2020年声優曲kieru的BAEST10

■はじめに。
個人用メモ。これは2020年の声優曲の記憶を保存しておくメモです。
①~⑩は発売順で並べました。
個人的な記憶と深く結びついた楽曲については、記録として言語化しておくことが重要であると考えています。
昨年までは、気になった声優楽曲の生歌唱を聴くために、その声優のソロライブやアニソンフェスなど各所を巡って、実際にその生のパフォーマンスを体感してきた。その体験こそが、私の豊潤な声優音楽体験に繋がってきたのは否定できない。だが、今年はコロナの影響で実際に足を運んで”生”で体感したライブは多くない。またそのライブやイベント開催日までに、その声優楽曲を聴き込むということを意識的にやっていたため、今年はその”聴き込み”という工程もなくなってしまった。
だが、それでも今年の記憶に残った声優楽曲は言語化しておくべきであると思いました。その結果として、楽曲の良さというよりも個人的な印象が強い曲、将来記憶に残したい楽曲が選曲されたように思える。いや、それはいつものことかもしれないが。

■2020年声優曲kieru的BAEST10
①SPY/上坂すみれ
②いつか、また。/上田麗奈
③SCREEN GIRL/諸星すみれ
④Lost emotion/星乃雲母(CV:加隈亜衣)
⑤ロマンロン/楠木ともり
⑥アンチテーゼ/夏川椎菜
⑦ガラカブ・ラブ/大野真(CV:明坂聡美)
⑧恋のうた(feat.由崎司)/由崎司(CV:鬼頭明里)
⑨Aile to Yell/TRINITYAiLE
 (天動瑠依(CV:雨宮天)、鈴村優(CV:麻倉もも)、奥山すみれ(CV:夏川椎菜))
⑩サヨナラから始まる物語/星見プロダクション
 (長瀬琴乃(CV:橘美來)、川咲さくら(CV:菅野真衣)、一ノ瀬怜(CV:結城萌子)、伊吹渚(CV:夏目ここな)、佐伯遙子(CV:佐々木奈緒)、白石沙季(CV:宮沢小春)、白石千紗(CV:高尾奏音)、成宮すず(CV:相川奏多)、早坂芽衣(CV:日向もか)、兵藤雫(CV:首藤志奈))

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①SPY/上坂すみれ
発売日:2020/01/22
作詞:大槻ケンヂ
作曲:NARASAKI
編曲:NARASAKI
(アルバム「NEO PROPAGANDA」収録曲)

強制的にソ連好きになったソ連のスパイによる恋の歌。
「NEO PROPAGANDA」の中でも個人的に最も聴いた曲が「SPY」である。
「NEO PROPAGANDA」はかなりバラエティ豊かのアルバムに仕上がっている。こんなにトンチキな声優アルバムも中々最近ではみられないだろう。上坂すみれだからこそ、このようなアルバムが世に出てくる。
個人的に気になる楽曲を列挙しておく。
・「すーぱー呂布呂布ぱらだいす!」(作詞・作曲・編曲:MOSAIC.WAV)
・「快走!ラプーチン」(作曲・作曲・編曲:アイキッド(ザ・リーサルウェポンズ))
・「last sparkle」(作詞・作曲・編曲:吟(BUSTED ROSE))
・「女神と死神」(作曲:上坂すみれ、作曲・編曲:渡部チェル)
・「ウエサカダイナミック」(作詞・作曲:ビートまりお(COOL&CREATE) 編曲:ARM(IOSYS))
・「夜勤の戦士の作」(作曲:松浦勇気、作曲編曲:表楽哲也)
・「アウターモスト-超自然恋愛-」(作曲・作曲・編曲:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND)
・「ネオ東京歌歌」(作曲・作曲:志磨遼平、編曲:長谷川智樹)

