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友人が増えた。第一印象で切りそうだったのに、奇跡的に復活して。


「普通に出会っていたら、僕は2分であなたを見切っていたと思います」


結構ひどいことを言ったのだけれど、言われた彼は「ははは。そうでしょうね」と笑った。得難い友人を得たな、と思った。


2泊3日、大分県の旅

昨日まで、大分県に行っていた。ゆる言語学ラジオの相方の水野が、大学の文化祭に呼ばれたので、僕もくっついていった形だ。

立命館アジア太平洋大学


彼は半ば旅行を楽しむ気分だったようで、ゆる言語学ラジオ監修者の黒島先生と元COTENの室越さんも誘っていた。九州に住む2人を遊びに誘う良い機会になったのだろう。特に室越さんは大分県在住なので、地元を案内してもらいながら遊べてありがたい。

「堀元さんも来ます?」と聞かれたので、「面白そうだから行くわ」と答えた。タダ働きは嫌いだけれど、遊びに行くのは好きなのである。

今日はそんな旅行記を書いてみたい。


絶望の出発前日

出発前日、仕事がまったく捌ききれず、真夜中まで働き続けた。「軽い気持ちで行くって言わなきゃよかったな」と後悔した。土日を空けるために今すぐ書かないといけない原稿も、チェックしないといけない動画もうず高く積まれている。

ひーひー言いながらタスクを処理していく。ここ数年、旅行の前日はいつもそうだ。「そういえば、荒木飛呂彦先生は常に余裕を持って原稿を上げていて、週刊連載をしながらも定期的に温泉旅行に行くと聞いたな」と思い出した。『ジョジョの奇妙な冒険』の美しいストーリーは、余裕を持った執筆スケジュールから生まれるのだ。荒木先生の爪の垢を煎じて飲みたい、と思った。

残念ながら荒木先生の爪の垢は市販されていないので、インスタントコーヒーの粉をお湯に溶かして飲む。僕は石仮面を持っていないので、眠らないためにはカフェインに頼るしかない。


Peachの狭い機内、深い眠り、熱い湯

格安航空会社Peachの機内はいつも狭苦しい。多少収入が増えても、移動はいつもLCCだ。飛行機の高いチケットはコストパフォーマンスが著しく悪く感じてしまって、最下層以外は買う気が起こらない。どうせ寝るか読書かであっという間に終わる2時間を快適なシートにする必要性が分からない。2万円かけてチケットのグレードを上げるよりも、持ち込む本を1冊買う方が遥かに費用対効果が高い。


『サラ金の歴史』をリュックに放り込んでいたので、離陸前から読み始めた。昨年の新書大賞に輝いた本は、その評判に恥じないおもしろさだ。


「サラ金業界で1960年代にトップだった会社は、創業者の副業から始まった。創業者は会社から借り入れた無利子の結婚資金を同僚に転貸して利ざやを稼いでいた」という驚くほどセコい事実を知り、テンションが上がる。

おもしろい本だったから止まらずに読み切れると思っていたけれど、前日の睡眠不足が祟り、離陸後すぐに寝てしまった。目が覚めたときには大分空港だった。

これが人類普遍の現象なのか僕だけなのかは分からないが、2時間の昼寝の後は身体が冷えて頭が回らなくなる。この状態ではネガティブになるしパフォーマンスも下がるので、僕は好んで昼寝をしない。

この日も案の定身体が冷えてイマイチのコンディションだったけれど、温泉が解決してくれた。空港まで迎えに来てくれた室越さんが「早速温泉でも入りますか。マニアックなところにお連れしますよ」と言い、山の中の秘湯に案内してくれたので、一気に体温が上がって上機嫌になった。昼寝からの復旧には温泉が有用なのだ、という気づきがある。

連れて行ってもらった秘湯は、凄まじいアクセスの場所だった。未舗装の砂利道をガンガン通過し、車はありえないほど揺れた。走るというより跳ね回るといった様相で、この振動からしてコンテンツみたいだ。「4DXの温泉ですね」と言ったら、少しだけウケた。


無限に続く飲み会。しょうもないボケで墓穴

その後、温泉旅館へ。


温泉旅館には少しだけお金を使った。普通の部屋よりも等級を上げて、海が見える足湯付きの部屋にした。3000円しか値段が変わらなかったので、これは投資対効果が高い。飛行機でケチった分を足湯につぎ込んだ。狭いシートで伸ばせなかった足は、足湯でほぐせばいい。

足湯に浸かりながら視界いっぱいの海を見ていたら「成功者だ…」という気持ちになった。思わず「ここまで頑張ってきてよかった。とうとう上場か」とつぶやいたら、水野に「いやお前の会社上場してないのよ」と言われた。成功者気分に浸りすぎると、ない記憶が捏造される。

室越さんに至っては、「僕なんか無職ですからね」と悪びれずに言っていた。失業保険で暮らしている人は芯が強い。成功者とはほど遠い集団が、成功者みたいなロケーションで遊んでいた。社会はねじれを内包している。


その日の飲み会は夜中まで続いた。ものすごく楽しかったはずだが、何を喋っていたのかはさっぱり憶えていない。アルコールがすべての記憶を奪ってしまった。

かろうじて憶えているのは、僕がずっと布団に寝転びながら酒を飲んでいて、「いやそれ古代ローマ式の飲み会やないか!」というツッコミを誰かしてくれないかなと期待していたことだけだ。

このボケは失敗に終わり、誰にもツッコんでもらえなかった。「古代ローマ式の飲み会やないか! と言ってほしいのに誰も言ってくれないやないか!」と自分で処理した。「ボケが難しすぎる」「単に眠い人だと思った」とみんなからダメ出しを食らった。

そうこうしてる内にホントに眠くなってきたのでそのまま布団で寝た。他の3人はまだ喋っていたので、掛ふとんに潜り込んでパーソナルスペースを確保した。古代ローマ式のボケをやってしまったせいで僕の布団は確定しており、みんなの輪に一番近い場所で寝ることになった。真横で人が話しているので「うるさいなぁ」と思った。しょうもないボケをしてしまったせいで、布団の位置取りにも失敗した。踏んだり蹴ったりとはこのことである。


起きたら机の上がとんでもないことになっていたので大笑いした。

どうしようもない宴の後も、海は鮮やかだ。


立命館アジア太平洋大学へ向かう

宿を出て別府の街を歩いていたら、インパクトのある建物が出現してテンションが上がった。

エッチビル」である。その中には「エッチ美容室」が入っている。すごいビルだ。

「エッチ美容室ということはアレか。散髪の途中におっぱいを押し当ててくれる巨乳美容師さんがいるのだろうか」と話しながら歩いた。全力で店の中を窺いながら通過したが、見るからに普通の美容室で、巨乳美容師さんは見当たらなかった。人生はいつも、期待するほどおもしろくない。ビル名にときめいたとしても、それはたいてい単なる雑居ビルなのだ。


立命館アジア太平洋大学は山の中にあった。都市から隔絶された自治空間。毎日通うとなればアクセスは不便かもしれないが、部外者としてはワクワクするので歓迎だ。そういえば九州大学も山の中にあった。

「九州の人は、大学を山に作る風習があるのかもしれませんね」

ボケたつもりが、室越さんから面白い回答が返ってきた。

「この大学はどうか知りませんが、少なくとも九州大学については山の中にある経緯を知っています」

「ほう、どういう経緯ですか?」

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