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デザイナーが「医療を理解する」とは?

デザインに医療を伝えたい

こんにちは、株式会社CureAppでデザイナーをしています、精神科医師の小林です。

医師でありデザイナーである身として、医療の世界にデザインの価値を伝える活動をしています。その一方で、デザインの世界に医療を伝える価値もあるのでは?と最近考えています。

改めて医療者ではない立場で医療を眺めると、ブラックボックスの部分がかなり多く、アクセスできる情報も難解かつ膨大であるため、理解するために多大なコストが求められます。

その一方でヘルスケア分野のデジタル領域への参入は加速しており、デザインのニーズも高まっています。デザイナーが医療のすべてを修得することは難しいですが、デザインをするために必要な医療のエッセンスを抽出し、基本的な知識を身につけることができれば、ヘルスケア分野のプロダクトデザインに強い武器になるはずです。

それでは何をどのように学べばいいのでしょうか?学習の土台になるアイデアを考えていきます。

なぜ医療を理解することは大変なのか?

冒頭からハードルを上げていますが、医療の全体像を理解することは大変です。私自身も狭い範囲である程度の知識はありますが「医療そのものを理解しています」とはとても言い切れません。漠然と「難しそう」というイメージはありますが、気軽な参入を許してくれない具体的な理由として、以下が挙げられます。

医学の情報量が膨大すぎる

医学は日進月歩の学問であり、その蓄積された情報量は膨大です。一つの疾患を知るためには、解剖学、生理学、細胞生物学、免疫学、遺伝学 etc…といった人間の基礎となる構成要素を理解しなければいけません。すべての器官はさまざまな形でつながっており、医師はみな一通りの範囲を網羅した医師国家試験をクリアしています。

内科学書第9版。私の時代より130%くらい膨張している気がします。鈍器です。

医療現場の標準モデルが存在しない

医療は学問と実務のハイブリッドであるため、医学だけを学んでも実際の現場はなかなかイメージできません。しかも各医療機関は地域のニーズや病院の特色によって業務がかなり異なるため「ここの現場さえ知っておけばあとはだいたい同じ」という標準モデルが存在しません。
同じ医療機関内であっても医師によって診療内容が異なっているため、客観的な把握はさらに困難になります。

医療者と患者へのアクセスが難しい

世の中に医療者、患者は大勢いますが、純粋にデザインの仕事をしていて彼ら、彼女らと接することはほとんどありません。インタビューまではできたとしても実際の医療現場の観察までは難しく、デザインのためのリサーチについてもなかなか理解してもらえないのが現状です。

コロナの影響もあり、見学のハードルはより高くなっています。
日本赤十字社医療センター

デザイナーは医療の何を理解すればいいのか?

とはいえ、デザインをするにあたって医療のすべてを知る必要はなく、医療者と同じ知識レベルが求められるわけではありません。
たいていのデザインは「糖尿病の投薬アドヒアランスを向上させたい」のような、プロジェクトの課題を起点に始まります。そのため、課題にまつわる基礎的な知識を習得し、ユーザーニーズを適切に把握できれば十分です。
医療系のプロジェクトにはたいてい医療者が関わっているため、その領域に関する知識もある程度は与えてくれます。

しかし、当然医療者はデザインの専門家ではないため、デザインにどのような知識が求められ、何が分かっていないのかを把握することは案外難しいです。デザイナー側も多忙な医療者に対して自分たちが知りたい情報を的確に引き出す必要があります。
そのためやはり、デザイナーが医療の基本的な知識と医療者に共通の行動や心理を理解しておくことで、医療者とのコミュニケーションが円滑になると期待できます。

デザイナーは医療をどのように理解すればいいのか?

では、どうすればデザインに役に立つ形で医療を理解することができるのでしょうか?項目ごとに見ていきましょう。

国内の医療の基本ルールを理解する

医療保険制度、病院とクリニックの違い、医療職の種類、医療機器にまつわる規制など、マクロな共通ルールを知っておくことは大切です。また、学会や医局、専門医制度といった医療業界特有の制度についても調べることで、理解に広がりが生まれます。
このあたりは一般向けの書籍やインターネット、AIの力ですぐに知識としてアクセスすることができます。

便利な世の中になりました。

医療の基本的なオペレーションを理解する

医療者の一日の業務内容、外来診察のフロー、カルテの書き方、外科手術の基本的な流れなどを学ぶと医療現場へのイメージがわきやすくなります。
直接現場を観察することが望ましいですが、上述のようにデザインを目的に入り込むことは難しいです。たとえば研修医の一日で検索すると、様々な病院における研修医の業務内容が紹介されていて面白いです。
また、プロジェクト内に医師がいるのであれば、架空の診察シミュレーションをすることで個人情報に抵触することなく行動を観察することができます。

研修医と常勤医では異なりますが、なんとなく業務内容は見えてきます。昔よりQOL上がってる?
近江八幡市立総合医療センター

医療者の心理と行動のパターンを理解する

個人的な印象ですが、社外の医療者にプロトタイプのフィードバックを求めた際に、デザインとは異なる視点の意見をもらうことが多い気がします。
それは医療者が行う治療的な視点であったり、研究的な視点であったり、経営面の視点であったりと様々です。

こうした視点の違いや医療者特有の心理を理解することができれば、初対面の医療者でもあまり面食らうことなく円滑なコミュニケーションを取りやすくなります。どの専門領域も同じかもしれませんが、やはり医療特有の考え方というものは存在する気はします。
このあたりの理解は私が個人的に深めていきたいテーマです。

まだ実践はしていないため、医療の知識がデザイナーにどこまで求められるかはわかっていません。医療者とうたっていながら医師の視点がほとんどであり、まだ考察が甘い部分もあります。

しかしこうした活動を展開し、デザイナーが医療を理解する入口を開くことで、理想とするデザインに到達しやすくなると信じています。
デザイナー、そして医療者と議論を重ね、磨きをかけていきたいです。

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