見出し画像

ウェルビーイング系スタートアップの中間報告|よけいわからなくなった

こんにちは。Nesto代表の藤代です。
ニューヨークにて2020年の年明けを迎えた頃からはじまった株式会社NESTOですが、気がつけばもうすぐで3年が経とうとしています。
この期間その時ごとにベストを尽くしてきたつもりではありますが、ここにきて一旦棚卸しの必要性を感じています。
このNestoでの3年間の経験を共有することが、誰かの気づきになれば幸いです。


藤代健介 ふじしろ・けんすけ
Nesto発起人 & 代表取締役社長

1988年千葉県生まれ。東京理科大学建築学科卒。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科在学中に、理念を場に翻訳するデザインコンサルティング会社prsm創設。2014年、人生をプロトタイプする半年限定のコミュニティPROTOを創設。2015年に世界経済フォーラムのGlobal Shapers Communityに選出され、2016年度Tokyo Hubのキュレーターを務める。2017年5月からは意識家族を通して平和活動を実践する拡張家族Ciftを東京・渋谷で創設し、100名を超えるまで家族を増やす社会実験を行う。2018年にはForbes 30 Under 30 AsiaのThe Arts部門に選出。2020年3月に株式会社NESTOを創設し、空間を超えてみんなの暮らしのリズムを整える遠くのご近所のエコシステムを提供している。


1.ウェルビーイングがわからない

2022年はウェルビーイング元年とも言われています。たしかに国内でウェルビーイングという言葉を聞く頻度が増えてきました。
僕もウェルビーイングを探求するものとして、この3年間それなりに向き合ってきたつもりだけど、よけいにわからなくなっています。

2020年4月から続けている「ウェルビーイングってなんだろう?」というポッドキャストは、探求活動そのものでした。
第一弾は僧侶でありダボス会議にも出席されている松本紹圭さんと、2年弱ほど対話を続けてきました。現在は第二弾として、華道家でありハーバードビジネスレビュー研究員でもある山崎繭加さんと対話を続けています。
紹圭さんとは仏教的な世界観からウェルビーイングを探求しました。最終回の結論は「Beingとは空である」であり、「ウェルビーイングとは無いものを有ると認識し、それと共に存在する」というものでした。
第二弾の繭加さんとは、主にアメリカのウェルビーイングに関する研究論文をベースに探求しています。まだはじまったばかりですが、ウェルビーイングの輪郭を様々な研究結果をベースになぞっている感覚があります。

また、Nestoでは、二至二分を認識するためのオンラインフェスを2021年の夏から欠かさずに行ってきました。前回の2022年夏至からは、ウェルビーイングをテーマにしたトークセッションを開催しています(アーカイブはこちらからご覧になれます)。
ゆるい雰囲気の中、切れ味のいいテーマのすてきなゲストたちのトークセッションは、どれもウェルビーイングについてのフレッシュな気づきに満ちています。
しかしそれもまた、ウェルビーイングの輪郭をなぞっている感覚があり、探求するほど空の深さが際立ってくる印象さえあります。
私たちにとってBeingとは、それほど深淵なのかもしれません。

僕が最近、ウェルビーイングの結論として説明会や取材などでひとまず出しているのは、「ウェルビーイング=中道」説です。
これは中世までの他律的な生き方、近代の自立的な生き方の歴史を踏まえて、ポスト近代として自在に自分のアクセルとブレーキを踏めるような自律的な生き方を、ウェルビーイングと定義するものです。
そして自律するための環境として、リズムという生活習慣でつながるコミュニティをNestoでつくったという話につながっていきます。

しかしこの「自律」という言葉自体、近代哲学が提唱したものであり、この言葉を中心に据えれば、西洋的な個人主義に属することになると最近気づきつつあります。
ポスト近代的な在り方としては、東洋的な価値観は不可欠です。全体に溶けていくコレクティブな在り方こそが近代の超克だとしたら、自律という言葉をアンラーニングする必要があるのでしょう。

このように僕の中で、個人レイヤーでの「他律と自立そして自律」の構造が崩れつつあります。そして新たに共同体レイヤーでの「他律と自律」の構造が立ち上がりつつあります。
個人から共同体へとウェルビーイングのスコープ範囲が広がった結果、複雑性はより深まり、さらにわからなくなっていきそうです。


2.リズムがわからなくなった

「自律」への問いが生まれてきて、2年近く続いて今では約40個ある時間同期型コミュニティである「リズム」についてもわからなくなりつつあります。

リズムはホスト自身が続けたい生活習慣の「時間帯」と「頻度」と「内容」をただひらくことで成立する場所です。
他のオンラインクラスとの違いは、ホストは相手のための先生ではなく、自分のための習慣を共に実践する仲間だということです。

