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ベネッセが推進するDXとオープンイノベーション戦略

私たちケップルは、オープンイノベーションを促進するきっかけを作ることで、スタートアップエコシステムに関わる人たちが増え、その結果スタートアップが資金調達や協業に対してより前向きに取り組んでいくサポートができればと考えています。

今回は、2022年12月に開催したウェビナーのレポートをお届けします。ベネッセホールディングスBenesse Digital Innovation Fundの取り組みや設立の背景、スタートアップとの協業のポイントについて理解を深めていただける内容となっておりますので、ぜひご覧ください。

▼スピーカー紹介文
中村 潤平 氏
株式会社ベネッセホールディングス|Digital Innovation Partners|DXコンサルティング部
ICT業界を経てアクセンチュアに入社。主に金融機関に向けたDX改革を推進。ベネッセホールディングス入社後はDX推進に従事。2021年11月に設立された、スタートアップとデジタルの力で共創を目指す投資ファシリティ「Digital Innovation Fund」ではアシスタントファンドマネージャーとして主にソーシング業務の推進を担当。


事業を横断して改革を行うために立ち上がったDX推進チーム

ー Digital Innovation Partners(以下、DIP)が設立された背景と活動方針についてお聞かせください

中村氏:ベネッセは企業理念である「よく生きる」を実現するため、教育・介護領域で事業を運営しています。まだ日本が貧しかった時代、岡山県で教鞭をとっていた福武哲彦氏が、教育格差を解消しようと開始した通信講座が進研ゼミの前身にあたります。それ以降、67年に渡って事業を展開し、こどもちゃれんじ、進研ゼミ、個別指導塾、進研模試、Udemyなど、幅広く教育領域でのサービス展開を行っています。

シニア領域では、在宅介護やデイサービス、介護領域の求人サイトなどを運営しています。

DIPは多岐にわたる事業を横断的に改革していくことをミッションに、ベネッセホールディングス経営直下に立ち上がったDX推進チームです。

設立された背景は、DXを含む組織改革に苦戦したことでした。我々の基幹事業は少子化に大きく影響を受けます。そのような環境下でも継続的な事業成長を実現するため、2018年以降、DX推進に取り組んできました。

しかし、幅広い事業展開を行っていることから、顧客やビジネスモデルも多様です。それぞれ事業性質が異なるためにDXへの感度・深度も同様に違いがありました。結果として、全ての事業に対して共通のDX推進を行うことは難しいとの結論に至りました。

多様なスキルを持つデジタル人材が社内にいたにも関わらず、DXを推進していくための組織能力を十分に持てていないことが課題でした。そこで2020年、事業を横断してDXを加速することを目的としてDIPが経営直下に設立されました。

DXに関して、一般的な定義として経産省が公開しているものがありますが、ベネッセとしてのDXを定義するところから始めました。

新しい価値の共創に向けてファンドを設立

ー Digital Innovation Fund(以下、DIF)が立ち上がった経緯と、取り組みについてお聞かせください

中村氏:DIFはDIPに所属する組織として、2021年11月に設立されました。
過去にも財務部を主体にマイノリティ投資を含む投資活動を行っており、財務リターンによる収益化を目指していました。また、事業部主導で、AIスタートアップと協働して進研ゼミのデータサイエンスに取り組む事例もありました。

2018年頃からDX推進を意識していましたが、社内のみで改革を実現するのは難しいと感じることもありました。これらの動きを踏まえて「自前主義」で事業を進めてきたところ、スタートアップを含む外部事業者の皆さまと協力して新しい価値を共創する方向へ舵を切り、DIFを立ち上げました。

DIFの主な取り組みとして「ディスラプターウォッチ」を約2年間続けています。
「デジタルディスラプション」はデジタルテクノロジーによる破壊的イノベーションを指しますが、それを起こす可能性を秘めたプレイヤーを「ディスラプター」と呼んでいます。ベネッセの事業領域において脅威となりうるプレイヤーを対象に、動向を注視しつつ、対抗策を練る取り組みです。

