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『新生!熱血ブラバン少女。』 「博多座オリジナル」の魅力が満載


3人のクリエーターが結集

博多座のオリジナル公演は意欲作が多い。話題を呼んだ『時代劇・101回目のプロポーズ』や、自分も観劇したAKBグループによる『仁義なき戦い』などなど。中でも博多華丸を座長に迎えた公演はおしなべて評判が良く、特に、職人肌の劇作家G2とタッグを組んだ『めんたいぴりり』や『熱血!ブラバン少女』は実際に観た人からもいい舞台と聞いていた。

そのブラバン少女が新作となって上演されるという。これは観なくては、と博多座にやってきた。まあHKT48を結成初日公演から観ている箱推しガチ勢としては、その1期生だった森保まどかの出演に誘われたというのも正直なところではある。

今回、前作で作・演出を務めたG2は脚本のみに専念し、演出には花組芝居主宰の加納幸和を迎えた。自分は花組芝居を肉眼で観たことがないのだが、その高い完成度と圧倒的なエンターテイメント性についてはこれでもかというぐらい耳にしている。

博多華丸を舞台で観るのは初めてだが、配信で観たドラマ『めんたいぴりり』は大好きな作品だ。劇場版はぜひ博多で観たいと思い、舞台あいさつもないのに博多駅のT・ジョイで観たほどである。

G2、加納幸和、そして博多華丸という3人のクリエーターが創りあげたこの舞台。何とも楽しく、幸せな気持ちに満たされる実に贅沢な観劇体験となった。

舞台作品の魅力ぎっしり 

G2による脚本は複数の家族の物語を丁寧に紡ぎあげ、大団円まで飽きさせることなく観客を引っ張っていく。2015年、彼が脚本・演出を手がけた『嵐が丘』を観たが、あの陰鬱な物語を奇をてらうことなく正面から描きながら、観客に全くストレスを感じさせないという剛腕ぶりに舌を巻いた記憶がある。後に主演の堀北真希と山本耕史がリアルに結婚してしまうというおまけまでついた。

加納幸和の演出も素晴らしい。この作品における演出面での最大な特徴は、実名で登場する精華女子高等学校の吹奏楽部メンバーが実際に舞台に登場し、見事な演奏を披露することだ。

だがそれにとどまらず、上演中に流れる劇伴の音楽も、すべて精華女子の生徒が奏でている。これによって何というのだろう、セリフではなく音楽によるメタ構造が舞台上で展開している。もともとリアル空間に虚構空間を作りあげる演劇というメディアは、メタ構造との相性がいい。それをセリフや演出でなく、音楽によって作り出した。新たな演劇手法の「発明」だと感じた。博多座の、あの巨大な舞台を駆使した大胆な転換にも膝を打った。

そして豪華キャストによる名人芸のような演技。博多華丸は笑いを封印し(ちょいちょい漏れ出てはいたが)、その抑えた演技が胸に迫る。代わりに笑いを一手に引き受けた紅ゆずるは、文字通り体当たりの演技でこれでもかと観客を笑わせてくる。星野真里のはつらつとした演技は舞台を明るく照らし出し、宇梶剛士のスケール感、浅野ゆう子の余裕ある演技が作品に奥行をもたらしている。

生徒役もみなステキだ。NHKドラマでよく観ていた鈴木梨央は、小柄なのに力がみなぎる演技で大きな存在感を発揮。上西怜はリアルに観るのは初めてだが、NMB48劇場で何度も観ている姉・恵がキリっとした美人タイプなのに比べ、親しみやすい可愛さで魅了する。古川あかりも初見だけど、ミュージカルで活躍しているので、きっとまた別の作品で出会うことになるだろう。

神田朝香はどこかで見たよなーと思いながら観ていたが、終演後にパンフレットで確認したらドラマ版『めんたいぴりり』で富田靖子の少女時代を演じていた。魅力的な演技で強く印象に残っていた、いい俳優さんである。

そして森保まどか。美人ぞろいのHKTにあっても群を抜いたルックスはあの大きな博多座の隅々まで染み渡る。そしてFM福岡で8年以上続いた「まどかのまどから」をはじめ、ラジオでも人気を誇る魅惑のまどかボイスは舞台でも強力な武器になることがよく分かった。すでにいくつもの舞台に立ち、主演も務めているが、今後も劇場での活躍を期待したいものだ。

圧倒的なクライマックス、と、森保まどか

この作品が持つさまざまな魅力~脚本、演出、演技、音楽~は、登場人物たちのわだかまりがすべて解消されるクライマックスで、見事なまでにひとつに融合する。その快感たるや、もう感動というより自分はひたすら圧倒されていた。

自然と森保まどかに目が行くと、実にいい表情をしている。彼女がHKT在籍中、ケガで苦しんでいたのをメンバーが励ましていたこの動画を思い出した。

さらに言えば、2013年の武道館初ライブのMCで、このコンサートに至るまでの苦労を話しながら泣き出してしまった穴井千尋を優しく見守っていたときの表情も思い出したのだが、これ以上語るとキモチ悪くなるからこのへんでやめておく。

地域性のある演劇の魅力とは?

今回、この作品を大いに楽しみながら、何となく自分の中で新しい宿題をもらったような気になっていた。それは、地域性のある演劇の魅力とは何か、という点である。

地域に根ざし、オリジナルの演劇作品を生み出している劇場は全国にある。代表例は愛媛の『坊っちゃん劇場』だ。昨年、一昨年と観た『ジョンマイラブ』は本当にいい作品だった

自分の地元である水戸市では、水戸芸術館が水戸の高校を舞台にした『夜のピクニック』を舞台化し好評を得ている。博多座オリジナル作品も、ある意味これらと同じカテゴリーに入ると考えていい。

そこには、何かほかの劇場や作品では味わえない、独特の魅力が隠されている。それは必ずしも「地域の物語」を描いている、ということとイコールではない。むしろ、その地域の特産品でもないものが、地元の人々に愛されて「ご当地グルメ」として定着しているのに近い。

その本質はいったい何だろう。

パンフレットをめくっていたら、加納幸和が「演劇の三大要素は『場所』『俳優』そして『観客』です」とコメントしていた。場所、観客・・・そこに大きなヒントがあるのではないか?

結論は急ぐまい。もっと多くの地域の劇場に足を運び、作品を鑑賞し、その空間を味わい、人々の息遣いを感じることで、「地域性のある演劇」の魅力の本質に迫っていきたいと思う。「地域性のある演劇」ではゴロが悪い。何かいい名称がないものかも同時に考えていこう。

新生!熱血ブラバン少女。のウェブサイト


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