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第69回 マンション防災を考えよう

マンション防災の基本的考え方 前提条件2

皆様こんにちは。マンション防災研究所の城戸です。
このマンション防災を考えようのシリーズでは、マンションという集合住宅では戸建てとは違ったさまざまな設備や管理運営の仕組みがあることから、一般的な地域防災とは別の考え方が必要になる内容も多いため、「マンション防災」としての考え方をいろいろと考えています。

前回、マンションの防災活動を行うにあたっての前提条件を考えました。
1共有資産価値の維持向上をしなければならないこと 2公助の支援は期待できないこと 3管理会社の支援も期待できないこと の3つでした。

今回はその他の前提条件を考えます。
前提条件4
マンションの防災は在宅避難を前提に考えるということです。分譲マンションは基本的にRC(鉄筋コンクリート造り)またはSRC(鉄骨鉄筋コンクリート造り)でできています。また、1981年(昭和56年)の建築基準法改正以後に建築確認を取得したマンションは、その耐震基準が震度7でも倒壊しない(新耐震基準)で建てられていますので、非常に躯体が丈夫です。そのため、地震が発生した際に、自宅内で命を守る、ケガなどをしないように準備をしておけば、被災生活も自宅で過ごせる可能性が非常に高くなります。(旧耐震基準で建てられたマンションの場合は、耐震診断を行い、耐震補強工事を施すことで同様に自宅避難が可能になります。)

また、現在の行政他の考え方として、地域の避難所は自宅が倒壊するなどで住めなくなった方を中心に収容する場所としての認識を持っています。これはその状況としていくつかの要因があり、そうせざるを得ない環境があります。
まず、避難所収容可能人数の圧倒的な少なさです。一般的に避難所は地域の小学校、中学校などの学校とその体育館など、市立体育館や〇〇センターなどの公共施設が設定されていますが、地域全体の人口、世帯数と比較すると、その周辺住民が殺到してしまうと座るスペースも取れないという状態になります。
また、避難所で準備している備蓄食料、水なども圧倒的に足りません。これは2年前に東京都新宿区のあるところで防災セミナーを行った際に調べた結果ですが、備蓄倉庫と避難所の備蓄食料(アルファ米、おかゆ、ビスケット)の合計は388,520食分でした。38万9000食というのは、個人宅、マンション、町会などの単位での数を使っている一般の方にとっては大変な数の食料が備蓄されていると思ってしまいます。しかし、新宿区のその当時の人口は、340,877名、217,244世帯でした。食料の数を人口人数で割ると、1.76です。新宿区の全人口が避難所の備蓄食料を頼ってしまうと、1.76回分しかないのです。1回食事をしたら、そのあとは人口の24%は2回目の食事はないのです。
同様に水の備蓄も、19.600リットルしかなく、これは人口1人あたり0.057リットル分です。
500mlペットボトルの10分の1しかありません。それほどまでに日本の行政はお金もないし、そこまで準備はしていられないのです。こうなると、「みんなが避難所の食料を食べるわけじゃないだろ。自宅に食料があるんだから、それを食べればいいじゃないか。」という声が聞こえてきそうです。その通りです。自宅で食料を備蓄して、避難所に頼らずに食料を確保しなければならないのです。
避難所へ行かない理由の3つめとして、避難所の環境も考慮しなくてはいけません。過去の災害時、テレビの取材やその他で見る避難所の状況はどうだったでしょうか。体育館に足の踏み場もないほどに人がいて、それぞれが固い床に毛布だけを敷き、足も延ばせない状況で、雑魚寝です。今は避難所用の段ボールベッドなどの装備も開発されていますが、それを設置するほどのスペースもありません。そのほかにも共同で多数の人が使うトイレなどを筆頭に衛生環境が悪くなります。また、あまり報道はされていませんが、窃盗などの犯罪、性犯罪の発生も否定できません。
このような環境下でも、自宅が住めない状態では避難所で共同生活をしなければならないのです。

それを考えると、自宅が、躯体が丈夫で住むことができ、自宅で自分の布団で寝られ、プライバシーも守りながら生活できるのであれば、もちろん多少の不自由はありますが、マンション居住者は在宅避難をするほうが良いのです。

今回はここまでです。
次回、ではそもそもマンションの在宅避難では何をすることが必要なのか、なぜ必要なのかを考えていきたいと思います。

マンション防災研究所 所長
防災士 福祉住環境コーディネーター
城戸 学

マンションに限らず防災関連のセミナーや講演、コンサルティングなどのご依頼をお待ちしております。よろしくお願い申し上げます。

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