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「(仮)きこ太郎とする」

火曜日にプリミさんの宇宙マッサージを受けてからというもの、どよめくことがどんどんやってきて油断ならない。

とくに中城の通称「モール」のことは書いて置かなきゃならない。
ここに入っている「カフェマーメイド」を打ち合わせ場所に指定したのはデザイナーのマサくんで、「たまにはおしゃれじゃないところもいいかと思って」と、なかなか意味深な提案だった。

行ったことのないところに行くのはワクワクする。それもマサくん推しだし。

で、到着した東海岸の「中城モール」。「カフェマーメイド」はこのショッピングモールの1階部分にあったが、ほとんど海の家仕様だった。

砂浜にテーブルと椅子。室内には畳敷きの小上がり。かなりの数の客を収容できそう。

そこで、視界にパーンと飛び込んできたおじさんがいた。
「こ、これはっ」と、見てはいけないけど見ないといられない猛烈なジレンマに全身が震える。長女に目配せするが、彼女は海の方を見て気がついていない。

そのおじさんは真っ黒なかつらをかぶっていた。そのかつらの素材は一見、「カラスの羽?」と思ったが、よく見ると全体的に細かいひびが入っている。「紙粘土?いや張り子か?」

そもそもかつらというものは、擬似頭髪としてなるべく自然に頭に乗っかっていないとならないのではないか。それをこのおじさんはどうだろう。己の見解でこれを「頭髪」と為している。
これが頭髪ならば、仮にワカメでもひじきでも海苔を貼っつけていても、「これがわしにとっての頭髪じゃー!」と腹を決めたらそれはまさしく頭髪。
「人は想像のなかでは果てしなく自由である」と、常々心しているが、実際にここまで自由にやってのける人は稀である。

「なんかすごいとこ来ちゃったかも」と、ドキドキしながら砂浜をざくざく歩いていたら、「あー、ここですー」とマサくんがちょっと先のテーブルで手を振っていた。
「マサくーんお待たせー」と駆け寄ると、マサくんはてへへと恥ずかしそうに、「実はヘナの途中でして」と、緑色のキャップを取った。マサくんの頭にはぴったりとラップが貼りつけており、テカテカ光る眩しいラップとサンゴ礁のキラキラの海のコントラストがやけに神々しかった。
「この後、ヘナを洗い流さなきゃならないんですけど、美容師さんから『海でやれ』って言われてて。ここなら浮かないかなーって思ったので指定しました」
なるほどそういうことだったのか。

マサくんは、「メニューはなかなかジャンクですが、なんていうか気持ちがこもっているんです」と言いながら、わたしたちをマーメイドのオーダーカウンターに促した。
メニュー表がいろいろなところにペタペタ貼ってある。それを見ながらどれにしようか決める。
マサくんはアルゼンチンチキン、わたしは中味汁、長女は沖縄そば、潤ちゃんはタコライスにした。
「マーメイド」の奥にはスーパー「かねひで」が入っていて、ここでお惣菜を買って「マーメイド」で食べることもできるんだそう。
へえ、と思って「かねひで」の方を眺めてから、視線を後方に移すといつのまにか自由な頭髪表現のおじさんは座敷に移動していたからすかさず長女にアイコンタクトを送ろうとしたらすでに長女の視覚はおじさんにロックオンされていたっ!(ここまで息継ぎなし)

一方、砂浜の席には白いシャツの高校生らしきグループのカップル。木陰を譲り合いながらタコスを頬張っている。

にしても、ここは紛れもなく沖縄であった。ビーチとはいえ、タイでもインドでもヴェトナムでもハワイでもない。どこにもまったく似てない。
世俗感が微塵もなく、ぱあっと白くて明るい光に包まれている。


宇宙マッサージのおかげか、浮遊感が程よく今も身体に残っている。
ゆらゆらUFO酔いしながらここ二、三日を過ごすも、これまで会ったことのないようなフェーズの人たちとの交流がものすごい速度で加速している気がする。
そんな人たちに共通しているのは、「キレ」だ。快活さ、というのか。

実は宇宙マッサージの途中、何者かの声が内側から聞こえた。
「もっとやれ、いいぞいいぞもっとだ、やっちまえ」
その声の主にようやく合点がいった。

わたしは肉体も心も女性だけれど、たまに違和感を感じることがある。
それは自分を自分で労ったときに顕著に出てきて、「わたしよ、よくやった。偉いぞ」と、自分の身体をトントンとしながら心のなかで呟くのだけれど、「えっと、この場合の『わたし』って誰?」とずーっと思っていた。

その声の主は、23、24歳くらいの男性。わたしの一部を担っている、メンターとしてのわたし。その彼はわたしとは違って、キレがあり快活である。
それが最近出会った人たちによって具象化されているんだ、と思った。

「きこさんの目(の奥)は、男性的です」
この言葉は最近出会ったキレキレ女子に言われた。ということは、彼は「目」に宿っているのかも知れない。

仮にこの23、24歳の男性を「きこ太郎」としてみた。
しばらくは、この意識でやってみるぞ! 笑






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