この楽曲提供者の層の厚さ=上坂すみれの声優、キャラソン歌唱のキャリアの実績と楽曲提供者の音楽への興味が多く含まれていることがわかる。
その中でも個人的な理由で「SPY」をよく聴いていた。
作詞:大槻ケンヂで作曲:NARASAKIの上坂すみれ楽曲は「パララックス・ビュー」以来である。
ここで少し話は変わる。私は前年にTVアニメ「プリンセス・プリンシパル」に興味を持った。その延長で、劇場版「プリンセス・プリンシパル Crown Handler」公開前には、スパイ小説家のジョン・ル・カレ作品を読もうとぼんやりと考えていた。奇しくもジョン・ル・カレは2020年12月12日(89歳)でこの世を去った。そして劇場版「プリンセス・プリンシパル Crown Handler」の公開日は2021年に延期された。ル・カレが亡くなる前に、一番最初に手にとったル・カレ作品が「寒い国から帰ってきたスパイ」である。
上坂すみれの「SPY」は、スパイの女が決して恋をしてはいけない恋に落ち、SPYをやめてモスクワの組織に決別する、といった恋愛模様を綴った歌である。
歌詞は"私寒い国から来たスパイよ"で始まる。
「寒い国から帰ってきたスパイ」からインスパイアされた歌詞であることは間違いないだろう。
そのような背景がありつつ、私は以下のリリースイベントに参加した。
2020/02/09(日) 12:30開演
 4th Album「NEO PROPAGANDA」発売記念 ガリガリ大学入学試験@秋葉原
2月の時点でもコロナウィルスの影響への懸念があり、演者はマスク着用、イベント観覧者もマスク着用が義務付けられる告知がでていた。トーク&お渡し会ではあったが、お渡し会で演者の顔がみえないというのはその当時はかなり違和感もあり、お互いに抵抗感があったように思える。だが、今となってはこれが日常になっている。
それはともかく、私はこのイベントで初の上坂すみれとの会話をすることになった。特に対面して伝えたいこともなかったので、そしてそのトークではル・カレの「寒い国から帰ってきたスパイ」を読んでいる旨を伝えようとした。

私「アルバムの中でもSPY(エス・ピー・ワイ)が楽曲、素敵な曲ですよね」
ぺ「その曲、SPY(スパイ)って読むんですよー」
私「あーそうだったんですか。私は今、この楽曲の歌詞にもあるジョン・ル・カレ『寒い国から帰ってきたスパイ』を読んでいるんですよ」
ペ「へぇ~、この曲に元ネタってあったんだ~、知らなかったなぁ~」
(時間終了)

「まじですみぺの楽曲制作スタッフは、その楽曲の元ネタがあることを本人に伝えろよ!!」となりました。サブカル好きと知られるすみぺも自分の楽曲の元ネタを知らずに歌唱しているのかよ。なんなんだよ、マジなんなんだよ、ってなりました。
ネットで色々で調べたところ、大槻ケンヂは上坂すみれに〈ソ連の科学者にチップを埋め込まれて、強制的にソ連好きになったソ連のスパイなんだよ、君は〉と語ったそう。それで、その仮説がそのままこの曲の歌詞へと反映されている、とあった。大槻氏のすみぺへのイメージも大概だけれど、歌詞の元ネタも解説してほしかったよね。
ともかく、それもすみぺ歌唱の良さというか、音楽活動スタイルなんだよな、というのはすんなりと納得できる感じもした。上坂すみれ本人の意向をなんとなく汲み取って、楽曲制作の座組を考えて推進し、その裏方のことはあまり解らないままに、ある種アイドル的に与えられた音楽を歌唱する上坂すみれの姿。制作陣が、上坂すみれに対して、好意的なよいしょ!することで本人のやる気を引き出して、表舞台に引っ張っていく。そして彼女自身はその好意を受け取り、良い状態でパフォーマンスする。そういった強制的な疑似的共依存関係が成立しているように思える。音楽業界のビジネスの上手さ、ともいえるが。
上坂すみれのライブには幾つか参加してきたが、ライブ演出、舞台演出にはそのような思いに溢れている、と考えると合点がいく。
そんなわけで私の中で、今年は上坂すみれの「SPY」は特に印象が残った一曲となった。
楽曲自体はNARASAKIらしい低音ベースがなんとも心地よいリスムを刻む。大槻ケンヂの、スパイの女がスパイの仕事か愛情かを選択するという、情緒のある歌詞がなんとも言えない。全体的にはメロディアスな低音ロックではありつつ、上坂すみれのムーディーな歌唱が実にマッチしている。

上坂すみれ 4th Album「NEO PROPAGANDA」全曲試聴動画

②いつか、また。/上田麗奈
発売日:2020/03/18
作詞:RIRIKO
作曲:山田かすみ
編曲:笹川真生
(フルアルバム「Empathy」収録曲)

