森の小さな研究室

森に関する学びの記録。自然資本、コモンズ、森林(木材)のサプライチェーンが関心事。Do…

森の小さな研究室

森に関する学びの記録。自然資本、コモンズ、森林(木材)のサプライチェーンが関心事。Doctor of Forest Sciences(ゲッティンゲン大学)。長期投資、語学が趣味。

マガジン

  • ヨーロッパで森林を学ぶ:森林学修士課程SUFONAMA留学記

    2011年から13年まで、EUが提供する国際修士課程プログラムErasmus Mundusの森林学の修士課程 Sustainable Forest and Nature Management (SUFONAMA) に留学してました。留学中、ブログで情報発信していた内容をnoteに転載します。森林に対する世の中の関心が高まる中、本格的にそれについて学ぶために留学を考えている方のお役に立てば幸いです。

  • 徒然日記

    研究や趣味についての雑感。NPO法人緑の地球ネットワーク(GEN)のnoteに寄稿したものも読めます。

  • i-Tree:市民ができるスマホを使った地域環境調査ツール

    アメリカ農務省が開発し、世界中で使われている、市民団体にもおすすめな「i-Tree」に関する情報を紹介します。まとめサイト。

最近の記事

間伐は投資である

現在履修している授業は Planning in sustainable forest management と題されている。11月中旬からクリスマス休暇をはさんで正味10週間にわたるコースなのだけれど、今週はその最終週。 昨日はこの授業の大きな山の一つであるTactical planの内容の報告会。10年間の計画なので、中期計画とでもいうのだろうか。12月に滞在したÖstad Säteri財団が所有する森林の一部(約200ヘクタール)の実際のデータを使って、向こう10年間の

    • エスタードÖstadの森

      月曜日からヨーテボリの北東、エスタードÖstadの街の郊外にある森林へ来てます。スウェーデンでの修士課程2年目は実習が多いのですが、今度は10日間の実習。今回の実習は、Östad säteri財団が所有する森林を対象に、その長期と短期の森林経営計画を立案せよ、という現在与えられている課題のためのもの。数値目標までを含めて1月までに提出することを求められています。 12月に入って急に寒くなってきたスウェーデン。さらに森の中では、普段暮らしているマルメよりも気温はグッと下がりま

      • 森林が身近にあるということ

        D. Rydberg, J. Falckの論文 Urban forestry in Sweden from a silvicultural perspective, a review より。 一般的なスウェーデン人はおよそ2週間に1度、レクリエーションのために森林を訪れているそうだ。年間のべ約2億人がスウェーデンの森林を訪れていることになる。また、8~9割のスウェーデン人が少なくとも年に1度は森林を訪れていることになる。 スウェーデンの人口はおおよそ1000万人。日本

        • 人の暮らしと森づくり

          今週は月曜日から金曜日まで合宿形式での演習。 ほとんどの時間は、林業生産を主な目的とした森林内で、さまざまな計測や造林過程において影響を与える可能性のある病虫害、風雪害、間伐の方法、自然保護の手法について集中的に学ぶのだけど、昨日は少し趣向が違った。 スウェーデンで一番最初に国立公園に指定されたNorra Kvill国立公園を歩きながら、現代的な木材生産を目的としない森の様相は、どのような要因で変化するのか、現場を見ながら話しを聞いた。 講師の方はこの公園内で長年にわた

        間伐は投資である

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        • ヨーロッパで森林を学ぶ:森林学修士課程SUFONAMA留学記
          39本
        • 徒然日記
          20本
        • i-Tree:市民ができるスマホを使った地域環境調査ツール
          3本

        記事

          スウェーデンの国有林経営

          何度か紹介した(IKEAの回、スウェーデン南部森林組合の回)のように、外部講師による講義が複数回組まれているのが現在受講しているモデュールの特徴の一つ。先日は、スウェーデン国有林運営会社Sveaskogから講師が来て、事業内容等を解説してくれた。 ◆Sveaskog社の概要 本来であれば複数の団体にアポ取りしてインタビュー調査する必要がある情報が、向こうから次々に講義室で、しかも丁寧に説明してくれるというのはとても恵まれている環境なのだと思う。 日本でいえば、林野庁や森

          スウェーデンの国有林経営

          スウェーデン南部森林組合の経営戦略

          少し前に、IKEAと林業について、IKEAで働くフォレスターが講師となった特別講義の記事を書いた。このようにEuroforesterのプログラムではスウェーデンの林業関係者による特別講義が多く組まれていて、現場の様子を詳しく学ぶことができる。 昨日は、Södraと称されるスウェーデン南部森林組合(Södra Skogsägarna)の事業内容について、当大学院の博士課程を出て、現在その組合で働く講師の講義を受講した。 Södraはスウェーデン南部の約5万人の小規模森林所有

          スウェーデン南部森林組合の経営戦略

          「ヨーロッパ林業」はなさそうだ

          日本に住んでいた頃は、日本・アメリカ・ヨーロッパというカテゴリーわけで海外のことを考えることが多かったが、ヨーロッパの2つの国で合計1年以上暮らし、しかも途中でウェールズとスイスで各10日ほどを過ごしてみた経験から考えると、こと林業について「ヨーロッパ」と一つでくくることなどできないことにつくづく気づかされる。 例えば、林業の収益性を考える上で重要な伐採周期(Rotation period)が、同じ樹種でもドイツとスウェーデンではまったく異なることを知った。両国ともに代表的

