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写真との出会いは標高3000m ep.1

iPhoneで十分と思ってた

僕は今でこそ、20万円を超える一眼レフを携えて、出かけることが多くなったけど、初めて一眼レフを買うまでは、これだけ技術が発達しているケータイのカメラがあるんだから、一眼レフなんて必要ないとすら、思っていた。

友達は、初任給で一眼レフを買っていたけど、全く理解できなかった。

あの山を登るまでは。

日本最高峰への道

登山好きの友達との付き合いで、僕もだんだんと山が好きになった。

近くの山を大体登ってしまった頃、阿部寛さん演じる「エベレスト 神々の山嶺」という映画を見に行った。

大まかなあらすじは以下のような感じ。

夢枕獏の傑作山岳小説を、岡田准一と阿部寛共演で映画化。世界最高峰エヴェレストで前人未踏の難ルートに挑む天才クライマーと、その姿を追う山岳カメラマンの苦闘を描く。

WOWOW紹介文より

エベレスト登頂を目指す、ある種狂気的なクライマーとそれを追うカメラマンの演技と実際に現地で撮影した自然の迫力で圧倒された。

登山ってやっぱりすごいと思い、居てもたってもいられず、エベレストに行きたいと思った。
でも、エベレストは行くだけでも相当なコストと何より、命の危険がある。
ど素人が行くところではない。

頭を冷やして、まずは日本最高峰に登ってみたいと思った。

友達と計画して、すぐ宿を取った。

一泊して登山ということ自体、初めてのことで、山小屋に行くというだけで胸が高鳴っていった。

富士山へは標高ゼロから登るものだと思っていたけど、調べると5号目までバスか車で行くのが一般的らしい。

バスで向かうと、新幹線で横目に見る風景とは全然違った。

バスが富士山を登り始めた頃は、これまで登った山と大差はなく、木々が生い茂り、緑に囲まれた道が続いた。

しかし、1時間も経過すると、だんだんと外の景色も見えるくらい、視界を遮っていた木々が減ってきた。
生えている草木も、いつも暮らしている生活圏にはない種類のものが増えてくる。

見ているものがどんどんと形を変えていく。

かと思えば、濃い霧が立ち込めてきた。
天気が悪くなったのかと思えば、そうではなく、雲ができる高さまで登ってきたのだった。
幻想的な風景で、白い煙の中に突然木が現れたり、消えたり…

富士山の5号目に向かっているのだけれども、一体どこへ行ってしまうのだろうか?と思えるほど、異次元の世界に来た感覚だった。

バスはある程度進んだら、左へ曲がり、またある程度進んだら、右に曲がりながら進んでいる。
その曲がるまでの間隔がだんだんと短くなってくる。
バスから1mくらいの視界だったけど、確実に登っていっていることだけわかった。
景色を楽しむことができないので、乗客はそれぞれ話して楽しむくらいしかなかった。
僕も友達と何でもない話をして、しばらく時間を潰した。

そんな状態がしばらく続くと、話のネタが尽きたのか、乗客の話し声は止み、エンジンが唸る音が大きく聞こえてきた。
僕もだんだんと、うとうとしてきた。

バスが何かを踏んだのか、ガタンッと少しだけ揺れた。
その衝撃で少し目が覚めた。周りはまだ白いスモッグがかかっている。
席でできる最大限の伸びをして、深呼吸した。
バスがまた左に曲がった。

窓の外のわずかに見える風景を目で追っていた。

白い霧の中に見える近くの葉っぱを眺めていると、急に霧が晴れ、木々の奥のほうまで見渡せるようになった。
車中の明るさが暗かったのか、と気付かされるくらい、車内に光がさし、寝ていた人の目覚ましになった。
一斉に乗客の会話が始まり、活気付いてきた。

雲を抜けた景色は、それ以前とまた違った世界だった。
通ってきた道を見れば、雲があって、雲より上に自分がいることが不思議だった。
周りを見ると、これまで見てきた木々の密度が減ってきているのがわかった。
森林限界に近づきつつある。
何もかもが新しい景色で、高揚感を覚えた。

僕はiPhoneで、友達は一眼レフをカバンから取り出し、それぞれで窓から写真を撮った。

また、バスが曲がり角を曲がった。
すると、先に方に5号目の駐車場らしいものが見えてきた。
いよいよ、第一の目的地に到着する。
僕たちは、標高2400mに降り立つ準備を始めた。


つづく

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