上田麗奈の小さな勇気の一歩は、人類の大きな一歩に変わる。
声優・上田麗奈のお芝居の繊細さと力強さを感じる1曲。
まるでお芝居をするかのような台詞を歌にのせていく歌唱に惚れ惚れしてしまう。
また、歌詞の上田麗奈ちゃんの歌唱/音楽に対して敬遠していた思いが少しほぐれて、新しいナニカにおそるおそる挑戦する姿が目に浮かぶようである。だが、そのおそるおそる挑戦する中でも、本当に力強く一歩を踏み出している勇気がこの歌には感じられる。本来の上田麗奈ちゃんの喋りからは考えられないほどの力強さ、パワーがある。強い決断と強い意志。そのギャップに心が揺さぶられる。上田麗奈ちゃんを知っていればこそ、その強い揺さぶりがある。上田麗奈ちゃんのパーソナル性が十分に発揮されている曲とも表現できる。
3分30秒という短いトラックではあるのだけれど、とても心を刺激される。
「私 ダメで、ずるくて、傷つけるのにどうして
 その光は容赦なく扉をノックするんだ」
この部分が特にエモーシャル。この台詞に力強く思いが込められている。
上田麗奈ちゃんも「ダメで、こわくて、でも一歩踏み出さないとイケない」と思っていて、それを一緒に踏み出そう「あたしもいるからさ」といってくれている。それだけで、なんだか涙が出てきそうなほどである。
楽曲はピアノ、ギター、ドラムスがメインで必要最低限という感じではある。だが、聴けば聴くほどに熱いロックに仕上がっていると感じる。これも上田麗奈ちゃんの、これから新しい一歩踏み出す感情を後ろから後押しするような力強さをその演奏に感じてしまう。

上田麗奈 / 「Empathy」視聴動画

③SCREEN GIRL/諸星すみれ
発売日:2020/04/29
作詞:珠 鈴
作曲:ケンモチヒデフミ
編曲:ケンモチヒデフミ
(TVアニメ「本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません」第二部 オープニングテーマ「つむじかぜ」のカップリング)

中毒性の高いエクゾチック諸星すみれ楽曲。
エキゾチックな楽曲に諸星すみれの精確な歌唱が抜群に相性が良い。
声優楽曲でこんなクソ精彩でオシャレな楽曲とは中々に巡り会えない気がする。ヒップホップとラテン音楽の融合)とかに当てはまるのだろうか。音楽ジャンルについては私は全く専門外で無知なのだが、いわゆるレゲトン(ヒップホップとラテン音楽の融合)とかに当てはまるのだろうか。個人的にはあまり聴き馴染みがないリズム、そして少し気だるげな諸星すみれの歌唱。ラップ調の歌唱や、随所のコーラスの重なり。技術的な面での歌唱表現も評価できるし、聴いていて自然と身体が動いてしまう。その妙な魔力はその歌唱にあるのか、聴き馴染みのなるリズムからくるものなのか。それは自分ではまったく解釈できない。個人的にはあまり聴き馴染みがないリズム、そして少し気だるげな諸星すみれの歌唱。ラップ調の歌唱や、随所のコーラスの重なり。技術的な面での歌唱表現も評価できるし、聴いていて自然と身体が動いてしまう。その妙な魔力はその歌唱にあるのか、聴き馴染みのなるリズムからくるものなのか。それは自分ではまったく解釈できない。作曲編曲を担当したケンモチヒデフミ氏は「水曜日のカンパネラ」のサウンドプロデュースを担当しているらしい。一部の音源を聴いてみたが、このリズムの根底はケンモチヒデフミ氏からくるものであることは想像できる。作曲編曲を担当したケンモチヒデフミ氏は「水曜日のカンパネラ」のサウンドプロデュースを担当しているらしい。一部の音源を聴いてみたが、このリズムの根底はケンモチヒデフミ氏からくるものであることは想像できる。諸星すみれの「はじまれ」や「つむじかぜ」などにみられる透明感ある歌声、白をイメージした歌唱とのギャップもあり、なぜか「SCREEN GIRL」に心を奪われてしまった。今後も、諸星すみれの楽曲には注目していきたい。「SCREEN GIRL」は、そう強く思わせる一曲となっている確信がある。
諸星すみれの「はじまれ」や「つむじかぜ」などにみられる透明感ある歌声、白をイメージした歌唱とのギャップもあり、なぜか「SCREEN GIRL」に心を奪われてしまった。今後も、諸星すみれの楽曲には注目していきたい。「SCREEN GIRL」は、そう強く思わせる一曲となっている確信がある。

クリースンガール 諸星すみれ(サンプル)

https://www.amazon.co.jp/SCREEN-GIRL/dp/B086ZDGP4N

④Lost emotion/星乃雲母(CV:加隈亜衣)
発売日:2020/08/19
作詞:吟(BUSTED ROSE)
作曲:吟(BUSTED ROSE)
編曲:吟(BUSTED ROSE)
(TVアニメ「ド級編隊エグゼロス」エンディング)

