤島の鬼』だと断言しており、私もまた同意見なのです。
簡単に言ってしまえば、健全な人が、変態性欲を理解しようとしていたのが横溝正史で、自身の内に、変態的なものを隠し持っていたのが、江戸川乱歩だったのではないかと。
金田一耕助が愛したのは、獄門島の早苗さんでしたね。振られて、独身のままでしたが。
明智小五郎が妻にしたのは文代さんでした。けれど、後年、文代さんは高地療養に行き、明智が一緒に暮らしていたのは、小林少年(青年)でした。
そんな風に読んでいます。
今日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。
間もなく梅雨入りでしょうか。
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