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天丼

毎年この時期、足利まで行くのに東武伊勢崎線を使うため、必ず浅草に立ち寄る。
目的地は去年アップした「ココ・ファーム・ワイナリー」で、GW中に実施されるイベント「ヴィンヤードウィーク」に顔を出す事。

浅草は東武伊勢崎線の始発駅となるので、行き帰り共にお世話になるのだが、浅草は外国人にも人気の観光地で食を楽しめる街でもあるから、足利からの帰りには浅草で何かを食べるのも通例になった。

EOS R5 RF35mm F1.8 MACRO IS STM
ISO100 f/5.6 1/250s

オーバーツーリズムが問題になりつつある今、年間の外国人観光客数が1000万人を超える浅草は、確かに道行く人々は外国人観光客しかいない?って思うくらいに日本人は少ない。
コロナ禍を経て、今年こそ遠くへ行こうと考える人が多いのだろうか。
足利に向かう列車も「ココ・ファーム・ワイナリー」も例年の様な人出は無く過ごしやすかったが、浅草は外国人観光客で溢れかえっていた。

EOS R5 RF35mm F1.8 MACRO IS STM
ISO100 f/4.5 1/250s

お参りだけはしたかったので「浅草寺」に向かう。
参道はもう歩くのが難しい位に混んでいて、聞こえてくるのは外国語。
日本人に見えてもアジア系外国人だったり、和服姿をしていても欧米人だったり・・と、日本の景色を象った外国のテーマパークにも見える。

EOS R5 RF35mm F1.8 MACRO IS STM
ISO160 f/4.5 1/320s


お参りだけ済ませたら、目的である食事処目指したい。
浅草で食べるなら「すき焼き」「泥鰌」「天ぷら」「蕎麦」「洋食」などそれぞれ行きたい店が決まっているのだが、今回は「天ぷら」にしようと決めていた。
 
自分が行きたい店は2軒、「三定」と「大黒屋」。
特に現存する日本最古の天ぷら屋と言われる「三定」はお土産で天ぷらを買って、自宅で天丼にしても一味違うほど美味しいのだ。

EOS R RF35mm F1.8 MACRO IS STM
ISO4000 f/5.6 1/15s

12時半頃買った作り置きの天ぷらを20時頃に自宅で食べたワケだが、衣の食感が想像以上に楽しく、ネタの脱水も適度でオリジナルのタレの美味さも相まってかなり楽しい。
だから、今回も店が混んでいたらお土産で天ぷら買えば良いと思って「三定」に向かったら、運良く座席に空きがあった。

EOS R5 RF35mm F1.8 MACRO IS STM
ISO2500 f/4.5 1/250s

室町時代には存在したと言われる天ぷらは、江戸時代では室内での調理が禁止されていた事もあって、多くは屋台で串揚げ状で提供されていた、と記録がある。
それは、火事を避けるため大量の油を加熱する調理に対する禁止令があったが故の事らしい。
 
創業天保8年とある「三定」は、第12代将軍 徳川家慶 の頃に開業したのだが、既に将軍の力が落ちていたのだろうか、店の入口脇で揚げ店前で販売するなど工夫(禁止令の無視?)しての営業だったと想像する。
 
ところで自分、天ぷらだけでなく揚げ物全般が好物で毎日でも食べたいと思うのだが、脂質が多い食品は間違いなく太る。経験的に揚げ物主体な食事をすると一食でも確実に太るので、外食では特に避ける料理カテゴリーとして認識していた。
だが、それでも好きな物は食べたいから、天ぷら屋へは年に1〜2回くらいのペースで訪れていた事を思い出す。
 
天ぷらは脱水しつつ蒸す料理と言われ、水分量と油との同化も図る旨みと香りを演出する調理法になるが、火加減の難しさがあるので熟練職人しか美味い天ぷらは作れないと誤解していた。

EOS 10D SIGMA 12-24mm F4.5-5.6 EX DG
ISO800 f/5.6 1/45s 24mm

この天丼は、横浜の関内にあった「羅天」という名店のランチで出たもの。
撮影したのは2008年で、カメラはなんとEOS10D。
DXO PhotoLabのDeepPRIME XDの力によってここまで画質を上げる事に成功できたが、運良くRawデータで記録していた事で実現できた。
 
「羅天」は既に閉店しているが、カウンターメインの店舗では揚げた順に出してくれるスタイルで、美味しい天ぷらが楽しめるので人気でもあった。
そんな店が出すランチには当然だけど「天丼」が用意される。
蕎麦屋の「天丼」よりも豪華だし美味い天ぷらが使われているのだから、どうしても天丼が食べたくなったら訪れる店でもあったのだ。

EOS KissX2 EF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS
ISO 800 f/5 1/8s 20mm

「天丼」と言えば蕎麦屋のそれがイメージだし、それは海老天2本が乗っただけの丼って概念も自分にはあったけど、和食系のレストランだとこんなスタイルが多かった。 
 
ただ、揚げ方は比べるべくも無い。
表面はガリッとした食感があってネタも脱水が進みすぎな場合が多く、見た目よりも味わいが普通だったりする。
 
ちなみにこの写真も古いカメラで撮ったもの。
EOS10Dで実験したらKissX2も試したい・・と言う事で、Rawデータ記録した1枚を同様に現像してみたのだが如何だろう?
 
