写真との出会いは標高3000m ep.3
エピソード1はこちらから。
なんの音だ?
チリンッ…チリンッ…
音のほうに近づくと、人の身長程の長さのある細長い木を杖に歩いている人がいた。
そしてその音は、その杖の先に付けられている鈴から出されていた。
よく見ると、杖には何か文字が彫られていて、焼き印のようなものも押されている。
その人は、年季の入ったバッグとシューズを装着し一定のペースで歩き続けていた。
玄人の雰囲気があり、つい目で追ってしまった。
その人が通過してしばらくして、僕らは道順を確認して、いつどこに到着しているかを計画を立て、出発した。
初めから登るものだと意気込んでいたが、しばらくは山を横切る形で進み、登りが始まる地点を目指す。
左に下まで続く木の生えていない山の傾斜、右に目指す頂上を見ながら、進む。
しかし、頂上はまだこの地点では見えない。
頂上のほうを見ても、何号目かの山肌しか見えない。
先の見えないゴールに少しの不安を覚えつつ、歩を進める。
先へ進むと左に再び木が現れてくる。
左右に木で囲まれた道を進む。
しばらくすると道の真ん中に大きくて、太い木が出てきた。
根っこが地表にむき出しになり、ところどころキノコが生えている。
何年経ってここまで成長したのだろうか。
圧倒的な存在感に感動した。
隣にいた友達は何でそんなに木を見ているのかと不思議な顔をしていた。
感性は人それぞれ違うんだなと実感した。
スバルラインからまだ歩いて数十分しか経っていないけど、感動的な風景に出会えた。
これからまだまだ見たことのない景色が待ち構えているのだろうかと思うとワクワクした。
しかし、その後はしばらく、あまり変わり映えのしない景色をひたすら進んだ。
大きな木を見てから30分くらい経った頃、5号目の最終着地に着いたようで、少し広めの場所に出た。
そこは、6号目までの最後のトイレがあり、スタッフさんもいたりするので、多くの登山客が登り始める前の準備をしていた。
軽食を食べる人、靴紐を結び直す人、パッキングしなおす人…
少し離れたところには、下のほうまで見渡せる景色の良く見えるスポットもあり、そこで景色を眺め、深呼吸している人もいた。
それぞれで身支度と気持ちの準備をしていた。
僕らも見よう見まねで準備のフリをしてみる。
しっかり留めてあるのに、靴紐を解いて結び直した。
でも、不思議と気合が入る気がした。
5号目から上は森林限界のため、高い木は生えていない。
だから、かなり高く登ったところの人影まで見える。
しかし、ここへ来ても頂上は見えなかった。
「どれだけ高いんだ…」
登る準備を終えた人が僕らの横を過ぎ去っていった。
チリンッ…チリンッ…
あの人も、あの杖を持っていた。
僕らも準備は整った。
結び直した気持ちを胸に鈴の音に続いて、登り始めた。
つづく
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