加隈亜衣の甘ったるい魔法にかかれ!
加隈亜衣氏のお芝居に対して大森日雅氏の評価。
「甘い声であるにも関わらず毒気があり、視聴者たちは魔法にかかったかのような不思議な気持ちになる」といったニュアンスの発言がとてつもなく印象に残った。「ド級編隊エグゼロス」のラジオでの大森氏の発言である。また、加隈氏はこのキャラソン/ED曲については「Lost emotionはキャラソンだから雲母として歌っているので、自身では歌わないわよ、この歌は」といったような発言をしていた。
それらの情報を背景として「Lost emotion」が私の脳みそにいい感じに作用してきた。加隈亜衣氏の甘ったるい歌声。そそられる歌唱。ちょっとチクチクとした乙女心の揺れ動く心の表現。孤独感。でもどこかセクシーでもあるし、ちょっと心に壁を感じさせる距離感。そんな歌詞に見事にハマった電子音。
「ド級編隊エグゼロス」内の星乃雲母はピュアな女の子で好きな幼馴染にその気持を伝えられないでいる。そんな気持ちを恥じらいながら歌唱している加隈氏の歌声はなんとも最高of最高。最初の「ちょっとはにかんだ笑い」「ため息」のお芝居から入るのもキャラソン独特のよさみが深い。しかも歌詞には
「ビンビンビンビン感じちゃう」
「この恋心 温めて?ねぇ、Kissしてよ」
「感じ過ぎちゃう もっともっと開いて 私をみてよ」
など直截な表現も多数ある。これで心が疼かない加隈亜衣氏オタクはいないと思う。それくらいの衝撃的で刺激的な歌詞でもある。個人的には「pan pan pan pan 言っちゃよ」という箇所もド直球に脳みそを揺さぶられる。
電子音が多めで、ある種電波ソングっぽいところもあるが、それを加隈亜衣氏が甘ったるい歌唱で抑えつけて、自分の歌唱/お芝居で完全に曲をねじ伏せて、コントールしている。”甘い声であるにも関わらず毒気がある”加隈氏のお芝居から、その”毒気”が抜かれたとしても、我々はしっかりと加隈氏の”魔法”にかかってしまうのである。
それを感じさせてくれる名曲であるといえる。

TVアニメ「ド級編隊エグゼロス」エンディング映像 歌:星乃雲母 (CV:加隈亜衣)

⑤ロマンロン/楠木ともり
発売日:2020/08/19
作詞:楠木ともり
作曲:楠木ともり
編曲:重永亮介
(TVアニメ「魔王学院の不適合者 ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~」エンディングテーマ「ハミダシモノ」のカップリング)

楠木ともり作詞作曲の、驚愕する変拍子ロックサウンド。
声優がこんなに変拍子のロックサウンドの作曲する時代になってきたのか、という驚き。「ハミダシモノ」も勿論、キャッチーな歌詞、アニメを意識したメッセージ性の強い歌詞。そしてアニメEDに流れると爽快感もあるし、聴いていて気持ちいロックになっている。「ハミダシモノ」の作曲は「ロマンロン」の編曲を担当した重永亮介が担っている。それと負けず劣らずの曲の良さが「ロマンロン」にあると感じた。そして変拍子を採用することにより、夢に向かって進む人たちの不安感を表現し、歌の世界観をそのリズムで表現している。特に、キャッチーなキーボードのリズムを使うポイントが巧みで、間奏のメロディなどは秀逸だと感じた。
最近、自身で作詞をする声優はどんどん増えてきている。例えば、芹澤優もメッセージ性の強いロックな曲調(「Revelation」(作詞:芹澤優,作曲:宮田'レフティ'リョウ))の歌詞を自分で書いている。どちらも荒削りな歌詞であると感じる。だけれど、そこがまた挑戦的な試みを感じて、なぜか惹かれてしまう。完璧ではない、不安定である、不透明な未来。だが、奇跡のチャンスを自分の力で引き寄せて、まだまだ遠い夢に向かって全力で走っている。そんな”気持ち”が歌詞に現れているようでもある。
「ハミダシモノ」を最初に聴いたときの第一印象は、それほど楠木ともりのソロ活動に対して興味を持っていなかった。けれども、ラジオから流れてきた「ロマンロン」を聴いたことでなんか信用してもいいかな、という思いが出てきた。そう感じさせてくれた楽曲が「ロマンロン」であり、これからも楠木ともりの音楽活動には注目していきたいと純粋に思ったりもした。

