見出し画像

「愛しい」と書いて、「かなしい」とも読むんだって。

年端の違わないふたりのネェネェに「だいじょうぶ?」と背中をさすられながら、泣きっ面でわたしのところに来た末っ子。
どうやらネェネェたちによれば、やんちゃなSが末っ子をお尻でボーンと突き飛ばし、その勢いでドアに鼻の頭をつよく打ってしまった、とのこと。
Sだったら実にやりそうな行動である。
たぶん、子犬のじゃれあいみたいな感じがエスカレートしてしまったんだろう。
まいにちをいっしょに遊んで学んで、ほとんど兄弟姉妹ってくらいに関係性が近いSと末っ子。
鼻の頭はうっすらだけど内出血してる。そこにおまじないである「絆創膏」を貼ると、末っ子はサッと遊びの輪に戻っていった。

夜、先に寝入った末っ子の顔を見たら、絆創膏には油性ペンで♡が3つ描いてあった。それもおまじないのひとつなのだろう。

末っ子の幼馴染Kが早生のスイカを持って遊びにきた。ずっしりした良いスイカだ。
それでスイカ割りをしたいというので、「好きにやったらいいよー」
と言うと、やれ下にしく段ボールだ、やれ目隠しの手拭いだ、やれ棒だと速やかにスイカ割りの準備が始まった。

しばらく、めっためたのスイカが段ボールの皿にのって運ばれてきた。
お、思った以上に甘くておいしい。

みんなでひと通り食べ終えて、「これどうしよう?」とそれでも余ったスイカの残骸を末っ子が指差した。
「赤い部分だけとってジップロックに平たく入れて凍らせたらスイカシェイクが出来るよ」
「いーねぇ」
末っ子は早速その作業に取り掛かる。黙々とやってる後ろ姿にたちまち胸がしめつけられ、まだまだちいさい肩や、無造作にまとめたパサパサの陽に灼けた髪が刹那に感じる。
脳の海馬に記憶するべくしばし末っ子の姿を捉えるも、わたしもやることが山盛りだから雑務に戻らんとな。

「痛いっ!」鋭い声にギョッとして末っ子を見ると、指先をぎゅっと握って、「はぁはぁ」と息が荒い。
端切れ布を渡し、「これで傷口をきつく押さえて心臓より上にする」と言うと、「なんで・・・?」(蚊の鳴くようなか細い声で)と。
「血の巡りが上にすると止まりやすいからだよ。」
末っ子はその通りにしながら、まだショックで「はぁはぁ」言っている。
「興奮すると血流がさらにどくどくなるから落ち着いて」
末っ子はサッと血相を変え、深く呼吸し始めた。
「ふーーーーーーっ、ふううーーーーーっ」
サドゥーも顔負けな、真剣な眼差しである。
そんな呼吸法が功をなしてか、絆創膏を貼ってやったら末っ子はたちまち回復、残りの作業に取り掛かった。「指のことなどもう忘れた」みたいにこざっぱりと。(傷はとても浅いからよかった)

そんな末っ子、今日は朝からリンコと森に出掛けている。
その森には小さな川もあって、リンコはそこであたらしい居場所を拓いている真っ最中なので、この辺の子どもたちをわちゃわちゃ引き連れ、開墾仕事のかたわら側で遊ばせてくれているのだ。

「行ってきまーす!」
着替えにタオル、水筒をお気に入りのフェイクファーのモコモコバッグに押し込んで。

そんな万年夏休み、みたいな末っ子のまいにちを肴に、今日も仕事終わりのビールを飲むつもりである。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?