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もしもあなたが消しゴムだったら【思考の引き出しの増やし方】

「もしもあなたが消しゴムだったら」という設定で短い文章を書きなさい。

これは私が小学6年生の時、中学受験のために通っていた塾で目にした問題です。30年以上経った今でも、この問題を見たときの衝撃、そして模範解答を読んだときの感覚を忘れることができません。


この問題と出会ったのは小6の秋口だったでしょうか。国語の授業中、解説を聞いて学ぶことが下手だった私は、いつものように解説を半分聞き流しながら、授業中には扱わない他の問題に目を通していました。

すると、最後のページに、普通の読解問題とは違う雰囲気の問題があるのを見つけました。それが冒頭の問題です。


「ん!?」


外からはわからないながらも、内心かなり混乱している私をよそに、いつも通りの授業は続いています。


「どういう答えを書けばいいんだ……?」


どんなに考えても、その当時の自分の思考の引き出しの中には、その答えの糸口となるものが見つかりませんでした。

味わったことのない感覚のまま、その日の授業が終わります。

と同時に、その日の問題プリントの解答が配られました。

私はプリントを受け取ると同時に、最後の問題の解答を一目散に探します。


「なるほど……そういう感じのことか……」


新たな視点が自分の中に備わったのを実感した私でしたが、次の瞬間、先生から思いもよらない言葉が。

先生「〇〇中を受験する可能性がある者は、最後のページの問題を解いて、書けたら職員室の方に持って来て」(〇〇中は国語が難しいことで有名な男子中学)

私「(え゛)」

私「(もう解答見ちゃったんだけど……)」

〇〇中が第一志望校だった私は、残ってこの問題を解くことに。

教室に残ったのは私を含めて3人。いつもと比べてガランとした空間の中、そして見慣れない問題を解く緊張感の中、3人ともなかなか筆が進まず。

迷っていても仕方ないので、とりあえず自分なりに考えてみるわけですが、どうしても解答の内容に似たものしか書けません。

結局、解答の文章の言葉尻を変えた程度の文章しか書けず、恐る恐る先生に見せに行きます。

先生「これ……解答見ただろ」

私「ええ、まあ……」

別にズルをしようと思ったわけでもないので、言い訳することもできたのでしょうが、当時の私はうまく取り繕うことができずにただただ恐縮していました。

幸い、特にそれ以上咎められることもなく、無事に家路につくことができました。


後々考えてみると、モノの気持ちになって考えるといった話は、それまでに「ドラえもん」などで出会っていたはずなのですが、それを自ら言語化する術を持っていなかったわけです。

出会ったことのない問題に対して、文章としてどのようにまとめれば良いのかということがわかっていませんでした。

それが、この問題に出会ったことで、一つの大きな例文を手に入れることになりました。

自分で言語化できる新たな視点が確実に一つ増えた瞬間です。


受験生の皆さんも多くの問題と日々出会っていることと思いますが、それが解けるようになることだけを目的にするのではなく、新たな思考回路を手に入れることも目的にしてほしいなと思います。

一度でも考えたことがある問題とそうでない問題とでは、正解できる確率がずいぶんと変わってきます。

科目を問わず、近年は思考型の出題も増えてきているため、頻出問題の反復練習だけでは太刀打ちできません。

ただ、そういった思考型の問題が解けるようになるにはどうしたらいいのかわからない、だから練習しやすい問題ばかりをやってしまうという子が大多数だと思います。そもそも変わった問題であるからには、出会う確率自体が低いわけですよね。

では、このような問題を得点源にするにはどうしたら良いか。

それは、とにかくたくさんの見慣れない問題と出会うことです。

そして、少しだけ考えてみてから解答を見ましょう。冒頭の問題に対して私がしたように。

そうするだけで、その問題に対する解答の鍵は手に入ります。算数に関してはその鍵を持っているだけでは、正解までたどり着かないかもしれませんが、少なくとも正解へとつながる突破口にはなります。

冒頭の問題のような、国語の見慣れない問題、また理科や社会の記述問題などは、この練習法でかなり力がつくはずです。

自分が受験する学校以外の過去問や市販の問題集も活用しながら、見たことない問題、考えたことのない問題を探してみましょう。そしてその解答の糸口をどんどん吸収しましょう。

ただ、この勉強メニューは、普段の勉強と同じような感じでやらなくても良いと思います。「解く」のではなく「見る」ことを主体とした練習だと意識した方が良いでしょう。

見るだけにとどめておいた方が、出会える問題の数が増え、その分引き出しが増えてくれます。

未知の問題と数多く出会い、新たな思考の引き出しが増えることを楽しむような姿勢で取り組んだ方が、自分のものとして身につくのではないかと思います。

過去問演習をはじめとした追い込みの勉強で疲れたときに、息抜きの一つとしてやってみてはいかがでしょうか。息抜きの割にはいろいろな意味で随分と「足し」になりますよ。


最後まで読んでいただいた方のために、冒頭の問題の解答例を書いておきます。

「いつも体をこすられて、汚されて、削られて、時には体の一部が欠けてしまったり、机から落っことされたりすることもあるけど、捨てずに使い続けてくれていることをありがたく思っている。」

一回下げておいて、最後は上げる感じですね。受験に限らず、文章を作る上で様々な場面で重要となるテクニックの一つです。



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