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読んだ本と、読みたい本のこと
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記事一覧

その本を手に取った理由は、その人しか知らない|積読紹介2024.03

本に関するアウトプットは、読んだら感想を書くというのがスタンダード。でも、積読について書くのも良い。“手元にあるけど読んでいない本について書く”ということに、その人らしさが表れるんじゃないかって最近思っている。 とある本を知る、気になる、読みたい…そう思って持ち帰るに至るまでの過程は、意外と人それぞれなのでは? 知ったきっかけ、興味をもった理由、手に取って感じたこと。もしかしたら誰かにもらったものかもしれないし、必要があってネットで買ったのかもしれない。 積読の数だけ、本

今はここが居心地の良い場所|『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』読書感想文

海外に昔から興味がなかった。 「行くならスペインかオーストラリアかな〜」なんて言ってはみるけれど、実際には行かないんだろうなと思っていた。 新婚旅行は大分。良い宿に泊まり、温泉に入り、美味しいご飯を食べたかったから。 それは日本で十分に叶う。 韓国旅行に誘われて、結局都合がつかず、無しになってしまったことがある。 でも、それにほっとする自分もいて。 韓国料理を食べることも韓国コスメを買って使うことも、日本でできる。本場でしか味わえない体験はきっとあるんだろうけど、私は日

自分が見ている世界と、誰かへの優しさを疑う|『流浪の月』読書感想文(ネタバレなし)

『事実と真実は違う』 何度も語られるそのテーマに、私は自分のことが信じられなくなる。 序盤を読んでいて、自分がいかに幸せ者で、知らない世界のことは何も見ていないんだということを思い知らされ、つらかった。 物語の中で紐解かれていく、人の痛み、絶望、やるせなさ。自分が経験してきたものとはあまりにかけ離れた彼女の人生に、胸を痛める。けれど。 「これは自分が生きている世界とは別の話だ」と思うことで、私は胸を痛めるフリをして、つらさから逃れようとしているだけ。 途中からそう気づいたと

彼らの未来、わたしの未来|『告白』読書感想文(ネタバレなし)

暗くて、とにかく重い話が読みたい気分。 「そういう年頃だね〜」なんて母は言いながら、湊かなえや凪良ゆうをオススメしてくれた。 実家の本棚には、小説やエッセイがぎっしり詰まっている。 母の昔からの趣味と、その母に影響されて育った私と弟の読んできた本たち。 私は高校生くらいの時から、音楽を聴くことのほうが増えて、読書の時間がそれまでより少なくなった。 だから、私がまだ読んでいない本が、実家にはたくさん並んでいる。 その中のひとつ、湊かなえの『告白』。 あまりにも有名だけど、

『避暑地の猫|宮本輝』読み終わり。 この物語の時代の知識が足りなくて、想像が難しいところがたくさんあった。すべてを理解したかは自信がない。けど、人間の中の狂った部分、衝動的なもの、残酷さが描写されていて引き込まれる。ラストにかけての怒涛の展開に目が話せなかった。

“人”に会いに、本屋に行く|『本屋、はじめました』読書感想文

荻窪にある新刊書店「Title」。 その店主、辻山良雄さんの著書を読みました。 大型書店リブロで勤務されていた時のことからTitle開店後のことまで、さまざまに語られています。 個人経営の書店について調べ始めたとき、すぐに気になった本。書店を経営すること、個人でお店を始めることのリアルを知りました。そして、結局わたしたちが本屋に求めていることって何なのか?それも考えずにはいられません。 “人脈をつくる”って、やっぱり必要 これは読んでいて、ずっと感じていました。 お店

『傲慢と善良』を考える|読書感想文(ネタバレなし)

「人生で一番刺さった小説」という帯。 んなわけあるかい、と思いながら、惹かれて買ってしまった。 ずーんと暗く、考えこんでしまうような物語をあえて読みたい、観たい、そういう気分だったのかもしれない。 主人公たちは、私より少し上の世代。でも読んでいるとそれを忘れる。時に共感するし、時に理解できないし、なんというか、ものすごくリアル。 内省的な描写が多く、一緒に考えこんでしまう場面がたくさんある。 でも、ずーんと暗いかと言われるとそうではない。 20歳前後で読むとまた違うんだろ

書く仕事をしなくても、覚えておきたいこと|『書く仕事がしたい』読書感想文

「書く仕事っていいなあ」と思い始めた頃。 自分は文章が上手いのかわからなかった。だから、その道のプロから添削してもらいたい、ライティング講座とか受けてみようか、と調べ始めていた。でも、大きなお金を払う勇気が出ない。 その時、ビューティーライターのAYANAさんが、Instagramでこの本を紹介されていた。 書いて生きていくとはどういうことなのか。読めば、“ライターのリアル”のような部分を知ることができそうだった。 そもそも私は、書く仕事についてもっとちゃんと知る、そこか

食べものは消えてしまうから|『生まれたときからアルデンテ』読書感想文

著者、平野紗季子さん。 わたしはもうすっかり彼女のファンになった。 ひとつひとつの食べものに対して、こんなにも真っ直ぐに、一対一で向き合っている人に、これまで出会ったことがない。 それは、人と食事をすることで、食べものの味に向き合えないことに心苦しさを感じるほどの真剣さ。 『共食は時々食べものを殺す。』の一文に、わたしはドキッとした。 平野さんの文章は、表現が豊かで面白い。 思わず頷いてしまう例え、言葉選びの大胆さ。 そして時折、核心をつくような一節に、背筋をひゅっと伸ば

うちの猫に早く会いたくなって、帰り道を急いだ|『猫にかまけて』読書感想文

町田康さんのエッセイ「猫にかまけて」。 初めはその独特な文体に慣れず、なかなか読み進められなかった。いったん置いておこうかと悩んだ。 それでも読んでいくと、ついつい笑ってしまう猫たちとの日々。猫は言葉をしゃべらないはずだけど、本当はしゃべっているのでは?と思える猫たちとの「会話」の数々。 うちの猫もこんな風にしゃべっているように見えること、あるある。 ある子猫との出会いの場面から、わたしはページをめくる手が止まらなくなった。 言葉の通じない猫との生活は、時に苦しい。 こ

山内マリコさん「あたしたちよくやってる」読み終わり。私が選ぶ人生で何度でも読みたい本に認定。この気持ちを上手く言語化できずもどかしい。読んでて何度も心の奥のほうがきゅっとなり、泣きそうになり、前を向かせてくれる。20代で出会えてよかった。おばあちゃんになっても読みたい。

「楽しい孤独」に感謝する|『あたしたちよくやってる』読書感想文

読み終えた時、思わずそのページに栞を挟み込んでいた。 この文章に出会えたことが心から嬉しくて、なんだかほっとしたから。 「楽しい孤独」。 山内マリコさん『あたしたちよくやってる』という本の中で書かれている、3ページのエッセイ。 すべてに激しく共感し、まるごと引用して紹介したいくらいの気持ちになった。 わたしは昔から、話を聞いてもらえる人が1人いれば落ち着く、というタイプだった。 広く仲良く付き合うのは苦手。 もちろんクラスとか部活とか、何かしらのグループに所属してはいたけ