しかし、ディスラプターウォッチを続けていく中で、「ディスラプター」はともに価値創造できる存在となる可能性も見えてきました。出資可能性も含め、3ヶ月ごとに開催される経営会議で市況報告を行うところから活動をスタートしました。

組織体制として、DXコンサルティング部、財務部、各事業部と三位一体で活動できる環境を構築しています。マイノリティ投資の実績として投資先が上場したケースも複数あるため、経験に基づく知見を生かすことができるのは強みです。

ー ディスラプションウオッチは具体的にどのような手法で行われているのでしょうか

中村氏:まずはベネッセの事業領域を対象として、デジタルに強みのあるプレイヤーをリストアップしました。
続いて商材や戦略、組織体制、直近の資金調達に関して調査を行った上で、成長性について分析を行います。デスクトップのリサーチだけでなく、事業部と面識のある企業やVC・金融機関へのヒアリングも調査ルートに含まれます。非常に地道な活動を続けて、最終的には約1900社をリストアップしました。

調査を行い、対抗策を実行することが最重要でしたが、活動を続けると、ディスラプターたちと戦うことに加えて、仲間として新しい教育を起こしていくことも手段になり得ると気づきました。教育領域で価値共創を行う可能性を考え、出資活動を開始するのは自然な流れでした。

ー 出資形態はどのように検討されましたか

中村氏:ベネッセとしてファンド機能を設立するにあたって、CVCの設立とベネッセホールディングスからのBS出資のどちらにするかを検討しました。 
CVCも良い選択肢だったのですが、管理コストがかかることなどを考慮して、BS出資のメリットが上回ると判断しました。

丁寧なコミュニケーションが社内連携の秘訣

ー 経営陣もDIFの活動に対する熱量が高く、予算増額に関する提案もあったと伺っています。そうした環境が生まれた背景についてお聞かせください

中村氏:私たちの中核事業である教育は、少子化が業績に大きく影響します。事業環境の変化に対する危機感や事業課題を、経営層から現場まで共通で感じていることが、新しい取り組みへのエネルギーに繋がっていると思います。

ベネッセについてはやや保守的な印象がある方もいるかも知れません。実は昭和40年頃、言葉の定義がなかった頃からデータサイエンスを取り入れていたり、AI領域に比較的早く取り組んでいたりと新しい技術や施策には前向きな企業なんです。

ー 事業部を巻き込んで連携を行うにあたって気をつけているポイントについてお聞かせください

中村氏:DIFは財務リターンだけでなく、事業シナジーを生み出すことも求められています。いかに事業部を巻き込めるか、多くの工夫を行ってきました。

DIFがホールディングス内で切り離された存在にならないよう、事業部と定期的に意見交換の機会を設けています。ベネッセは事業部をカンパニーと呼び、6カンパニー制で事業運営しています。各カンパニーと隔週で打ち合わせを実施しています。DIFの活動に関心を持ってもらうところから始めて、事業側の課題感、今後やりたいことに関して情報交換しつつ関係性を構築していきます。

加えて、各カンパニーのトップである執行役員クラスのメンバーとも月次で情報交換を行っています。DIFが面談しているスタートアップに関する共有や、隔週の打ち合わせを踏まえた議論を行っています。

どの会議体でも各カンパニーの実態に合わせて推進をしていくこと、足並みを揃えることを意識しています。事業部側も課題感を感じていた背景があるため、熱量高く参加してくれているのは非常によかったです。

DIF内では、お伝えした通りDXコンサルティング部、財務部、各事業部と、異なるバックグラウンドを持つ3つのプレイヤーがいます。財務リターンと事業シナジーを両立するために、ソーシング活動・DDをどのように担当するか、慎重に検討したポイントです。今の形態も完成形ではなく、引き続き試行錯誤しながら進めています。

3つの軸を持つことでバランスよく進められる連携

ー 既存事業とスタートアップとの連携事例についてお聞かせください

中村氏:約1年間の活動を通じて、9社に出資をさせていただいています。
出資においては、下記の3軸を意識しています。その中から、いくつか連携事例をご紹介します。

CODE CHRYSALIS株式会社(コードクリサリス株式会社)