リズムという場において、「習慣を続けること」と「適度な距離感のつながりができること」に一定の価値がある感覚はあります。
一方で、リズムという場が個人の「自律」をサポートするために無意識に設計していたことに気づきつつあります。
当初のリズムのメタファーは「修行道場」でした。道場は、自ずと身を正したくなり、自ずと清まっていくような場です。リズムではそれを時間上につくろうとしていました。

はじめは修行という言葉の響きからもストイックさを求めていましたが、2年やってみて、実際の雰囲気はだいぶ違ってきています。
みんながリズムに感じている心地よさは「行きたい時に行って、休みたい時に休める」ようなおおらかさです。
人によってリズムへの向き合い方はそれぞれでよく、それでも全体がゆるく保持されることで、全員がその習慣をゆるく継続した結果、その行為がゆっくりと上達していく、そんな場がリズムの中で誕生しつつあります。

そうなると、リズムへの見方は変わってきてもいいのかもと思いつつあります。
今までは社会的な時間同期を前提としていたので、グレゴリオ暦の週で区切り固定化されていた時間帯と頻度を集合場所にしていました。
しかし本来リズムとは、外側の社会的なものだけではなく、内側の身体的なものにも宿っています。
そして私たちが目指すポスト近代とは、リズムを他律的な社会的なものから自律的な心身的なものへと回帰していくことではないのか? と感じつつあります。
「内なるリズムに耳を傾け、それを外の生活習慣とする」そんなことがリズムという場で共助的にできたらすばらしいな、と今では思うようになりました。

しかし、それを実際にどうコミュニティの場としてワークさせていくのかは、まだわかっていません。
つまり2年やってきたリズムという活動自体がまたわからなくなり、リズムという場の仮説構築の振り出しに戻りつつあります。


3.スタートアップがわからなくなった

前述にあるように、リズムの在り方がコンセプトレベルで変容するかもしれないような柔らかさでありながら、事業を2年弱ほどスタートアップ的に挑戦してきました。
今思えばビギナーズラックが重なり、PoC(概念実証)ができたと思い込んで、そこから規模拡大に走りだしていました。その期間、僕は「いかに拡大するか?」に意識の大半がとられていたような気がします。
そもそも、僕は株式会社NESTOをユニコーンを目指すようなスタートアップとして創設したわけではありませんでした
2020年の3月に株式会社としてNestoははじまりますが、実はその前の1年間は新しい会社の形を模索していた期間でした。
ヨーロッパで話題になりつつあるスチュワードオーナーシップや、アメリカ発で日本でも認識が広まりつつあるゼブラ企業などの形を勉強して、試行錯誤していましたが、自分の実力不足もあって、オーソドックスなスタートアップモデルにて株式会社NESTOがはじまったという経緯がありました。

そういう経緯があるにも関わらず、総計で1億円もの投資をいただきスタートアップと名乗りはじめると、自分の意識がスタートアップ的になっていたことに気づきました。
スタートアップは、投資でいただいた金額を燃やしながら、常に赤字でありながらも売り上げを上げていくような、レバレッジをかけていく経営体制がスタイルです。
僕たちもPMF(プロダクトマーケットフィット)を目指して、お金が溶けていく中で色々な試行錯誤をしていました。そこではお金が溶けていくのを肌で感じるので、つい目の前の数字や、いかに拡大するかということに気が向いてしまっていました。
手持ちの資金がバーンレートの半年を切るまでは、スタートアップとして挑戦するということを決めていました。しかし挑戦は実を結ばず、会員数は予想の通りには増えずにその期限が来てしまいました。
通常のアプローチでは、どうにかスタートアップとして、ピボット含めて事業の活路を見い出して、投資家をまわり、もう一勝負をするというのがセオリーです。
しかし、僕たちはこれをきっかけに対話を重ねた結果、創設した原点に立ち戻る決断をしました

その理由は、私たちの目指すテーマはポスト近代的なウェルビーイングであり、その現れとして「内側が満たされた結果、外側も満たされる」という世界を実現したかったからです。
この在り方はホストへのマインドセットやチームの役割分担などでは意識していましたが、根本的な経営体制では、この理に沿っていない態度であることにあらためて気がつきました。
そのような背景から、これからの私たちは、売り上げ以上の支出をしないという原理を採用した経営体制へと切り替えることを決断しました。
現状の売り上げでは経営陣の報酬も充分に払えないので、個人の自立を前提とした副業をしていきます。
株式会社NESTOとしての自立を促すために、今までの経験やつながりをいかしたウェルビーイングに特化したエージェント事業もはじめています(関心ごとがあればぜひお声がけください)。
悲観的に見えるかもしれませんが、会社の在り方としてはポスト近代に向けたあるべき経営と事業のバランスになっているという感覚もあり、むしろ僕は新しい未来の息吹を感じてワクワクしています。

