見出し画像

5年で51件の事業化!JR東日本スタートアップに学ぶ「オープンイノベーションの極意とスタートアップ連携事例」

私たちケップルは、オープンイノベーションを促進するきっかけを作ることで、スタートアップエコシステムに関わる人たちが増え、その結果スタートアップが資金調達や協業に対してより前向きに取り組んでいくサポートができればと考えています。今回は、11月に開催したセミナーのレポートをお届けします。JR東日本スタートアップの取り組みやCVC設立の背景、スタートアップがCVCと組む理由など理解を深めていただける内容となっておりますので、ぜひご覧ください。

▼スピーカー紹介文
隈本 伸一氏
JR東日本スタートアップ株式会社|シニアマネージャー

2001年東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)入社。 入社以来、主に駅ナカや駅ビル等を展開する生活サービス事業部門に所属。飲料ビジネス子会社(JR東日本ウォータービジネス)の新規立ち上げや、地域活性化プロジェクトの推進を行い、JRE POINTの立ち上げ及びグループ内ポイントプログラム共通化の推進等、JR東日本での事業再編や新規事業のプロジェクトを中心に従事。 
2018年2月より、オープンイノベーションによる共創活動を加速させるため、JR東日本スタートアップ株式会社の立ち上げを行うと共に出向し、スタートアップ企業との協業や出資等による支援を推進。


巨大インフラとスタートアップの連携により社会を前進させる新規事業の創出

-JR東日本スタートアップ様の取り組みと活動方針についてお聞かせください

隈本氏:JR東日本スタートアップはJR東日本の100%子会社として、2018年2月に設立されました。オープンイノベーションによる共創の加速を目的にCVC活動を行っています。JR東日本が持つ鉄道や駅、グループ内サービスを含む巨大インフラと、スタートアップの皆様のアイデア・ビジネスモデルを連携することで社会を前進させる新規事業の創出を目指しています。50億円の予算を確保して出資活動も行っていますが、スタートアップとの事業共創に重点を置いた取り組みを推進しています。

この写真は新橋にあるゼロキロポスト、鉄道が始まった場所です。
2022年に鉄道が150周年を迎えました。今では日常にすっかり馴染んでいる鉄道も、150年前は偉大な新規事業だったわけです。JR東日本スタートアップを立ち上げるタイミングで、その気持ちを忘れないよう設立メンバーで撮影しました。

新橋にあるゼロキロポスト

-組織体制についてお聞かせください

隈本氏:メンバーは10名で、代表以外はフラットな組織です。バックオフィス担当含めて全員が担当企業を持ち、1企業あたり1〜2名が担当に付く体制で活動しています。 プレスリリースも各担当者が書くなど、一気通貫で機動的に動ける体制を作っているのは特徴かもしれません。

(左)隈本氏/(右)ケップル COO 江口

グループ経営ビジョンで示されたオープンイノベーションの道筋

-事業共創に向けた取り組みについて、具体的にどんな活動をされていますか?

隈本氏:代表的な取り組みは、2017年以降毎年開催されているアクセラレーションプログラム「JR東日本スタートアッププログラム」の運営です。採択企業と必ず実証実験を行うことが特徴で、これまで1000件以上の応募をいただき、累計100回の実証実験を行いました。採択されたプロジェクトのうち、51件が事業化に至っています。

出資件数も順調に増えており、現在の投資先は38社になりました。投資先の9割はアクセラレーションプログラムの採択企業です。実証実験で半年以上伴走しているため、お互いのことをよく知って関係性を深めた状態で出資できることも特徴のひとつです。

-CVC立ち上げの背景についてお聞かせください

隈本氏:以前の鉄道業界は比較的内部に閉じたビジネス構造をしていましたが、今後国内で人口減少が進み、我々が事業を展開するエリアでも経営環境が変化していくことが想定されています。変化に適応していくため、新たなビジネスモデル創出の必要性が高まっています。現場として危機感を感じていたところ、「変革2027」というJR東日本グループ経営ビジョンでオープンイノベーションが道筋として示されたことで具体的に進み始めました。

海外事例を参考にアクセラレーションプログラムを開始

-CVC立ち上げに向けてどのような活動をされましたか?

隈本氏:実は2016年にもCVC設立を提案したことがありました。しかし、当時は鉄道事業と金融事業の親和性がそこまで高くなく、時期尚早ではないかと見送りになりました。そこで、まずは小さく始めて連携事例を作ることを目的に事業部でアクセラレーションプログラムを実施することにしました。

アクセラレーションプログラムはドイツ鉄道の事例なども参考にして立ち上げました。JR東日本は以前からドイツ鉄道との交流があり、アクセラレーションプログラムを視察した役員もいました。外部の事例を取り込むことで、社内調整は比較的スムーズに進みました。

-CVC子会社という形式で立ち上げた背景をお聞かせください

隈本氏:意思決定を可能な限りコンパクトに行えるよう、子会社としての体制作りを意識しました。新規事業を担当した経験から、内製化する場合は社内調整や連携などのプロセスが複雑になる可能性がありました。出資検討含め、多くの意思決定をJR東日本スタートアップのみで完結でき、自由度高く組織設計できたことはとても良かったです。

また、ファンド設立は行っておらず、BS出資として予算枠を確保しています。ファンド形態を選択しなかった理由は、ファンド運営の知見がなかったこと、ファンドの運用期限に縛られず活動したいと考えたことの2点です。二人組合も選択肢にありましたが、活動を通じてCVCとしての経験や手触り感を得る方針で株式会社を選択しました。

