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学習コンテンツのSoRとSoE

 以前から、HRソリューションにはSoRとSoEの2つの種類(目的)があるとこちらでも発信してきました。SoRはSystem of Recordの略で、シンプルに言ってしまうと「管理のためのシステム」で、SoEはSystem of Engagementの略でこちらは「支援するためのシステム」と私はいつも説明しています。学びを社員の成長と貢献の機会につなげていくならば、そもそもの学習コンテンツにはSoRとSoEという性質の違いがあること、そしてそのデリバリーの方法も異なるという点の理解が必要と考えています。
そして、SoEの学習コンテンツをデリバリーすることはSoRのコンテンツ・デリバリーの何倍も難しい。こちらは最初から高いレベルでの実現を求めず、ターゲットを絞り込んで一つひとつ試行錯誤していくプロセスへの忍耐も求められます。

 今日、社内で話していてふと思ったのですが、私たち会社が社員に提供している学習コンテンツにはSoRとSoEという性質の違いがあること、そして社員に提供されている学習のコンテンツはSoRに分類されるものが多いのかもしれないと思ったのです。
 日常的に会社の仕事は何らかの規則、規準、規程に従って進められますから、そうした類の、行ってみればCompliantに、職務を的確に遂行するための必須の知識やスキルを得る、それを理解して実行できるようになるための研修というのが必ずあります。また、こうした研修プログラムは必ず受講修了してもらわなければならないもので、企業としては実施が必須の研修と言えます。優先して取り組まなければならないものと言えるでしょう。

 しかしながら、これが社員の成長や貢献意欲を高めることができるかというとどうでしょうか? 正直なところ、これで学習意欲が高まる、もっと学習して仕事に役立てたいという欲求を受講者に喚起するのはなかなか難しいように思います。それは、会社や事業上の必要性に迫られてデリバリーされているもので、社員一人ひとりの欲求に沿った学習コンテンツではないからです。故に、社員として知っておかねばならない内容であっても、それが社員のモチベーションを上げるかどうかは全くの別の問題だと考えます。

 SoEの性質を持つ学習コンテンツとは、社員一人ひとりの欲求に応えるものと考えます。一人ひとりの欲求、それは「期待」と言ってもいいかもしれません。
未来の自分への自分自身が持っている期待。
あるいは、チームから自分の未来に対する期待。
一人ひとりが受け止めている「期待」と、それに対応する学習コンテンツだから、これを一律的にデリバリーするのもなじまないですし、コンテンツの種類もSoRに分類されるものに比べて膨大な量が求められるでしょう(多品種少量生産みたいに)。

 しかし、世の中にはそうした期待に応える「コンテンツ学び放題ソリューション」も存在しています。自社ですべてのコンテンツを内製することは工数的にも不可能ですし、時間的にもタイムリーにデリバリーできない場合は、調達可能なコンテンツは外部と契約して調達して必要とする人が一早く学習できるように提供し、自社は内製すべき(内製しなければできない)コンテンツの開発に特化する。この流れは極めて自然な流れだと思います。

 さて、こうした方法でコンテンツを揃えてとして、次にやるべきことは何か? それは、社員一人ひとりの欲求や期待に応える学習コンテンツを社員に知ってもらうことでしょう。
 ここで意識したいことが最近のマーケティングで言われるDECAXの発想です。最初のD=DiscoverのExperienceの設計です。Discover、つまり、社員はどうやって自分の知りたいこと、学びたいことをサポートしてくれる学習コンテンツに辿り着く(発見する)ことができるのか、これをデザインするということです。
 そのヒントは、Instagramの広告、Amazonのパーソナライズされたマーケティングにあるように私は考えています。私たちはユーザーとしてすでにこれらを体験済なので、全く知らないというわけではありません。となると次なるチャレンジは、会社はそれを実行するために必要な、十分なCognitive属性情報を蓄積する必要があるということです。InstagramやAmazonのようにカスタマイズして情報を届けることができるには、一人ひとりの期待に関連する情報を充分に蓄積していないと、一人ひとりの期待に沿った学習コンテンツを送り届けることができません。この現状の打破は結構大変です。

 いま企業の人事データベースにはCognitiveな情報はあまり蓄積できていません。こうしたことに使える解像度の高い情報を社員から預かっていないという課題を認識しています。これがない限り、「○○学び放題」ソリューションも結局はそこに利用できる状態になっているだけになってしまう可能性さえもあります。Cognitiveな属性情報を蓄積していれば、そのデータを使って個別最適化(パーソナライズ)して、その人の興味、関心、期待に沿った学習コンテンツをお知らせすることができる。コンテンツがあるのに学習が進まないと現状があるとしたら、このようなアプローチを繰り出していく必要があると考えます。

 SoRに分類される学習コンテンツに比べると、SoEに分類される学習コンテンツの開発とその受講活用度を上げていくのは本当に大変なことなのだと思います。マーケティング的な発想で、データを活用してパーソナライズすることができるために、十分に必要なCognitiveなデータを社員から預かること、そして研修実施者側の都合ではなく受講者側の都合でanytime、anywhereで受講できる環境作りなど、やるべきことがたくさん出てきます。やるべきことを具体的にちょっと考えるだけでも、遠い道のりに気が遠くなりそうです。本当に地道な作業、新しいプロセス構築になると思います。

 しかしながら、ますます人手不足に陥るこれからの時代に会社が働き手に選ばれるためには、人的資本の所有者である社員(未来の社員も含めて)一人ひとりに向き合った学習のコンテンツ、機会を提供することができる仕組みとオペレーション作りにいまから着手しておくことは、将来エンゲージメントの高い社員とともに会社が成長していくことを可能にしてくれると思うのです。

 SoRでの主な目標とKPIはオペレーションの効率と思います。SoEにおいてもオペレーションの効率は必須の目標/KPIになりますが、それを達成しただけで十分に機能しないのがSoEの難しいところ。
 マーケティングの発想を取り入れ、そして蓄積したデータが豊富になるからこそ実現するパーソナライズした学習支援ができるようになります。これがSoEのラーニングの難しさでありますが、その先にエンゲージメントに寄与するラーニングマネジメントが実現すると考えます。
 そして、これを加速するもう一つの方法を思いつきますが、それはまた改めて!



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