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デザインと医療の2023年個人的ふりかえり

大きな手ごたえを感じた一年

こんにちは、株式会社CureAppでデザイナーをしています、精神科医師の小林です。

毎年加速度的に速まっている一年ですが、2023年も怒涛の勢いで年末を迎えました。
私が数年前から強く抱き続けてきた「デザインと医療をつなげたい」という思いが、さまざまな形で結実した意義深い一年でした。

年初にこのnoteが多くの人に共有いただけたことにはじまり、4年かけて書いた医療者向けの書籍の出版、Goodpatchとのヘルスケア勉強会、そしてDesignship2023公募スピーカーの登壇と、情報発信の活動としてはかなりの成果をあげられたと自負しています。何らかの形で繋がってくださっているみなさんに本当に感謝です。
CureAppでの本業も、作るデザイナーから考えるデザイナーにシフトしていく手ごたえがあり、より一層デザインのおもしろさと難しさを感じています。

上記の活動から感じたこと、考えたことを振り返ってみます。

デザインと医療は互いに関心はあるがどうしていいのかわからない

私の社会的な役割として「医療にデザインを伝え、デザインに医療を伝えること」を設定していますが、医療、デザインそれぞれのフィールドで多くの人が関心を寄せてくれていると実感できました。

医療についてはプレゼンテーションデザインへの関心は根強く、幅広い医療者がこれまでの作法にとどまらない観客により効果的に伝わるための見せ方、話し方を学ぶことを求めていました。
伝え続けてはいますがまだまだ改良の余地はあり、私自身のプレゼンテーションもいまだブラッシュアップされています。最近の関心は作り手の効率を重視し「いかに時間と手間をかけずにきれいなプレゼンテーションを作るか?」です。

デザインのフィールドでも健康づくりから本格医療までデザインでより良くしていきたいと考えている人は多く、DXのムーブメントも荒れた道をさらに加速して走っている印象を受けました。
デザインのできる領域がどんどん拡張し、医療にも多くの階層があるため、なんでもかんでも医療のデザインと言ってよくなってきているような錯覚もおぼえます。これはいつかどこかで整理が必要になってきそうです。

一方で、医療もデザインもまだまだお互いよくわかっていない空気もひしひしと感じています。
医療は広義のデザインの概念に関心を持っている人はほんの一握りで、課題解決のアプローチの手段としてどこの俎上にも上がりにくい印象です。
デザインの人たちは医療の学術的、臨床的知識のハードルがなかなか超えづらく、医療者や患者に直接アクセスすることへの困難も常に抱えています。

かつての私のようにビジョンはあるけど何をしたらいいのかわからない人や、明らかにレッドオーシャンに手ぶらで飛び込もうとしているような人も散見され、国内ではまだまだデザインが介入する余地はあるのかもしれません。

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言語化の限界はわりと早い

自分の関心のせいかもしれませんが「言語化」というワードは明らかに流行っていると感じました。SNSやエンターテインメントがどんどん動画寄りになっているのに、作る現場でテキストの情報が改めて尊重されているのはおもしろいです。

デザインの領域が拡張していく中で、私のような異分野をつなぎたい人間は価値や意味といった形のない概念を「相手に伝わる言語」で説明し続けなければいけません。
デザインされるもの事態も複雑になっているため、一目でわかる最適なプロトタイプだけでなく、即座の納得感と建設的な議論を生むプレゼンテーションも重視されています。

しかし、デザインのゴールは言葉にすることではありません。言葉はあくまで伝えるための入り口にすぎず、そこから洞察や経験を重ね、プロダクトを作り、社会実装までたどり着くには言葉以外の多くの材料とコストが必要です。

医療者はデザインを経験することが難しく、デザイナーは医療を経験することが難しい。この現実が立ちはだかる中、どうすれば言葉以上の方法でお互いを理解できるのかは大きな課題です。
お互いを「わかった気になっている」その先へと進めないと優れたデザインには辿りつけません。

言語と経験の間には何が入る?観察?ワークショップ?

人間を理解しようとするデザイナーであり続けたい

精神科医兼デザイナーという道を歩き始め、自分の武器になっているのは医学や研究の知識でなければ、グラフィックやレイアウトが多少できることでもありませんでした。
医療者と患者を知っていること、が明らかに一番役に立っています。

それは医療の実践経験だけでなく、認知心理学、行動変容理論、デザイン理論、そして人間を観察することへの強い関心など複数の要素が今の自分に価値を与えています。

人間が使うものをデザインする限り、人間の思考や感情、行動を多面的に理解することのニーズはあり続けるはずです。
歴史的にも人間を理解するための研究は膨大な量があり、誰一人として同じ人はおらず、そして環境や時勢により社会的存在としての人間はいくらでも変化します。
私は「人間を理解すること」を絶対に極めることはできず、現在と未来もしっかりととらえていく必要があります。その中で独自の視点を持ち続けることで世の中から求められる人間でありたいです。

もはや○○デザイナーで括られる職業ではなくなってきそうですが、やっぱりデザインは好きなのでデザインの人間ではありたいです。そして医療の人間であることも避けられなさそう。

来年もみなさんに幸せが訪れますように。2024年もよろしくお願いします。


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