          「ヨーロッパ林業」はなさそうだ

          森林学の国際修士プログラムEuroforester

          僕が現在所属しているプログラムはSUFONAMAといいます。これはEU圏内で森林学の研究プログラムを持っている5つの大学(ゲッティンゲン、コペンハーゲン、パドヴァ、バンゴール、スウェーデン農科)が連合して提供しているプログラム。1年目はゲッティンゲン、コペンハーゲン、パドヴァ大学のどれか、2年目は1年目以外の4つの大学のどれかに在学することが義務付けられています。SUFONAMAは1学年あたり15名前後の定員。それが各大学に分散して所属することになるため、それぞれの大学ではS

          森林学の国際修士プログラムEuroforester

          IKEAと林業

          ※注意※ 本記事は2012年8月に書いたものを再編集し、公開しています。 数値については、2011年度(もしくはその前後)のものです。現在とは状況がかなり異なっているはずですので、その点、十分注意してください。 私としても、いつか機会があれば、現状をヒアリングできれば良いなと思っています。 ※※※※ IKEAはあのイケア。日本ではすっかり北欧ブランドの家具小売り大手として定着したようですが、そのイケアはEuroforesterプログラムの一大スポンサーでもあります。現在受講

          スウェーデンの大学院へ

          9月より、スウェーデン最南部の都市マルメから10kmほど離れたキャンパスでの授業が始まりました。スウェーデン農科大学Swedish University of Agricultural Science (略称SLU: Swerige LandbruksUniversitet)のアルナープ(Alnarp)キャンパスです。SLUはスウェーデン全国に4つのキャンパスがあって、ウプサラ、ウメオといったよく知られている街も含まれます。 アルナープのキャンパスがあるスウェーデン南部はス

          スウェーデンの大学院へ

          森林経済学サマースクール in スイス 体験記(その3)

          ◎プログラムの内容 月曜日:林産物とサービスの評価法(ヘドニック法、CVM等) 火曜日:森林管理に関してのモデリングと最適化 水曜日:フィールドツアー ダボスのWSL施設と保全林の見学 木曜日:森林経営における意思決定、リスク・不確実性・地球温暖化 金曜日:サプライチェーン論、市場行動論 以上が午前中のプログラム。 午後は参加した大学院生の研究内容プレゼン(水曜日を除く)。 森林科学の研究の今のはやりは、地球温暖化と生物多様性に関するもの。そういう分野に多くの

          森林経済学サマースクール in スイス 体験記(その3)

          森林経済学サマースクール in スイス 体験記(その2)

          ◎NFZサマースクールとは? このサマースクール、正式にはNFZサマースクールといいます。NFZは、Nancy(フランス)Freiburg(ドイツ)Zürich(スイス)の頭文字。この3つの街にある森林科学に関連する大学・研究機関のネットワークのことを意味します。このネットワークに所属する研究者がテーマを決めて毎年サマースクールをこの時期に開催しており、今年はスイスのWSLが主催。 「環境変化の中での森林経済学(Forest Economics in a Changing

          森林経済学サマースクール in スイス 体験記(その2)

          森林経済学サマースクール in スイス 体験記(その1)

          以前の記事で紹介した、スイス・マイエンフェルトで6月下旬の1週間にわたって開催されたサマースクールに参加した体験記です。 主催はスイスの研究機関WSL。森林経済学を中心にその関連する分野を含めた範囲を専攻する大学院生を対象としたものでした。午前中は講義、午後は参加者の研究内容のプレゼンと討議という内容。世界各国から25名ほどが参加しました。 僕が参加を志した理由は2つありました。1つは専門分野の知識を深めること。ゲッティンゲンでの通常の講義は面白いのですが、森林学の性格上

          森林経済学サマースクール in スイス 体験記(その1)

          生き残った植物園

          バンゴール大学の付属植物園 Treborth Botanic Garden の活動目的は、在来植物と小動物の保全保護、市民の憩いの場や自然環境保全に関する情報提供の場となること。 前者について、在来種(Natives)とは何か、ということが鍵になる。この植物園では以下のように定義している。 Natives:伝統的にブリテン島の植生であったもの Naturalized aliens:ブリテン島外部から移入されたものであるが、現状の環境下では天然更新が可能なもの Intr

          生き残った植物園

          防砂林論争 in ウェールズ

          ウェールズ北部、ニューボロー地区に住む農民たちは、長年にわたって風砂による被害をこうむってきた。 第一次世界大戦終了後、農村復興と木材の自給を目的にした植林活動が始まった。まずはじめに、海岸沿いに土盛りをして堤防をつくり、風よけとした後、コルシカマツを導入した。1970年代まで植林の努力は継続して行われ、結果、700ヘクタール弱の面積をもつ森林となっている。上記地図でGoogleEarthを見てもらうとよく分かるが、近隣にこれだけまとまった森林はない。そのせいもあり、最近で

          防砂林論争 in ウェールズ

          ウエールズの森林経営と環境保全

          ウェールズのバンゴール大学(Bangor University)で行われた10日間の実習を終えて帰ってきました。僕の専攻は意訳すると持続可能な森林保全及び環境保全学(Sustainable Forest and Nature Management)。この修士課程SUFONAMAを提供しているヨーロッパの5つの大学の1つがバンゴール大学。ゲッティンゲン大学の半分ぐらいの規模でした。 バンゴール大学が得意としているのは環境保全の分野。キャンパスが海のそばにあることから、Ocea

          ウエールズの森林経営と環境保全