楠木ともり「ロマンロン」-Lyric Video-

⑥アンチテーゼ/夏川椎菜
発売日:2020/09/09
作詞:すりぃ
作曲:すりぃ
編曲:すりぃ

反骨精神的も十分、攻撃的も十分、毒づく夏川椎菜ロック。

「感情制限解けるまで僕は一人ぼっちでただ恨んでいた」
「その人生さえも喰らう程強く足掻いている」
「あぁ劣等感のジレンマだ僕を救済していや、殺してくれ」
「その感情制限解けるまで無駄に無駄に吠えるんだろ」

劣等感とか、ジレンマとかの言葉が出てくるのはままわかるとして「救済して、いや、殺してくれ」を声優音楽でやられると、ちょっとビビるよね。
作詞作曲編曲を手掛けるすりぃ氏は/ボカロPは夏川椎菜がファンになったらしく、楽曲制作を依頼するに至ったらしい。緊迫感、窒息感、抑圧感。夏川椎菜の叫びの歌の中には常にこれらがあるように思える。そしてそれを叫ばずにはいられない衝動、吠えずにいられない熱量が彼女の中にある。それをかなり真っ直ぐにサウンドにのせてきていて、夏川椎菜が最高のテンションで歌唱できるようになっている。そのドライブ感がかなり効果的に作用している。結果として、夏川椎菜のパフォーマンスは向上する。相乗効果は抜群な1曲という感じがした。
そしてそんな夏川椎菜の音楽を待望するファンもいるのだろうと考えると、相乗効果は共依存な関係になりつつあるともいえる。この夏川椎菜ワールドはまだまだ楽しめるように思える。オタクが好きそうな曲と言ってしまえばそれまでだし、私のこのようなテイストのサウンドも歌詞も好きである自覚がある。反骨心だとか、攻撃に毒づいたりだとかそういう心の中の叫びが私自身にないわけではない。それを代弁してくれるのが我らが夏川椎菜嬢であり、その先頭に立って攻撃的に攻める采配をしてくれる。それはファンにとっても幸せなことである。しかしながら、その戦闘の指揮を鼓舞する夏川椎菜自身が、この曲で自身が鼓舞される。その姿を見れることがこの楽曲のもっとも評価するべき点だろう。
夏川椎菜 『アンチテーゼ』Music Video(short ver.)

ちなみにちょっとすりぃ氏の音楽を調べてみたところ、この曲がヒットした。
ジャンキーナイトタウンオーケストラ / 本人が歌った

前奏の感じとかがまさに「アンチテーゼ」っぽさがビンビンでちょっとおもしろかった。だけれど、夏川椎菜がこのような楽曲が好きなんだろうなーというのがわかる感はすごかった。

⑦ガラカブ・ラブ/大野真(CV:明坂聡美)
発売日:2020/09/23
作詞:伊藤直樹
作曲:伊藤直樹
編曲:伊藤直樹
(TVアニメ「放課後ていぼう日記」サウンドコレクション収録曲)

明坂聡美の声優ラップ曲。すごいぞ!
明坂聡美の歌唱表現の良さとその美声を再確認する曲となった。最初からサビまで早口のラップが続いて、ひたすらに魚/ガラカブの特徴を歌唱していく。そしてガラカブ/釣りへの愛を歌唱している。

■ガラカブ概要
標準和名「カサゴ」のこと。熊本県天草郡五和町などの方言で「ガラカブ」と呼ばれる。水深が深い所に生息しているカサゴは赤く、浅い所に生息しているカサゴは黒い色をしている。岩礁地帯に生息していて釣りのターゲットとして人気。

TVアニメ「放課後ていぼう日記」の7話「穴釣り」でも「ガラカブ」釣りのシーンがある。これは大野真の過去につながるエピソードでもある。大野は小学生の頃初めて父と穴釣りをしていた。夢中になりライフジャケットを身に着けないで海に落下してしまった。溺れそうになって父に助けられたが、それ以降、かなずちになってしまったのである。
キャラクターソングにはそのキャラクター性が反映される。作品内では「ガラカブ」というよりも「穴釣り」へのトラウマとそこから「泳げない」ことへの恥じらい、といった描き方をしているかと思う。しかしながら、彼女の釣りへの情熱は並大抵のものではないことはアニメを視聴していれば伝わる。「ガラカブ(穴釣り)=かなずち」への恐怖は、「愛情(釣り)=LOVE」に転じていくのである。そういうニュアンスを歌詞に込めた、というのはまま理解できるものである。強引ではあるが「ガラカブ」と「ラブ」という語感の良さを重視しただけかもしれないが。
それはそれとして、その「釣り」への愛をラップ調にのせて、そしてオシャレ目なテンポにのせての声優歌唱。しかもこの声の柔らかさと心地よさはなんともな妙さがある。明坂聡美の透明感のある歌声は絶品。こんなにも透き通る歌声の声優ラップ曲はめったに巡り会えないように思える。そして、愛情の表現がまるで恋愛シミュレーションゲームのヒロインのようで、そういう文脈が含む曲を明坂聡美が歌唱しているというのもポイント高いし、心に響くものはある。