レンズはキットレンズとしては秀逸なEF-S 18-55mm F3.5-5.6 ISで、APS-Cセンサーでは必要十分な性能がある事が画像からもわかる。
PowerShotS95よりセンサーサイズが大きくて画素数もちょい上って、ひょっとしたら日々の料理写真に最適?・・なんて思ってしまった。

PowerShot S95 6-22.5mm F2-4.9
ISO800 f/3.5 1/40s 13mm

この天丼は、桜木町と言うか野毛に近い場所で営業する「あぶら屋」のもの。
カメラテストにもなるので、PowerShot S95で撮った写真の中からピックアップした。
 
「あぶら屋」は食用油卸の「平尾商店」が経営する天ぷら専門店だが、定食と天丼を主に扱う庶民的な店で、ネタの美味さよりも油の美味さを味わう様な気配がある天丼が楽しめる上にリーズナブルなので、人気店と言うべきか。
 
そもそも日本における食においては、口の中で完結する料理が多い。
中でも丼物については、主菜と主食が口の中で渾然一体となって味わいが完成するので、その最たる物かも知れない。
天丼の場合は、天ぷらその物が今一でもタレが浸みて柔らかくなった衣やご飯の食感と味わい、そしてネタその物の味などがちゃんとバランスされれば、美味しいと感じられるのが道理だろう。

EOS R5 RF35mm F1.8 MACRO IS STM
ISO3200 f/4.5 1/60s

さて、今回食べた「三定」の天丼は、敢えての「並」。
高級天ぷら店の物とも、蕎麦屋や庶民的な店の物とも違う独特の食感と美味さがあって、久しぶりに食べたら「そうそう、コイツが食べたかった」と独り言がこぼれてしまった。
 
江戸前の天ぷらは、小魚に衣を付けて胡麻油で揚げるのが基本。
野菜などの天ぷらは精進揚げと言われていたようで、天ぷらにする事で美味さが際立つネタとしてはギンポ・キス・メゴチあたりが上げられると思う。
 
この美味い天丼が、牛丼屋の様に何処でも食べられたら嬉しいのだけど、今のところ「天丼 てんや」があるくらいだ。
安くできる理由は、特別製の粉と特注の油、そしてコストパフォーマンスが良い材料の吟味に加えてオートフライヤーが優秀、という事が上げられる。
 
職人の経験で判断されていた天ぷら内部の水分量は、機械の力でコントロールできるようになってきていて、例えば超音波を使用して水分子をコントロールしながら揚げる事が可能になっている。
この装置を使うと、衣はクリスピーにしながらネタの水分量をコントロールできるので、脱水し過ぎでうま味まで捨ててしまうような事も無く、経験が少ない調理担当でも失敗せずに天ぷらが作れるワケだ。
 
調理器具がどんどん進化し、過去には調理不可能だった料理も登場するのは、カメラの進化の方向性と似ている。
手ブレ防止もピント合わせもカメラがやってくれる今、「何を撮るか」や「何を見せたいか」といったクリエイティブな部分が重視されていくのは、誰でも理解できるだろう。
 
調理器具の進化によって煮物を天ぷらにするような事が可能になった今、「何を天ぷらにしたら楽しいか?」という方向に調理者は考えるようになり、今までとは違う新しい天ぷらが登場して認知されていくのも、当然の事なのだろう。
 
変わらぬ物の魅力と、新たに生まれる魅力、どちらも大切なものだと思うけど、その魅力を見つける目を鍛えないと、何も変わらない毎日しかないと思っている。
 
テーマパーク化した浅草寺界隈で写真を撮る気があまり起きなかったけど、大提灯の底に掘られた龍の姿だけは、アウトプットしたいと思って撮ったこの1枚。
 
その変わらない姿も、どれだけの人が気づいて、それに魅力を感じるのだろうか?・・と思ってしまうのは、歳の為せる技なのかも知れないね。

EOS R5 RF35mm F1.8 MACRO IS STM
ISO3200 f/4.5 1/320s


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