見出し画像

写真との出会いは標高3000m ep.6

エピソード1はこちら↓

山小屋の受付を済ませて、寝床の場所と小屋の利用にあたっての説明を聞いた。
寝床の場所といっても、どの布団で寝れば良いかということだった。
川の字が何個もできる形で山小屋に泊まる人と一緒に寝る。
すぐ隣は知らない人が寝るということだったので、山小屋であれば当たり前のことだけど、ビックリした。

かなりお腹は空いていたけど、ひとまず重たい荷物を下ろしに自分の寝床へと向かった。

隙間なく隣り合わせになった布団の列の中に指定された場所を見つけた。
本当に1人寝る分のスペースしかなく、しかもおばあちゃん家にあったような柄の毛布にクスッと笑ってしまった。

荷物を下ろし、体をボディシートで拭いて、寝る用のTシャツに着替えた。
程なく、夕食の準備ができたということで、小屋の人に呼ばれて広間のテーブルについた。

長いテーブルが5つほど並んでいて、空いているところに友達と座った。
すぐに夕食が運ばれてきた。
お待ちかねのカレーだ。

目の前にカレーが置かれた瞬間、口の中が涎で満たされた。

「いただきます!」
あれほど、真に感謝の気持ちと期待をのせて"いただきます"と言ったことはないと思う。
バスで5号目に到着してから、実に5時間ほど経過していた。

夏だといっても、富士山8号目となると10℃を下回る。
体が冷えていたけど、カレーの温かさにエネルギーが補充されて感覚を持った。
味は誰でも食べられるような、ほど良い辛さで、肉も入っていて美味しかった。

登ってきた分、さらに美味しく感じたのか、あっという間に食べてしまって、おかわりをしたいくらいだった。

周りを見渡すと、カレーを食べ終え、追加でオーダーした焼きそばや唐揚げとともにビールを飲んでいるおじさんたちがいた。

とても惹かれる組み合わせだったけど、ここで酒を飲んで調子を崩したくないのでグッと我慢した。

食べ終えた後は、明日の登頂の計画を友達と話した。
22時には寝て、3時に山小屋を出発し、日の出前に登頂して日の出を見る計画だ。

あれこれ話していると、40代くらいのおじさんに声をかけられた。
「富士山はよく登りに来るんですか?」

「あ、いえ。初めてです。」

「そうですか。どこから来たんですか?」

「関西からなんです。」

「あ、そう!僕も大阪でね。毎年来てるんですわ。」

関西というワードを出すと途端に関西弁になったので、なんか面白かった。
よく見るとおじさんが手元で何かを布で擦っていた。

「あ、これ、レンズ。」

布から現れたのは黒い筒状のレンズだった。
おじさんの後ろには、バッグがあって、レンズの一部が開口部からのぞいていた。

よく喋る人でカメラについていろいろ話していた。
友達はカメラを持っていたので、興味津々に聞いていたが、僕はなんのことかさっぱりで相槌だけ打っていた。

「そや、ちょっと写真撮らせてくれへんかな?登る度にいろんな人撮ってもらわせてんねん。」

突然のオファーだったから戸惑ったけど、記念になるか、と思って撮ってもらうことにした。

小屋の中の広間に移動して、おじさんの指示で背景がシンプルな場所の前に立った。

おじさんがスナイパーの如く、片目を瞑り、カメラのファインダーを覗いている。

「ほな、軽く撮るで。…パシャッパシャッ」

いきなり撮影が始まって、顔を作ることなく写真を撮られた。
一眼レフを向けられるとどういう立ち振る舞いをしたら正解なのか、わからない。
モデルさんってやっぱりプロだな。なんて思いながら、立ち尽くす。

「オッケー、今度は1人ずつ撮ろうか」

言われるがままに1人ずつ撮ることになった。

一眼レフの前に立ったが、1人だとより何をすれば良いか分からない。

パシャッパシャッ

「次は思いっきり、目と口を閉じて、「はいっ」て俺が言ったら、思いっきり目と口を開いてみて」

どういうことだ。と思いながらも、仕方がないので目と口を閉じる。

……はいっ!

可能な限り、勢いよく目と口を開いた。


つづく

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?