また、この「ガラカブ・ラブ」のキャラクターソングは、アニメOPの「SEA HORIZON」の収録前に収録していたらしい。(「放課後ていぼうラジオ」内でそのように発言していた記憶がある)このOPを収録したのが、アフレコとどれくらい前後していたかは不明だが、きっとアフレコ前に録音をしていたのだろうと想像する。まだキャラクターの声がアニメ収録の過程を経ていないため、そんなに固まっていなかったのだろうとも想像する。そう考えると「ガラカブ」=「ラブ」という愛情とその歌唱表現は、原作や台本から読み取った明坂聡美氏が獲得したスキルなのだと思う。勿論、一概にそう断定は出来ないのだけれど、そうと仮定すると、より明坂聡美への信頼感は増す。そんなことを感じさせてくれる1曲になっている。
「ガラカブ・ラブ」がちょっとニッチな楽曲に仕上がっていなかったならば、私は「放課後ていぼう日誌」のOP/EDのどちらかを今年の声優楽曲10選に選んでいただろう。

○オープニングテーマ
 SEA HORIZON/海野高校ていぼう部
 (鶴木陽渚(高尾奏音)、帆高夏海(川井田夏海)、黒岩悠希(黒原侑)、大野真(明坂聡美))
 作詞:深川琴美
 作曲:ZAI-ON
 編曲:ZAI-ON
○エンディングテーマ
 釣りの世界へ/海野高校ていぼう部
 (鶴木陽渚(高尾奏音)、帆高夏海(川井田夏海)、黒岩悠希(黒原侑)、大野真(明坂聡美))
 作詞:山田裕介
 作曲:ZAI-ON
 編曲:ZAI-ON
 
「SEA HORIZON」「釣りの世界へ」はどちらもめちゃクソオシャレなサウンドに四人の声優歌唱の調和が素晴らしい。「SEA HORIZON」の広大な海を想像させる広がりが全体的にあり、軽やかなギターサウンドが”海”を舞台にしたアニメととてもマッチしている。また「釣りの世界へ」はジャズテイストの楽曲で、ピアノ、ギター、ドラムス、ベースの心地よさとサウンドのオシャレさは絶品。そのうえでキャラクターソングの文脈を汲み取ったそれぞれのキャラクターの台詞や言葉が曲全体に散りばめられている。特に、間奏時のキャラクターの台詞やリアクションは顔がにんまりしてしまうほどの会心の出来。ありがとうFlyingDog案件。

TVアニメ『放課後ていぼう日誌』サウンドコレクション試聴動画
大野 真(CV:明坂聡美)「ガラカブ・ラブ」

⑧恋のうた(feat.由崎司)/由崎司(CV:鬼頭明里)
発売日:2020/10/03
作詞:Yunomi
作曲:Yunomi
編曲:Yunomi
(TVアニメ「トニカクカワイイ」オープニングテーマ)

鬼頭明里との真の邂逅となった1曲。
私は2020年まで鬼頭明里のお芝居や声質についてうまく掴めずにいた。「ひとりぼっちの○○生活」から徐々にお芝居の抑揚の感覚がわかってきたと思う。けれども、特別な思いは生まれなかった。それが2020年になって「虚構推理」「安達としまむら」「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」を経て、彼女のお芝居の妙さが身体に染み込んできたことは確かであろう。そしてそれを1つ上にのステージに昇華させてくれたのが「トニカクカワイイ」であり、”TVアニメ「トニカクカワイイ」司と星空のカワイイ&尊い新婚ラジオ略してトニラジ!”であり、「恋のうた(feat.由崎司)」である。
ラジオ「トニラジ」内でこの楽曲は元々ボカロで仮歌が歌われていた、と発言をしていた。そして、まず最初に「これ、人間が歌えるのかな?」と思ったものの練習をしてみて、歌詞を覚えるくらいのレベルで練習しないと次の言葉が出てこないくらいに難しかったと語っていた。また、収録した音声を早回しをしているわけでもなく、そのまま早口で歌っていた、とも語られた。
和風EDMでテンポも早く、息継ぎすることも難しい楽曲であることは言うまでもない。
それを訓練で克服し、キャラクターの性も残しつつ、歌唱する能力が鬼頭明里にはある、ということに少し感動してしまった。いや、このアニメにおけるキャラクター性というよりも、鬼頭明里の声質への理解の深度が深くなった、というべきだろう。それもラジオでの素のトークを聴いたからこそ、なおさらにそのように思ったに違いない。いままで掴めていなかった鬼頭明里という声優のぼやけていた輪郭がだんだんと明瞭になってきた感覚があった。それを強烈に感じさせてくれた1曲が「恋のうた(feat.由崎司)」である。
地声は女性声優としては低めで、それでどこかテンションが低く感じられる。だがそれは落ち着いた物腰での柔和な声とも捉えることができる。ラジオ内のトークは必要最低限なのだけれど、頭の回転の早さは感じる。そのような声質/パーソナリティ性は、お芝居やキャラクターソングに抜群に作用している。「トニカクカワイイ」の由崎司も「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」の近江彼方も、日頃のテンションは低めで、そのゆっくりとしたお芝居は共通する点があるように感じた。
だが、そんな彼女も「恋のうた(feat.由崎司)」のような速いテンポの楽曲を滑舌良く歌い切るスキルがあり、抜群の感度がある。そのような事実を記録するという意味でこの楽曲を選出したといえる。

