聞いて欲しい

 Nさんは運動の制約が大きく気管切開しているために声を出して何かを伝えることは難しいお子さんでした。そのために、Nさんにこれから尋ねることの選択肢を事前にことばで提示して、ひとつずつ順に尋ねたときのわずかな発信を受け止めて再びことばにして返すということをしていました。

 また、当時は医療的ケアの対応の多くを教員が(研修して)担っていたので、私もNさんの気管切開部からの吸引の対応教員になっていました。

 Nさんの胸のあたりからゴロゴロと痰が上がってきた音が聞こえたら、Nさんに吸引するかどうか尋ねて吸引をするのですが、痰がたくさん引けることもありましたが、ほとんど痰が引けないことも少なくありませんでした。

 当時は吸引するタイミングを自分がうまく捉えられていないからと考えていました。

 それから何年も経って、心拍数や血中酸素飽和度のモニターのアラームを鳴らして「注意喚起」するお子さんが少なくないことを知ったとき「あっ」とNさんのことを思い出しました。Nさんは痰をゴロゴロさせて注意喚起をしていたのではないかと。「何、何か伝えたいことある?」と尋ねて欲しくて呼んだのではないかと。Nさん、鈍感で本当にごめんなさい!

 運動やコミュニケーションに大きな制約があるように見えるお子さんは、常にやりとりをする手立てを試しているのではないかと今では思っています。

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