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ドイツ北部での私有林の収益性


春のブナ林

先日の演習"Forestry in Germany"は、車で40分ほど行ったところにある私有林で行われた。最初30分ほど、この地域を担当している森林管理署Forstamt MündenのNo2である女史(名前が分からなかった・・・)に担当区域の森林管理の現況について解説してもらう。彼女もフォレスターなのだが、もう一人のフォレスターが州・自治体所有林の担当で、彼女はそれ以外のコミュニティーフォレストと私有林が担当なんだそうだ。後者に関してはフォレスターはあくまで助言役ということなのだが、Natur2000をはじめとするさまざまな規制や最近の燃料費の高騰で木材の価値が見直されてきた風潮からの伐採意欲の拡大といった経済状況の中で、持続可能な森林をどう維持していくのか、いろいろ苦労しているんだ、と話をしていた。しかも、行政改革の一環で予算と人手がどんどん足りなくなってきているとか。

同級生たちと演習のためワラワラと森の中へ

演習の目的は、SpruceとBeechの林分それぞれの成長量の推計を行い、そこから収益性を比較すること。いくつかの立木のBasal area(胸高面積?)と高さを測定。林分の年齢が分かれば、理論上の成長量は地域毎に試算されているので、それに対してどのくらいの割引率を見込めばよいかを計算して、当該地の成長量を試算。後は、植樹コスト、林道維持コスト、フォレスターから与えられる様々なサービスに対して支払うコストなどを差し引いて収益性を比較する、という流れ。理論上の成長量の表さえあれば、計算そのものは簡単。結果はSpruceの方が収益性が高い、ということになった。ちなみに設定されていた伐採までの期間は前者が100年、後者が140年。書くのは簡単だが、自分が植えて、育てて、お金になるのは100年後、というのは、腹が据わっていないとなかなかできない仕事だと思う。

択伐方式を支えるしっかりとした林道

択伐というのは、主伐する木を一本一本選んで切り出す方法。皆伐という、日本でよく見かける(ニュージーランドでも一般的だそうだが)、ある区域をまとめて切り出すやり方ではない。前者の場合には、切り出しにかかる諸費用をどれだけ抑えられるかがポイントになるのだけれど、その際に現地までのアプローチの良しあしが重要な要素になる。だからしっかりとした林道の設置と維持は持続可能な森林経営にとってはとても重要になる。ちなみに、しっかりとした林道、というのは舗装した、という意味ではない。大型機械が入っても崩れないような林道であれば十分。ドイツでは舗装した林道というのは見たことがないし、そもそも林業関係者以外、車で(バイクも)林道に入ることは原則NGになっているそうだ。その代り、徒歩で入る分には自由。車が走らない分(大型機械が乗り入れてくるのはシーズンでも一日数回)散歩するのに絶好な環境になっている。

スプルースの森は鬱蒼としていた

冒頭のフォレスターの女史の話によると、今は生態系維持の観点から、単一種の林分を混交林にするのが大方針なのだそう。こういう大方針というのが最近では10年毎に代わってしまうようで、今の考え方は、実は昔の森林管理の考え方に近づいている部分もあるんだ、と苦笑していたのが印象的だった。彼女の家は代々森林関連の職業についているそうで、彼女の曽祖父が書いたものに、今私が行っている仕事のコンセプトと似たようなものがあった、と言っていたのが面白かった。彼女もそれを面白く思っているそうだ。

もう一点、彼女の話で印象的だったのは、近年、冬の燃料源として木を伐採しようとする小規模森林所有者がとても増えたということ。彼らはプロではないので伐採の際に安全対策を怠ることが多く、事故の発生がかなり多くなっていることを嘆いていた。


オリジナル記事公開日:2012年5月5日

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