恋のうた (feat. 由崎司)

⑨Aile to Yell/TRINITYAiLE
 (天動瑠依(CV:雨宮天)、鈴村優(CV:麻倉もも)、奥山すみれ(CV:夏川椎菜))
発売日:2020/11/15
作詞:kz
作曲:kz
編曲:kz
(「IDOLY PRIDE」キャラクターソング)

kzがお届けするTrySailの3人が歌唱するアイドルソング!!!
「IDOLY PRIDE」プロジェクト内のアイドルユニットにTRINITYAiLEがいる。「IDOLY PRIDE」は、サイバーエージェントグループ×ミュージックレイン×ストレートエッジの3企業によるメディアミックスプロジェクトである。そのため、TRINITYAiLEは”三位一体の翼”を意味し、それはすなわちTrySailである。
アイドルソングということでポジティブな応援曲に仕上がっている。アイドルたちはAile(フランス語で翼)で羽ばたいて、ファンたちの星となり、どこからでもファンへのYellを送る。そのようなメッセージが込められた楽曲であり、すごく真っ直ぐにTrySailの3人から歌唱されると、それはまた格別に嬉しい気持ちになる。
そしてトラックメーカーkzによるエレクトロなサウンドの爽やかさ。そして徐々に音階が上がっていくリズムは自然と心も上がっていく。翼というテーマと応援歌がマッチしている。そして3人の真っ直ぐな歌唱に惚れ惚れしてしまう。
そして本曲のMV/バーチャルライブでの衣装は格別に可愛い。白と金を基調とした豪華な衣装にショートパンツは目の毒である。TrySailとしてのキャリアを積むことで、3人にはある種の”格”が蓄積されてきた。コンテンツ内でも完全無欠のパフォーマンスを魅せる新進気鋭の異例の新人アイドルという扱いになっている。その”格”がこのバーチャルライブ映像からでも出ていることが感じ取ることができる。
そのTrySail/TRINITYAiLEの異例の”格”をkzは見事に楽曲に落とし込んできている、というのは疑いようもないだろう。

2020/05/10で開催される予定の「IDOLY PRIDE - VENUS STAGE / BEGINNING - 」@舞浜アンフィシアターに、元々私は参加予定だった。新型コロナウイルスの影響で、そのイベントは中止となり、代わりに2020/11/28に「IDOLY PRIDE - VENUS STAGE / RE:BEGINNING -」@幕張メッセ イベントホールが開催されることになった。
このイベントでは、勿論「Aile to Yell」は歌唱された。だが、その会場の盛り上がりは尋常ではなく、誰もがみんなこの楽曲を期待していたように思えた。そして中央のステージでこの楽曲のパフォーマンスをしている3人はまさにファンたちに希望のエールを送っていた。衣装も振り付けも抜群に可愛くて、パフォーマンスも華やかで、誰もが魅了されていた。
楽曲も強い、衣装も強い、3人も強い。この3つの翼を持つTrySail/TRINITYAiLEは無敵だよな、ということを思ったりした。
気になった人はぜひ、楽曲だけではなく、バーチャルライブ映像もセットで見てほしい。

