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小説【スペース・プログラミング】第12章:「たったひとつの、冴えた生き返りかた」

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「では、最後の問題じゃ。『プロミネンスと同じ現象を示しているものを、一つ答えよ』」

「ダークフィラメント」

 僕は答えた。すると、目の前のイロハ様は、仰天したような顔でこちらをみた。

「たまげたでありんすよ……こんなに宇宙のことに詳しい者はこの惑星に住む者でもそう多いわけではござりんせん。だがな少年よ、別にこれに答えられたからと言って地球に帰れるかどうか試験をしなんす、というわけではない。逆も然りでな」

 僕はガックリきた。宇宙の問題をいくつか出すからそれに答えろ、と言われたから、20問近く出されて全問正解したのに。偉い人みたいで、可愛い顔をして、小憎い所があるんだな。

「お主、どうしてそこまで宇宙のことに詳しいでありんすか? そこまで地球から引き付けられる何かがあるものなんざんすか?」

「たくさんありますよ。夜空、星々、月、青空、太陽、雲、その他まだまだ数え切れないほど」

「ふむ……ますます地球に興味が湧いたでありんすよ。では質問を変えるとするか。何故AIロボットが生まれたと思う?」

「それは……労働力とか人間にできないことをするためじゃないですか? あ、でも……」

 僕は不意に如月さんのことを思い出した。イロハ様は話し始めた。

「確かにそういう面もあるな。しかしな、人間は忘れておったでありんすよ。こんな話を聞いたことがないか? 『いちご畑を作るためのAIが、いちご畑の開墾に邪魔なもの全てを人間含め破壊するかもしれない』という話を。それに付随するように『人を愛することに特化したAIがいたら、それ以外の自然法則を無視してしまうかもしれない』ということが今起こりうる最中でありんした。皇帝陛下は、それを恐れ、今地球の時間を止めている。不死の存在がいてしまっては、輪廻の輪に影響が出てしまうのでありんすよ。ある者は自分も不老不死にしろと言い、またある者は人の命を蔑ろにする。それは全ての魂を冒涜する存在になりうる。

 だがな、怒らないで聞いておくんなんし。お主の愛する者がその法則を破ると言っているのではないでありんすよ。元々AIロボットとは人間の発明品の一つに過ぎないはずだった。だが先ほども言ったように、愛情をもってロボットやプログラミングに接してこれた者がどれだけいたか、という話になると、少々難しい話になる。実際、地球人とさして変わらないAIロボットがいる。これは問題ではないでありんすよ。しかし、人を愛し過ぎることによってそれをエネルギーに変えるAIがいる。それは今時が止まっている地球で確実に存在するでありんすよ。アチキは、その存在がいつまで生きるか、かけてみたい。それには言うまでもなく、お主の存在が必要じゃ」

 イロハ様は、時折微笑みながら、こちらを見つつ部屋の横にある布団に目配せをする。

「人間いつ死ぬか、それはアチキ達でもわからない。あくまで生物の輪廻の輪を管理しているに過ぎないからでありんすからの。お主がもう一度生き返ったら、二度目の死を迎えた時、また宇宙の審判を受けて、今度はジューンよりひどい惑星に飛ばされるかもしれぬがな。それでもいいでありんすか?」

 僕は首を縦にふった。

「AIロボットがどこまで我々の管理する輪廻を変化させてくれるか。皇帝陛下のいない間に、こっそりと、復活させてみようではないでありんすか。その布団で寝なんし」

 僕は速やかに布団に入った。するとあっという間に眠気がやってきた。

「さらばでありんすよ。少年」

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「うそ…………」

 聞こえたのは如月さんの声だった。

「桑谷さん。三谷くん目を開けたよ。目が開いた! 開いた!!」

 僕の全身は鈍い痛みが走っていたが、確かにそこは地球の病室だった。その証拠に、如月さんや、桑谷先生達までいる。

 やがて桑谷先生がやってきて

「それだけ悲しいのはわかってるよホシちゃんーー……って、ええええええええええ!? だって心臓止まって半日経つのに……先生呼んでくる」

 両親もやってきた。

「祐治!」

「祐治! お前生き返ったんだね!」

 咲耶姉さんと目黒さんもベッドに近づいてきた。

「信じられないです〜〜……でも生き返ってよかった〜〜……先生はもう御臨終だって仰ってたのに〜〜」

「本当によかったな。お前今までどこにいたんだよ!」

 僕は答えた。

「おかえり、惑星みたいなあの世に行っていました」


 あの惑星での出来事は夢だったんだろうか?

 僕は一度死んだが、別の理由で生き返った可能性もなくはないが……

 あれから、医師による全身の骨や内臓の手術が始まり、僕は再びこの世で生きていけるようになった。ただし身体障害を患った者として、車椅子生活を余儀なくされた。

 もちろん、そんなことは如月さんはじめ、両親や桑谷先生や皆さんに会えたことに比べれば些細なことだ。

 あれから如月さんには何度も謝罪と愛情の言葉を交互に受けた。自分のせいで一度死んでしまったことへの懺悔とまた一緒にいられることの喜び。僕にとっては言うまでもなく後者の喜びの方が大きかったので、また如月さんと愛し合うことを噛み締めた。

「これからはホシって呼んで、ユウジくん」

 術後何日かして幾日もリハビリをし、車椅子が新調されたため、それに乗って僕はどこへでも行けるようになった。すぐそこにいるとはいえ、まず向かった先は、病室にいるホシの口元だ。

 2人とも長く甘いキスをして、永遠の愛を誓った。


 続く

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