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「飽きる」ヘルスケアデザイン

飽きないデザインを考えるのに飽きてきた

こんにちは、株式会社CureAppでデザイナーをしています、精神科医師の小林です。

日々健康のための行動変容と向き合っており、どうすればユーザーが飽きずに習慣化できる体験が実現できるかに頭を悩ませています。

「どうすれば飽きないか?」を突き詰めていく中で千差万別の人間に対するパーソナライズ地獄に陥っているので、反対に「どうすれば飽きるか?」に寄り添ったデザインを考えてまいります。これならいくらでも思いつきそうです。

前提

今回のユーザー像として、健康への意識がある程度高く、具体的な行動の目標も定まっている人をイメージします。たとえば現在肥満であり体重を減らす必要がある人、体力の低下を自覚しジョギングを続けたい人などです。

またプロダクトとしてはスマートフォンアプリ単体、もしくは外部デバイス(活動量計など)+スマートフォンアプリの組み合わせを想定します。

どうすれば飽きるアプリになるでしょうか?

思想が重い

製作者のミッションとビジョンやコンセプトはとても大切ですが、アプリをダウンロードするユーザーにとっては知ったことではありません。
このアプリが何を目指しているか、どのような科学的背景でどのような効果が得られるか、製作者はユーザーに何を求めているか、などをスキップ不可の動画でできるだけ長く解説しましょう。

長く複雑なメッセージを完璧に理解してもらうために、アプリを開くたびに再生しましょう

始まらない

やりたい行動や知りたいことがあるときに、前置きが長ければ長いほど心は折れやすくなります。たとえばすぐに筋トレを始めたい人にとって、ユーザー登録やアプリの説明、アンケート、有料プランの案内など、製作者側がやってもらいたいことのほとんどはノイズです。
BJ. Foggの理論によればモチベーションが高い最初のうちは多少複雑な手続きもやってもらえるようなので、二日目以降も毎日複雑な前置きを要求すれば(「今日はどんな気分ですか?100文字程度で自由に書いてみましょう」など)すぐに飽きてもらえそうです。

やる気があれば難しいこともできるという単純な定理。
いきなり英語が挿入されるのもやる気を削ぎますね
BJ Fogg. 2007

記録が信用できない

自分の努力とアプリの記録が明らかにずれていると強いストレスを感じます。ポステルの法則でも提唱されているように、ユーザーはコンピューターから出力されるデータに対して常に厳密さを期待します。
3日前に記録した血圧が消えている、走った距離に対して記録された距離が短い、なんの成果も出さなかったと判定される、など、少し手を抜くだけで一瞬で離脱されるデザインは作れます。

冷たい

トレーニングや生活習慣はそもそも一人でやるものなので、必ずしもユーザーの心に寄り添う必要はありません。たとえば本当に気に入ったストレッチのプログラムがあれば、何のフォローもなくても毎日習慣化することができます。
一方で、ユーザーの心理に寄り添うと見せかけて突き放すと非常にがっかりします。たとえばエクササイズの前にアニメーションのキャラクターが「がんばりましょう!」と声をかけ、エクササイズの達成後には影も形も表さないなどは地味に有効です。
わざと悪意のある演出を施さなくても、デザインと実装の詰めを甘くするだけでがっかりポイントは無限に作ることができます。

報酬が報酬の体をなしていない

たとえば「レベルが上がりました!」とテキストでだけ表示され、アプリの中でも外でも何の役にも立たなければ、それは報酬とはいえません。
努力を継続させるためにサンクコストを発生させるような報酬デザインは大切ですが、グラフィカルな要素や社会的な付加価値をつけなければただのノイズになります。
また、お金によるインセンティブは内発的な動機形成の妨げや、期待する金額の増加などの問題があり、継続させる上で複数のリスクを抱えることになります。
行動に応じて現実世界で使えるポイントが稼げるようにし、ある程度進んだ段階でポイントの供給を中止すれば、飽きるというか離脱を促すデザインになります。

フィードバックがずれる

アプリはユーザーを観察することができません。フィードバックのコメントを返す場合、本人の実際をみていない状態であたりをつけて何かを言わせる必要があります。
たとえばマインドフルネスのエクササイズをやった後「すごく上手にできました!今日もとってもマインドフルになりましたね!」と言われでも「はぁ…」としかなりません。
単一のデータからユーザーのすべての行動を評価し、それに対して辛辣かつ具体的なフィードバックを返すととても不愉快なデザインを作ることができます。

納得感のあるフィードバックは、シンプルに見えて繊細なバランスが求められます
apple

選択肢が少なすぎる or 多すぎる

人間は勝手な生き物で、選択肢がなさすぎると「不自由だ」と文句をいい、選択肢が多すぎると「目移りする」と文句をいいます。シーナ・アイエンガーのジャムの実験に代表されるように、情報過多の時代でソートや絞り込みのできない選択肢を提示されることは行動の回避につながります。
毎日膨大な行動メニューの中から選択を強制し、そのメニューから行動を選ぶ以外の選択肢を与えなければ、簡単に不自由さを感じてもらうことができます。

できるだけ馴染みのない単語のリストにするとさらに効果的です
(このアプリは検索ができて便利です)
m2plus

人間は基本的に飽きる

本当にいくらでも挙げられますが「やり方を正しく伝えさえすれば、人は健康的な習慣を身につけることができる」という思い込みの危険さがよくわかります。

現代の生活はさまざまなサービスやプロダクトがなんとかして時間を奪おうとしており、最もシンプルで最もユーザーニーズに適合したものしか生き残れない時代です。
ただUIがバッドデザインなだけが飽きる要因ではなく、情報の表現、伝えるタイミング、デザインの統一感、実装の安定感、通信に至るまであらゆる場所に落とし穴が空いています。

ユーザーテストでその穴に落ちる様子を観察し、ひとつひとつ丁寧に埋めながら、ユーザーが健康になるために何を達成させたいのか、本質を繰り返し見つめ続けなければいけません。
真面目な結論になってしまいました。


参考図書

今回参考にした行動変容デザインの書籍を紹介します。
飽きないデザインを作るためのテクニックが散りばめられているのでぜひ読んでみてください。


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