ホストやチームとも数ヶ月かけて対話をして「ない袖は振れない」ということを理解してもらい、その上での関わり方を再調整しています。
うれしいことに、関わる目的が報酬ではないと言ってくれるホストが多く、このままリズムを続けてくれようとしています。
株主たちは、僕たちのパーソナリティーや世界観を最初から理解してくれていたので、大きな認識齟齬が起きることなく、引き続き見守っていただけるのをありがたく思っています。
3年弱で積み上がった資産は人との深いつながりだなと、ここにきてあらためて感じています。

僕個人としての反省もあります。
自分は今まで不安定なフリーランスの人生を歩んできたので、Nestoに甘えた部分があったことを自覚しました。

株式会社NESTOはスタートアップという型を手放して、宙ぶらりんになりました
これからは関わる一人一人がウェルビーイングであることを前提に関わることで、全体が機能するような在り方を探求していくことになっていくのだと思います。
それを実際にどうやって進めていくのかは、まだ全然わかっていません。


4.生き方がわからなくなった

以上のように、2020年の年明けからはじまった株式会社NESTOの一連の物語は3年弱を経て、よけいにわからなくなっています。

  • 我々が目指したいウェルビーイングとは何か?

  • それを実現させるためのリズムというコミュニティの在り方は?

  • 事業の土台となるウェルビーイングな経営の在り方は?

あまりにわからないので、これらの問いについては、みんなでオープンに探求・実践したいと思うようになりました。
そのような背景から、Nestoラボという場を10月から実験的に立ち上げます。

これは株式会社NESTOの物語をみんなで見守り、励まし、時に共創するような場です。
私たちが目指したい世界観であるポスト近代を要素分解した「資本主義の未来」「新しいコミュニティ」「ウェルビーイング」を主な3つの切り口として、実践の経験を踏まえた探求する場でもあります。
同時に、各事業のやりとりや個人の日記など、あらゆる方面をオープンにすることで、私たちに内在する集合無意識的な創発を期待しています。
まずは10月から3ヶ月間「Nestoラボの実験期間」としてメンバーを募集しているので、気になる方はこちらよりご参加ください

Nestoラボに至る背景として、株主、チーム、ホスト、メンバーなど、Nestoを取り巻くステークホルダーには去年からNesto総会と題して、すべての経営状況をシェアしてきました。またこの3ヶ月ほどは、毎週の経営会議をオープン化しています。
そこからもっとステークホルダーの関係性が溶けて、3つの切り口を軸に、みんなで探求と実践をしていくような場になればいいなと思っています。

最近、株式会社NESTOが目指したい経営と事業のバランスを自覚してきました。
それは「本人がウェルビーイングだと思うことを、本人がウェルビーイングな状態で、他者におすそ分けしたら、結果的に事業になった」ということです。
例えると、コップの水が満ち溢れて誰かに届くイメージ。もしくは太陽のように自分が輝いていたら、結果的にそのエネルギーが誰かに届くイメージです。
真剣に自分の生き方に向き合った結果、自ずと全体に生かされる世界観を、個人レベルで、会社レベルで、実現しようと挑戦するのが、株式会社NESTOなのだと思います。

そうすると、Nestoリズムのみにこだわる必要はないと思うようになりました。
現在は、Nestoハウス、Nestoリトリート、Nestoトリップなど、本人たちがやりたいからやってみる、遊びなのか仕事なのかわからない新規事業の種が続々と出てきつつあります。
これが形になるかどうかは、まったくわかりません。

僕はというと、この3年弱は株式会社NESTO代表取締役として振る舞ってきた部分が少なからずあることに、この棚卸しをして気がつきました。
具体的には1日約8時間・週5日の労働時間を確保した中で、Nestoリズムをどうにかスタートアップとして軌道に乗せようと、少なくとも意識をしてきたということです。
しかし、ウェルビーイングな経営と事業を真ん中に置くことで、もっと肩の力を抜いて、自分の人生を中心に据えた上で、Nestoとより自然な距離感で関わっていけるのではないかと思えるようになりました。
それが結果的にNestoでのバリューになることを信じていますし、その無意識な怠惰に対する抵抗意識こそが、近代的な呪縛なのだとも感じます。

これからの僕はこれらの問いを探求・実践して、どうなっていくんでしょうか?
それが、この一連の流れで僕が一番わからなくなったことかもしれません。
僕はどんな宿命を持って生まれてきて、どんな運命を背負って今世を生きていくのか。

さて、これからの私たちの生き方はどうなるんでしょう?
さて、これからの私たちを取り巻く社会はどうなるんでしょう?
さてさて、これからの人類は、地球は、宇宙はどうなるんでしょう?
全部わからないですね。

以上、株式会社NESTOの中間報告でした。
続きはあるかわからないけど、こうご期待!

Nestoラボのお誘い
Nestoラボでは、ほぼ毎日僕がこのような日記を限定公開しています。
それ以外にもNestoリズムの経営状況のシェアや、普遍的なウェルビーイング・新しいコミュニティ・資本主義の未来などの探究を220名程度でしています。
あなたの智慧と経験と挑戦もシェアしてくれると嬉しいです。

詳細はこちらから

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?