よろしく人の
親の顔など知る余地すらない
そんな生き物は世に多い
昆虫、魚貝類などは代表的だ
蟹や蟷螂は親の顔を知らぬ
兄弟は数千数百いるだろうが
皆同じ顔をしているのだ
だから僕らの両親もきっと
同じ顔をしてるだろうと
思いながら春風を感じただろうか
本能の戒律に敬虔な彼らは
やがてメスは大きく育ち
オスは自らをメスの腹に捧げ
メスは自らの腹を子に捧げる
あらゆる水場が祭壇である
あらゆる葉っぱが褥である
地球は穴の空いた壺のようだ
生命は一組の番により注がれ
生命は一組の番から先に流れ出す
天体の星星は鼻で笑うだろうか
限りある命のどうしようもなく
絶命ギリギリのバトンパスを
若き哺乳類は鼻で笑うだろうか
親を知らない子どもがひとり
浅い息でアルバムをめくるるを
我々は鼻で笑えるだろうか
ヒトのみが本能に釘を打ち得る
その悲哀とやり切れなさを
それと表裏一体の尊さを
今からたった一六五年ほど前に
ある日本人は言ったのだ
「凡そ生まれて人たらば、宜しく人の
禽獣に異なる所以を知るべし」と。
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