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建築端材で地元に新たな価値を。東北の工務店が「捨てない」SDGsを実現するまで

家を建てると、端材が出る。通常、端材は「いらないもの」として処分される。それが、建設業界でのスタンダードだ。

しかしある時、僕の中に「捨てたくない」という思いが芽生えた。工務店を営む一家に生まれ、幼い頃から飽きるほど端材を見てきた僕に、その価値を気付かせてくれる出来事があったのだ。

ただし、端材を「捨てない」ことは口で言うほど簡単ではない。やり方を間違えれば、社員に負担を強いるだけになってしまう。

今回は、僕の「捨てたくない」という思いを実現するまでの経緯を紹介したい。


どうしたらいい?人間関係と枯れ葉の行方

会社の周りを掃いて集めた枯れ葉や枝の山。

コロナ禍のデジタル化が生んだ社内の歪み

僕は、コロナ禍真っ只中に株式会社あいホームの代表取締役になった。世の中では、テレワークの普及とともに、急速にデジタル化が進んでいった。

我々工務店も、これからはデジタルの時代だ。そう考えた僕は、あいホームの社員をデジタルの世界へと引き込んだ

テレワークを導入し、住宅販売についても、デジタルを活用した非対面方式の販売スタイルを確立した。それが、2021年2月にオープンした「あいホームバーチャル展示場」だ。

「あいホームバーチャル展示場」は、宮城県内にある当社の展示場をスマートフォンやパソコンを介して遠隔で見学できるサービスだ。

DXこそ企業成長の鍵だと信じ、社内の事例を元にDX経営の本まで出した。

それ自体が失敗だったとは思わない。一方で、変革の裏で社内に綻びが生まれていたのも事実だ。

昨年の今頃、社内の人間関係はお世辞にも良いとはいえなかった。

もちろん、テレワークだけのせいにするつもりはない。しかし、社員同士のリアルな交流が減ったことも、各所ですれ違いが起こった要因の一つだろう。

以前「東北を出た僕が再び地元へ戻り、家業の工務店を継いだ理由」にも書いた通り、僕はあいホームで働く人を幸せにするために父から会社を継いだ。それにもかかわらず、社員みんなが笑顔でいられない状況を自らつくり出しているようでは本末転倒だ。

社員をリアルな世界へと連れ戻すために

そんなある時、栃木県の酒蔵を訪ねる機会があった。

その酒蔵を目にした瞬間、思わずハッとした。床にはチリ一つなく、隅々まで掃除が行き届いていたのだ。

よく手入れされた環境でしか良いものは生まれない。そうした考えから掃除を徹底しているそうだ。

我が社を振り返るとどうだろう。デジタルの世界に没頭し、リアルな世界をおざなりにしてはいなかったか。

社員同士のリアルな交流を増やすためにも、まずは交流の「場」である会社を大切に手入れすることが重要と考え、早朝の掃除を始めたのは11月のことだった。

手がかじかむほどの寒さの中、高圧洗浄機を使って会社の周りをひたすら磨く僕の姿は、側から見ると不可解だったかもしれない。しかし、自らデジタルの世界に引き込んだ社員と共に、再びリアルな世界へ戻るには、これしかないように思えた。

僕は常々、社員に対して「出社してもらっている」という思いを持っている。だから、社員が気持ちよく出社できる環境を整えることは社長の仕事だ。ホスト=もてなす側の感覚に近いかもしれない。

朝だけではなく、仕事終わりにも掃除をするようになった。会社の周りに落ちている枯れ葉や枝などを一掃。すると、ちょうど差し込んできた夕日が映えて息を呑むほど綺麗だった。

会社の向かいにある坂もきれいにして景観を向上。

一方で、かき集められた大量の枯れ葉と枝が行き場を失っていた。燃えるゴミに出すのが一般的だが、ただ「いらないもの」として捨てることに、どこか抵抗感があった。

飽きるほど見てきた「端材」の意外な可能性

そんな折に、子どもと一緒にDIYワークショップへ参加した。どんぐりや枝など、自然にあるものを組み合わせて工作をするワークショップだ。親子参加型のイベントで、これが想像以上に楽しかった。

一見「いらないもの」でも、工夫次第で「価値あるもの」へ変化する可能性を肌で感じたのだ。

枯れ葉、枝……ほかに「いらないもの」と僕が思い込んでいるものはないだろうか?

ふと見渡した時に、建築端材が目に入った。これも実は「価値あるもの」になり得るのではないか?

