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元アニメ制作進行職の視点でみた『文化庁メディア芸術祭』

今年で3度目の訪問となる、文化庁メディア芸術祭。この場所に来ると、毎年エネルギーを感じます。どの作品にも作り手の「想い」がたくさんつまっているので、とても好きな空間です。

アートやマンガ、エンターテイメントなどたくさん部門がありますが、私は前職がアニメーションの制作進行職ということもあって、アニメーション部門に注目することが多いです。

今回も、特にアニメーション部門をじっくりと見て回ったので、受賞作品をトピックに上げて、自分なりの解釈をまとめられたらと思います。

アニメーション部門の受賞作品一覧
【大賞】
映像研には⼿を出すな!

【優秀賞】
劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン
泣きたい私は猫をかぶる
マロナの幻想的な物語り
Grey to Green

【ソーシャル・インパクト賞】
ハゼ馳せる果てるまで

【新人賞】
海辺の男
かたのあと
À la mer poussière

どの作品も素晴らしいものばかりで、大納得の結果です。

特に、アニメーションの作り手にフォーカスした『映像研には⼿を出すな!』が大賞を獲ったことは、作り手の大変さや作品ができる尊さを評価された気がして、前職を心から誇りに思えました。

*2つの受賞作品に共通すること

受賞一覧に、『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』と『泣きたい私は猫をかぶる』が入っているのを見た時、そして両者の贈賞理由を読んだ時、ひとつのことを感じました。

それは、どちらも「伝える」ことの難しさを訴えた作品だということです。

『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(ヴァイオレット・エヴァーガーデンシリーズ)は、“愛”を知らない主人公・ヴァイオレットが、人との関わりを通して“愛”とは何かを知っていく物語。

ヴァイオレットは、自身の職業である自動手記人形サービス(手紙の執筆代行)を経験するうちに、人の想いを言葉にして「伝えて」いきます。
その感情や本質的な意味を知らなければ上手く伝えられないし、相手にも伝わりません。元軍人であり、人の感情がわからなかったヴァイオレットにとって、届けたい想いを文字にする手紙の代行業は難しく、最初は苦戦していました。人と関わって、自分の気持ちが揺れ動くのを実感して、初めてその言葉の意味を理解していくのです。

そして、たくさんの経験を経たヴァイオレットは、長い間ずっと心にいて、忘れられない人を「愛している」と気付き、伝えたくなりました。しかし、その人は行方不明で、伝えたい言葉があるのに、伝えられない悲しさを抱えて生きていきます。
このように、作品全体を通して「伝える」ことの大切さ、「伝える」ことの難しさを描いた作品だったと思います。

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『泣きたい私は猫をかぶる』は、好きな子の本心を知るために猫の太郎に変身できる主人公ムゲと、ムギの好きな相手・日之出の恋愛模様を描いた物語。

ムギは日之出にストレートにアタックするものの、全く相手にされません。周囲はそんなムギを自分の想いを正直に「伝えられる」人だと言いますが、実際は周りに気を遣い、大切なことは「伝えられない」人。

一方の日之出も、自分の本音を素直に「伝える」ことができず、一人で抱えて悩んでいます。ただ、猫の太郎(ムギが変身した猫)の前では素直に気持ちを吐露できる一面もありました。
両者はやがて自分の心の内にある「伝えたい」気持ちを見つけ、伝えられなくなる前に必死に伝えようと、運命に抗おうとしていきます。

この『泣きたい私は猫をかぶる』は、贈賞理由が印象的だったので引用します。

あらゆる手段で果敢に進む主人公の抱えた想いと、それぞれの登場人物間のズレと、現実と逃避と挑戦とを強力なファンタジーという装置を使うことで、日常のなかで「伝える」ことの難しさをきめ細やかに軽やかに超えて重ねていく。(略)「伝える」ということはとても難しく大変なエネルギーを要する。それを思いがけない表現で伝えてくれた作品だった。(小原 秀一)

引用元:https://www.online24th.j-mediaarts.jp/award/110

贈賞理由にあるように、いかに「伝える」ことが難しいか、いかにエネルギーが必要なのかを表現していた作品だったと思います。

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*デジタルで簡単に発信できる今だからこそ観たい作品

前述した通り、『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』と『泣きたい私は猫をかぶる』はどちらも「伝える」ことの難しさを表現しています。

今はネット上で誰とでも繋がれるし、伝えることもできちゃう世の中だからこそ、自分の気持ちをテキストで発信するハードルは前よりも下がった気がします。
その一方で、相手の目を見て、直接伝えることが難しくなってしまった気もします。

この作品たちを通して、自分の言葉で相手に伝えることの尊さを改めて見直し、相手に向き合って「伝える」行為をこれからも大切にしていこうと思いました。

*毎年増え続ける観たい作品

毎年文化庁メディア芸術祭に行くたびに、観たい作品や読みたいマンガ、行きたい場所が増えていきます。今年も盛りだくさんでした。
時間ができたら一気に楽しみたいな(と毎回言ってる気がする)。

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