-CVCとして目標に掲げている数値があれば教えてください

隈本氏:JR東日本スタートアップのCVC活動では、財務リターン・戦略リターンの両方を目的としています。設立に向けて収支計画は作成しましたが、最初の数年間は利益創出が難しく、利益目標を高く置いておりません。戦略リターンの目標数値としてアクセラレーションプログラムでの企業連携数・出資件数を設定しています。グループ会社と相談して、いつまでに何店舗に拡大するかなど実証実験に基づく具体的な取り組み数値を掲げることもあります。

事業化事例とジョイントベンチャーの立ち上げについて

-スタートアップとの連携事例についてお聞かせください

隈本氏:4つの事業化事例をご紹介します。

サインポスト株式会社株式会社TOUCH TO GO
無人AI決済システムを利用して、店舗の無人化・省人化を進めている事業です。連携事例で初めてジョイントベンチャーを立ち上げたプロジェクトです。ファミリーマートとの資本業務提携も進めています。

コネクテッドロボティクス株式会社
駅そばの厨房をロボット化することで省人化に挑戦しています。伝統的な業態のDXに取り組んでいるのが特徴で、現在5店舗で運用中。今後は30店舗への拡大を予定しています。

VILLAGE INC.
秘境をグランピング施設にするスタートアップとの取り組みです。
土合という群馬県にある無人駅を利用したプロジェクトで、駅舎の内装をリノベーションして外にテントを設置、グランピング施設にしています。施設ができたことで街にたくさんの人が集まってきて、まさに無人駅から地域コミュニティのハブに生まれ変わった事例です。

ソナス株式会社
鉄道領域にも踏み込んでいる事例です。ソナスの提供する無線IoT技術を鉄道メンテナンスに活用する事業を行っています。電柱の傾きを監視するため巨大な装置が稼働しているのですが、非常に費用がかかっていました。無線IoT技術を利用することで、簡単に設置でき非常にコストメリットがある取り組みです。現在事業化を進めています。

連携がさらに進んだ形態として、ジョイントベンチャー(以下、JV)を立ち上げている事例がいくつかあります。
前述のサインポストと立ち上げた株式会社TOUCH TO GOがJV1号案件です。続いて小型ドローンで課題解決する企業 LiberawareとJR東日本のグループ会社、弊社と3社で出資を行い、CalTa株式会社を立ち上げています。ソナスの事例と同様、鉄道メンテナンスのDX推進で非常に多くの引き合いをいただいています。最後に地方創生に取り組むさとゆめと沿線まるごと株式会社を運営しています。地域にあるものを活かして沿線を盛り上げる取り組みです。

まだ世の中にない新しい価値を生み出すために

-アクセラレーションプログラムの採択基準についてお聞かせください

隈本氏:実証実験を前提としているため、ソリューション導入のみの提案は採択の対象外となります。コネクテッドロボティクスの事例のように、2社が連携することで世の中にない新しい価値を生み出すプロジェクトを重視しています。

また、JR東日本グループの持つインフラを活かす連携イメージが湧くプロジェクトは採択しやすいです。VILLAGE INCの場合は、土合という駅を指名していただいたこともあり、連携がイメージしやすいプロジェクトでした。

-連携イメージをどのようにふくらませているかお聞かせください

隈本氏:応募されたアイデアをベースとして、実施場所から考えることがあります。これまでの経験、知見をもとに駅やエリアが浮かぶかどうかですね。アイデアの引き出しには課題を感じていますが、同僚・関係者との会話からニーズやきっかけを探すことが多いです。

例えば駅そばロボットプロジェクトは、先にそばいちを展開する企業から人員不足のためにDXを進めたい、そういった取り組みができないかと相談を受けていました。継続的に話を伺っていたところ、コネクテッドロボティクスと接点があったタイミングで駅そば領域に挑戦してみたいとの声が挙がりプロジェクト化に繋がりました。

-事業部と連携するにあたって意識していることをお聞かせください

隈本氏:実証実験は半年ほど伴走するケースが多く、JR東日本グループ側で熱意ある担当者を見つけられるか、その熱意をいかに引き出せるかが非常に重要になります。

特に駅そばロボットプロジェクトに関しては、適任の担当者が見つかったことが成功の大きな要因だと考えています。担当者が見つかったあとは、彼らが社内で話を通しやすいよう支援することがポイントになります。ナレッジ化が難しい内容ではあるため、泥臭く取り組むことが一番の近道だと感じています。

-実証実験を経てJV設立に至る基準についてお聞かせください

隈本氏:主に、双方がサービス拡大を進めやすくなる場合にJV設立を検討します。Liberawareの事例では、JV設立によって鉄道業界全体にサービス展開できることを意識しました。連携を前面に押し出すことで、事業内容や鉄道業界への理解度が伝わりやすくなると考えています。

-スタートアップと上手に連携するために意識していることをお聞かせください

隈本氏:事業部・スタートアップ・JR東日本スタートアップが三位一体で取り組みを進められるよう意識しています。JR東日本スタートアップ側としては、圧倒的なスタートアップファーストの姿勢を大切にしています。弊社に限らず、どのCVCにも必要だと思います。

日々の活動では、スタートアップと事業部の関係性について常に気にかけるようにしています。メールのやり取りもしっかり追いかけて、状況によっては間に入って取り持ち、フォローすることもあります。

-隈本さん、本日はお時間いただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?