Aile to Yell / TRINITYAiLE 作詞・作曲・編曲:kz【IDOLY PRIDE】

TRINITYAiLE「Aile to Yell」バーチャルライブ映像【IDOLY PRIDE】

⑩サヨナラから始まる物語/星見プロダクション
 (長瀬琴乃(CV:橘美來)、川咲さくら(CV:菅野真衣)、一ノ瀬怜(CV:結城萌子)、伊吹渚(CV:夏目ここな)、佐伯遙子(CV:佐々木奈緒)、白石沙季(CV:宮沢小春)、白石千紗(CV:高尾奏音)、成宮すず(CV:相川奏多)、早坂芽衣(CV:日向もか)、兵藤雫(CV:首藤志奈))
発売日:2020/11/15
作詞:大石昌良
作曲:大石昌良
編曲:大石昌良・岸田勇気
(「IDOLY PRIDE」キャラクターソング)

サヨナラから始まる物語。言葉はただそれだけでいい。
2020/11/28に開催された「IDOLY PRIDE - VENUS STAGE / RE:BEGINNING -」@幕張メッセ イベントホールで星見プロダクションのパフォーマンスを目撃した。
この歌詞の真意は、IDOLY PRIDEのコンテンツのもっとも中心にある概念であるといえる。
「IDOLY PRIDE - VENUS STAGE / RE:BEGINNING -」内のイベントで幾つかそのイベント参加者だけに解禁された情報がある。2021年の1月からはじまるアニメの内容に触れる情報の開示もあった。それを知った上で、改めて歌詞を噛み締めて読むと、その意味の解像度はあがっていく。そしてそれは私にとって大きな衝撃をもたらした。イベント終了後、そこには「サヨナラから始まる物語」を永遠とリピートしていた私がいた。
このような楽曲との出会いができる幸せを噛み締めたい。人生であと何回、こんな衝撃的な楽曲に出会えるのだろうか。そう思えるほどにとてつもない衝撃が私を襲った。

「運命のいたずらに気づかずにわたしたち
 ずっと傍にいたとか なんだか可笑しいね」
「めぐり逢えた軌跡の真ん中で
 少しくらいわたし泣いたっていいよね」
「サヨナラから始まる物語
 胸の奥に刺さった切なさが痛いけど
 駆け出したら いつでもそこがスタートライン
 君と(君と) 走って行こう デスティニー」
「言えなかった言葉がまだたくさんあるよ
 溢れすぎた心から本音がこぼれた」
「たった一つ わがまま言っていいかな
 『生まれ変わっても傍にいてくれますか?』」

これらの歌詞とその歌唱、そして楽曲のリズム。
すべてが私の心を揺さぶってくくる。
作詞作曲編曲を担当した大石昌良は「IDOLY PRIDE」の楽曲を制作するに当たり、物語の概要を理解した上で、この歌詞と曲を仕上げてきた。本当に大石昌良はいい仕事をするよ、ということに再度感心させられた。きっと将来的に、この曲は何度聴いても、いつ聴いても「IDOLY PRIDE」というコンテンツがこの世に存在していた、ということを思い出させてくれる楽曲になっているのだろう。それくらいこの楽曲は「IDOLY PRIDE」というコンテンツと切っても切り離せない名曲になっている。
また、イベントでは、星見プロダクションの新人声優たちのパフォーマンスを間近で見た。個人的に注目している声優が出てきた気もする。だが、それはまた別の機会で語ることがあるかも知れない。

星見プロダクション「サヨナラから始まる物語」バーチャルライブ映像【IDOLY PRIDE】

【アニメーションMV】サヨナラから始まる物語 / 星見プロダクション 作詞・作曲:大石昌良 編曲:大石昌良・岸田勇気【IDOLY PRIDE】



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以下、個人的な感想メモ。
早見沙織の「シスターシティーズ」「GARDEN」もいい曲揃いだった。コロナの影響でライブツアーが中止にならずに、ライブに参加していたらもしかしたらそのうちの1曲は選曲されていたかもしれない。2020年12月27日に開催された早見沙織配信ライブの「garden」「glimmer」は格別に良かった。東山奈央「FLOWER」、田所あずさ「Visual Vampire」、mona(CV:夏川椎菜)の「ファンサ」も生での歌唱を聴きたい曲ではあった。野水伊織の「Never Ending Love story」も彼女らしさ全開で感じるものはあった。また井口裕香「じぶん角形」は生バンド生歌唱でぜひ聴いてみたい1曲であった。そしたらこの選曲は変わっていたと思える。

冒頭でも少し触れたが、今までは、生バンド、生演奏で生の声優のパフォーマンスを感じることで、それが私の記憶に残り、ある種その鮮明な記憶を記録するように選曲をしていた。いつか、また。これらの楽曲を生で聴けるようになる世の中になることを願っている。

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