CODE CHRYSALIS はソフトウェアエンジニア向けに、グローバル水準で活躍することを目的としたカリキュラムを提供している企業です。既存事業に、大学生、社会人向けに動画でDXやプログラミングの動画ができるUdemyというサービスがあります。動画学習の次のステップとして、実務で活躍できる人材を目指したい場合に、CODE CHRYSALISが提供する世界水準のカリキュラムにおつなぎすることで「よく生きる」をサポートする取り組みです。

paiza株式会社(パイザ株式会社)

paizaはプログラミング学習および転職を目的としたスキルの測定が行える、登録者数50万人のサービスを運営しています。企業側から求職者に対してダイレクトリクルーティングを行うことで、サービス利用料が発生するビジネスモデルで展開をしています。学ぶことと働くことは非常に近接している領域です。ベネッセが提供している学校向けのサービスで、プログラミング学習のサービスもありますが、生徒たちが意欲的に自律して学べるよう、ゲームフィケーションのような仕組みが必要だと感じています。paizaのプログラミング学習はセルフラーニングを特徴としているため、 相互に連携することでよりよい事業が生まれることを期待しています。

Hmcomm株式会社(エイチエムコム株式会社)
HmcommはAIとデータサイエンス領域で事業展開している企業です。プロセスのDX、よりよいサービスを提供するための手段のDXにおいてお力添えいただいています。特に音声の検知に強みがあり、ベネッセのコールセンターに入った解約のお問合せに対して、継続いただくための適切なコミュニケーションの実現でサポートいただいています。自然言語処理も得意なため、社内でテキストが関わる業務、例えば営業日報や介護領域におけるヘルパーさんの介護記録に基づき、より効果的な体験を生むための返答をサポートいただいています。

ー スタートアップと事業連携を進めるにあたって意識していることをお聞かせください

中村氏:出資前後で意識しているポイントが異なります。出資前はお互いを知っていくプロセスを重視しており、スタートアップの皆さんと頻度高くコミュニケーションを取るようにしています。週次で打ち合わせを実施して、会社の成り立ちやミッション、今後の事業展開などの理解を深めていきます。

追って、事業課題や期待していること、ベネッセの弱みも含めてお伝えしたうえで、相互に事業シナジーが生み出せそうかすり合わせを行います。

DIFのここ1年間の活動では、スタートアップの皆さんの事業成長にいかにベネッセを使ってもらえるかを意識しています。例えばスタートアップが採用で困っている場合は、ベネッセとの取り組み事例を活かしてサポートできないか検討します。具体的には、UdemyにC2Cモデルのサービスがあるため、そこでスタートアップ創業者にエンジニアリングの面白さや魅力について話してもらい採用支援をしていたりします。

ー スタートアップとの事業連携における成果に関して、経営層への報告で意識していることはありますか?

中村氏:DIFが投資活動で意識している3つのポイントのうち、比較的早く成果が出るのは「プロセスのDX」領域だと考えています。例えば、Hmcomm社のデータサイエンティストの方にプロジェクトに入ってもらい、推進をサポートいただくことがあります。そうすると、プロジェクト進行が加速し成果が生まれやすくなります。

一方、新規事業創出には、長期的な視点が必要になります。 Fourth Valleyというインバウンド支援をされている企業の例をご紹介します。大学生、社会人におけるインバウンドは1つの注目分野で、ベネッセにおいては新規領域となります。

そこで日本語教育をベネッセでサポートしています。そうした新しいスキームが発生した場合、売上や提携における値引きが成果になり得ます。経営層に向けては、定量的なシナジーが成果のポイントになります。

新規領域は成果が出るまでに時間がかかることが想定されますが、ベネッセとして挑戦すべき分野でもあります。

3つの軸を持つことで、時間がかかるかもしれないが大きな成長につながる「新規事業の創出」、比較的早く進められる「プロセスのDX」や「既存事業の価値向上」とを分けて考え、報告することができています。

ー 時間軸を分けて考えるというのは、非常に重要なポイントですね。中村さん、本日はありがとうございました!

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