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彼らと比べて有利な点が一つある。彼らの前例があるという点だ。

先週、「ドイツ人はなぜヒトラーを選んだのか-民主主義が死ぬ日」という本を読んでみました。本書は、「ヒトラーはなぜ戦争を始めることができたのか-民主主義国の誤算」と合わせてドイツ・ナチスの歴史を語っているものであり、本書はその前半史になります。そのテーマのイメージからは読みにくそうですが、意に反して読みやすい本でした。
 
なぜヒトラー、そしてナチスは政権が取れたのか。第一次大戦に敗れはしたものの、その当時でも世界有数の工業国であり、かつカントやヘーゲルなどの哲学者を生みだしたドイツに、先進国であり、文明、文化の国であったドイツに、なぜ暴力による支配を目指したナチスが政権を取れたのか。
この歴史は歴史で終わらせてはいけない、これからの人類の将来のために、語り継ぐべき歴史です。
 
世界史の教科書などでは、ナチスが政権を取れた理由として次のような内容が書かれています。
「1929年のアメリカの株式暴落から世界に広がった世界恐慌のなかで、ドイツも不景気になり、失業者が増えるなかで、社会不安が高まり、第一次大戦後のヴィエルサイユ体制の打破や、反ユダヤ主義、ロシアなどの東ヨーロッパへの拡大を目指すナチスを国民が選んだ。」と。
 
確かに、これもナチスが政権を取れた理由として大きなものです。ただ、私は本書を読むなかで、この理由に匹敵する、もしくはそれ以上の理由があったのでは、と感じました。
それは、第一大戦後、ドイツはワイマール共和国という民主体制のなかで労働者や農民などの国民の権利が拡大したことに対して、企業家や大地主などが権利を抑圧したいと考えていたことです。それが表立ってできないため、暴力を振るって権利を抑制しようとするナチスと結びついていったのです。
当初は、従来の支配階層はナチスを利用するつもりだったのでしょうが、「庇を貸して母屋を取られる」のように、気が付いたらナチスが政府を支配するようになっていた、というところが実情なのでしょう。
 
この歴史を振り返るとき、世の中全体の利益よりも自分達の利益を優先するとき、また道義に反した手段をとる時、怪物を生みかねない、ということを思い出します。
世界の利益よりも自国の利益を優先すること、また、正当な民意よりも暴力を優先すること。そして、そんな政治勢力が国民からの支持を得る。
これは1933年のドイツだけの話しではありません。現代の世界でもいたるところで見られることで、なにより、世界のリーダーを自任する国でも今見られているところです。
 
本書の最後はこのように締めくくられています。
「後から登場した私たちには、彼らと比べて有利な点が一つある。彼らの前例があるという点だ。」
今こそ、歴史という前例を振り返るべきときではないでしょうか。

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