しかし、端材を再利用するということは、その分手間が増えることを意味する。そのまま捨てた方がよほど楽だ。それにもかかわらず、あえて「捨てない」選択をしたら、社員に楽ではない道を歩ませることになる。

どうすれば「捨てない」選択を社内で受け入れてもらえるだろうか。

社内イベントで使うベンチ作りからスタート

端材を使ってベンチを作る様子。

社内の人間関係と、「捨てない」選択。この2つは全く無関係のように思えるが、ある企画がそれぞれの課題を解決する糸口となった。

それが今では恒例行事となった「カレーの会」だ。

いったん仕事を離れ、一人の人として互いを知る機会が僕たちには必要だった。すぐに思いつくのは飲み会だが、社員30人の規模で酒を飲んだとしても交流が深まるとは思えなかった。

そこで、会社の倉庫でカレーを作って食べることにした。同じ釜の飯を食うことで生まれる一体感があると考えたからだ。

カレーの会に向けて、食材以外に用意したものがある。端材で作ったベンチだ。我が社の現場監督に頼み込んで作ってもらった。

僕の「端材を捨てたくない」という思いだけで、そのための協力を社員に強いることはできない。社員が自ら「やりたい」と思えるきっかけが必要だ。

そのために、まずは端材で何かを作ってもらい、それが称賛されるという成功体験をつくることから始めた。同時に、一人ひとりに端材の可能性を肌で感じてもらうことも狙いだ。

結論からいうと、カレーの会は成功だった。

カレーの会。今では、歌やダンスなどの余興も行われている。

端材で作ったベンチは社員に好評で、会社として企画実現への第一歩を踏み出すことができた。

何より、カレーの会を経て、社内の雰囲気が少し明るくなったように思う。もちろん、全てが解決したとは思わない。人の気持ちはそこまで簡単ではない。

でも、着実に前へ進んでいるという手ごたえが確かにあった。

初開催から約1年が経ち、心なしか柔らかくなった社員の表情、笑い声。一方で、時折り顔を覗かせる歪み。組織として一枚岩になる過程を歩む僕たちを、いつも端材のベンチが支えていた。

単に端材でベンチを作るだけでは、新たな価値を生み出したとはいえない。社員がそこで言葉を交わし、打ち解ける過程で端材のベンチは「価値あるもの」へと変わったのだ。

端材のベンチに最適な設計図を追い求めて

脚がハの字に開いているベンチは安定感抜群。

端材を「捨てない」企画を本格化するにあたって、僕が注力したことの一つが設計図探しだ。

木を使った製品作りにおいて、製材された木材で作るのと、端材で作るのとでは勝手が異なる。後者の場合、限られた資材で製品化するための設計図が必要だ。

加えて、可能な限り通常業務に支障をきたさないよう、簡単に作れるシンプルさも譲れない。

雑誌を読み漁り、目ぼしい木製ベンチが載っているページに付箋を貼る。あらかた候補を洗い出したら、実際に現地へ足を運び、細かな設計を目で見て確認する。

それを繰り返すうちに、理想ともいえるベンチに出会うことができた。ブルーボトルコーヒーの渋谷カフェで採用されているベンチだ。

そのベンチは宮城県の家具ブランドである石巻工房の建築家、芦沢啓治あしざわけいじさんが手がけたものだ。石巻工房は、元は東日本大震災後に誕生した市民工房で、DIYに必要な道具や材料、技術を被災地の方に届けることで自力での復興を助けたのが始まりだったという。(参考:株式会社講談社『FRaU 2023年1月号』P.57-58)

DIYを念頭に置いた家具デザインの魅力はそのシンプルさにある。使われている木材は必要最小限にもかかわらず安定感抜群で、使う人のこともよく考えられている。

作る人にも使う人にも環境にも優しく、シンプルで美しい。まさに僕が追い求めていたベンチそのもので、出会えた時には思わず感動した。

僕はすぐに石巻工房および東京事務所を尋ね、製品をオマージュすることの許可を求めた。幸い、快く承諾いただき、理想のベンチをかたちにすることができた。

クリエイティブユース・プロジェクト、始動

プロジェクトに込めた思いを広めるため、クリエイティブ制作にも力を入れた。

これが、端材を捨てない企画「クリエイティブユース・プロジェクト」の始まりだ。

現在は、ベンチのほかにキッズチェアなども販売している。プロダクトは全て無塗装で、プレーンな状態のまま届けることで利用者が自由にカスタマイズする余白を残した。

ベンチは、市場の休憩スペースやキャンプ、サウナ、釣りなど、さまざまなシーンで利用され、毎月10脚が完売するほどの人気だ。

さすがに社員に売り子までお願いすることはできないため、現時点では、僕が一人で直接販売をしている。

売り上げは全て担当社員の飲み代に還元。ベンチは1脚1,000〜3,000円なので、10脚も売れば飲み代の足しにはなる。

どうしたら社員がモチベーションを維持できるか考え続けることも、この企画には欠かせない。

「クリエイティブユース・プロジェクト」では、端材を使った製品作りを含め、4つの企画が走っている。

  • MAKE:端材によるプロダクトの提供

  • kids DIY:端材によるものづくり体験の提供

  • USE:端材を燃料資源として提供

  • GIVE:端材を多用途で無償提供

ただ端材を捨てずに再利用するだけではなく、地域に新たな価値を生み出したい。二酸化炭素という環境にとってマイナスな要素を減らすことに加え、プラスな価値を生み出していく。そんな思いでこのプロジェクトに向き合っている。

「いらないもの」を「価値あるもの」へと生まれ変わらせる。そうすることで、地域は今よりもっと豊かになるはずだ。

(あいホームの「ふるさとづくり」への思いをつづった記事はこちら。)

編集/三代知香

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