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写真との出会いは標高3000m ep.7

エピソード1はこちらから↓


力一杯閉じていた目と口をできる限り力一杯に開いた。
一瞬眩しくなる。

カシャッカシャッ

おじさんがシャッターボタンを押している。

思いっきり、開いた目と口。
それをやってる自分自身がおかしくて笑ってしまった。
横にいた友達も笑っている。

「良いの撮れたよ。ほらっ」

おじさんが持っていたカメラの液晶に撮ってくれた写真が映し出されている。

目尻に皺が寄り、葉を出して笑っている自分。

普段、ケータイで撮った写真に自分が写っていると、なんか気恥ずかしい感じがしてまじまじと見れなかった。
でも、おじさんが撮ってくれた、その写真は自分が写っているけど、「良い写真」と思った。

それはただの記録ではなく、自分が笑った瞬間を切り取った作品に仕上がっていた。

「おおー、めっちゃ良いじゃん!おじさん、上手いですね!」
友達も写真を見て良いと思ったみたいだ。

そう言った友達に「撮ってみる?」とおじさんがカメラを手渡した。

友達は張り切ってカメラを構えて僕を撮っていた。
おじさんの見よう見まねで「目と口を閉じて、合図したら開けて!」と指示を出した。

また、暗闇に戻る。

「はい、開けて!」

光と空気が一斉に僕の体内に入る。
それと同時に友達が必死にシャッターを押す。

カシャカシャカシャカシャ
連発でシャッター音が聞こえた。

「おおー!見てみて!」
良いのが撮れたらしく、写真を見る。

やっぱり良い。
おじさんのほうが上手いと思ったけど、友達が撮ったのも良かった。

「さすが、友達だからこそ、緊張してない表情が取れてるなぁ」
なんて、おじさんが褒めた。

「撮ってみる?」
「いや、俺は大丈夫です」
おじさんと友達が撮った写真を見て、ケータイとは違うことがわかったから、それで十分だった。

「そや、ここ9時になると消灯するねん。そしたら、星撮りに行こうと思ってるんやけど、取りに行くか?」

「良いんですか!?」
友達は目を輝かせていた。
僕も富士山からの星空は見ておきたかったので、ついて行くことにした。

1時間ほど待機して、再びおじさんと合流した。

おじさんは重そうなカバンと三脚を抱えていた。

「よっし、いこか。」

山小屋の扉をおじさんが開けた瞬間、冷気が小屋の中に入ってきた。
日が落ちるとこんなに気温が下がるのかと驚いた。
ダウンを中に着て、その上からレインジャケットを着てなんとか過ごせる程度だった。

おじさんが額のあたりに手を伸ばし、カチッとスイッチを押すと行く先が照らされた。
続いて僕たちも自分のヘッドライトを照らす。

道は普通に歩けたけど、横に大人2人が並べる程度の幅で、夜は余計に狭く感じた。

照らされてはいるけど、おじさんが歩いたところをできるだけ正確に歩くようにした。

小屋の角を曲がるとさらに暗くなった。
小屋の入り口の明かりが届かなくなったからだ。
さらに暗くなって、頼れるのはヘッドライトのみになって、少し恐怖感が増した。

「もう少しやわ」
それほど歩いていないのに、30分くらい歩いたような気がしていた。

先頭のヘッドライトの動きが止まり、ドサっという音がした。

「ここで撮るで」
カチッカチッカチッ
そう言いながら、手際よく三脚を組み立てていく。
あっという間に顎くらいの高さまでの三脚が出来上がった。

僕らはじっとおじさんの作業を見るしかなかった。

「これより、こっちかな」
と言って、レンズを別のに付け替え、三脚の先にカメラを取り付けた。

「よし、準備完了。ライト消してみ。」

額にあるライトのスイッチを押して、明かりを消した。
一瞬、真っ暗になった。
1秒くらい真っ暗だったけど、次第に目が光を取り込み始め、3秒後には無数の小さな光が目の前にあった。

遥か下に見える山小屋よりも近くにあるような星の数々。
どの星を結べば星座になるのか、見つけるのが困難なほど、高密度に夜空に敷き詰められた光の粒。

ただただじっと見つめていた。
見つめていたというか、その光景に催眠をかけられたように目が動かなかった。
海馬に焼き付けて、忘れることがないようにじっと見続けた。

カシャッ

隣でシャッター音が鳴った。
でも、液晶に画像が映ることはなく、おじさんはしばらく夜空を見上げたまま立っていた。

何をやっているんだろう?と疑問に思いつつ、また夜空を見上げた。
星が掴めそうだ。

…カシャッ

おじさんは何も操作していないのに、またシャッター音が鳴った。
今度はおじさんは液晶を覗き込んでいた。
こくんっ、こくんっと液晶に向かったまま、2度頷いた。

「こっちきて、これ見てみ!」

友達と僕は液晶に近づいて、それを見た。

その小さなパネルには、さっき僕らが感動した風景が綺麗に切り取られていた。
ケータイで撮るのは不可能な写真、そして、この感動した情景を切り取り、持って帰ることができるカメラというものに感動した。

さらにカメラはイメージセンサーで光を捉える分、肉眼よりも星の数は多く写っていて、より美しかった。

「2人も星と一緒に撮ったるわ!そこに並んで。」

言われるがまま、カメラより1mくらい前の位置に立った。
そして、おじさんは三脚の脚を短くして、カメラの位置を低くし、僕らを煽るような角度でカメラを設置した。

「ほな、後ろ向いて、空を見上げたまま、30秒動かん撮ってな。」

カシャッ

最初のシャッター音が鳴った。
動くなと言われると余計に体に力が入った。
でも、目の前に広がる星々を見ていると、何かの世界に入り込み、すっと力が抜けた。

カシャッ

「オッケー、良い感じや。こっち来てみ。」

液晶には、満点の星空に僕らの人影が影絵のように綺麗にくり抜かれていた。
こんな星の絶景と自分が一緒に写すことができる。思い出を形として残し、感動すらも残せるんじゃないかと思った。

そんなふうに思っていると、視野の一番端で何か光った。


続く

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