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赤字の解消なんて誰でもできる

27歳でPCもロクに触ったことないのに、食品を扱うネットショップの企業に入社。それまでPA(音響)の仕事をしていて、重いスピーカー運んだり、舞台でワンツーワンツー言いながらマイクチェックしたりしてたので、小売経験もネットの知識もゼロ。

入社したネットショップの企業は長年赤字続きで、社長が株で儲けたお金を会社に差し入れてなんとか持っていた会社。それでも資金が足りなくなって、仕入も現金決済じゃないとダメと取引先から言われ、もう打つ手なし。

残業続きでクレーム多発、足りない売上、もう完全ブラック。そんな会社を、この経営陣が黒字にできないなら、死んだ魚の目みたいになっている社員をなんとかするのはもう自分しかいない、入社して半年足らずだろうが関係ないと、知識もないなりに検証したら、一番の原因は利益率の低さ。

この利益率では、経営陣が毎日うるさく言うように売上をいくらあげたところで、セールの利益率低下、広告費や人件費の増加、とてもじゃないけど黒字になんかなりっこない、なんなら赤字拡大。ド素人にだって数ヶ月現場で営業実務してたら、それくらいわかる。

ということを訴えても通じるとは思わなかったので、自分の判断で勝手に儲からない商品のリストラ、値上げで利益率の改善。でも、ただ値上げしてもお客から文句がくるか売れないだけで芸がないので、下手クソなりにページを作り変えて、商品を食べて自分が感じたことをストレートに表現。受注担当のメールの文言や話し方も、女性社員と喧嘩しながら徹底的にチェックして改善。元ヤンの受注担当が炎上させるクレームも減らした。

難しいことは何にも考えていない。とにかく「お客が今よりもお金を払ってくれるには、何を変えればいいか」、自分がお客の立場ならどう感じるか、しか考えていない。値上げの理屈が通るように店の格をあげて、舐めたお客から訳のわからないクレームがこないようにしたかった。

途中から受注担当の女性では対応できないクレームを全部引き受けたけど、最初は相手に負けっぱなしで女性社員の期待に応えられず、悔しい思いを何度もした。でも何度も変なクレームを受けているうちに捌き方も覚えて、発想が斜め上すぎるとんちレベルのクレームの電話に、返金でもおまけ送付でもなく、さらに高額商品を売って満足してリピーターになってもらうこともできるようになった。クレームでも、真っ当な指摘も中にはあり、店の改善に役立てたこともたくさんあって、そういう人にはたくさん感謝の言葉を送った。

それまでクレーム対応なんかしたことないし、その手の本を読んで勉強したこともなかった。そんな本があることも知らなかった。ただただ女性社員が輩クレーマーに泣かされたり、業務の邪魔をされるのが嫌だった。利益率をあげたら変なのも減ったけど。

その間も、先輩や役員から「そんなことして何になる、もっと売上があがることをやれ」と毎日のようにガチャガチャ言われたけど、聞いたフリして右から左に聞き流す。

そうやってなんだかんだしていると、入社から1年ちょっとして役員から「これまでずっと赤字だったのに黒字になった」と。そりゃそうだ、ずっと営業利益率▲5~7%でウロウロしてたのを、3億くらいだった売上も固定費もほぼ変わらずで商品の粗利益率だけをグロスで10%以上改善したんだから。

翌月には、20人くらいの会社で一番下から一気に三番手になったものの、やっぱり社長とは感性があわず、この先必ず衝突する時がくると思った。その後、クセが強すぎるけど自分より賢そうな後輩も入社し、色々な基準も整備できたのもあってまあ大丈夫かと退職した。実際、大丈夫だった。

結論、27歳の未経験の何も知らないド素人が、長年赤字続きだったこの小さな会社を1年そこらで黒字化するのに、専門知識・立派なメソッド・高度なスキル・経営理論・理念、そういったものは何ひとつとして必要なかった。仮に規模と人数が2倍3倍だったとしてもたぶん同じ。

必要だったのは、試行錯誤と、お客にとって価値あるものは何なのか、「どう店を変えていけば、こちらが潤うくらい、お客がもっとお金を払ってくれるか」を考えることだけ。あとその考えを実行するのに、細かく人を動かしていく作業に徹するのと。

じゃあ、20代の何も知らない若造でも黒字化できた、長年赤字続きだったこの会社は特別だったのか?特別わかりやすく、黒字化しやすい会社だったのか?いい大人が揃ってどうにもできていなかったのに?
赤字と知った時、最初にちゃんと「何で今までずっとこんな赤字なんですか?」と一応は役員に質問した。そしたらなんか色々と問題点や課題点を並べてきて、最後は「この業界、競争も激しくてなかなか儲けるのが難しい」。難しいって具体的に何が。

でも今となっては、そのうるさかった役員も自分を試してたんだろうし、社長もよく入社間もない若造にあそこまで好き勝手やらせたなと、いい経験をさせてくれたことに感謝。違うかも知れないけど。

今は一丁前に会計知識も多少は身につき、少しは数字が分かるようになってきたけど、考えていることは当時と同じ。「どうすれば儲かる取引ができるか」。いままで立派な企画書や分厚い改善プランなんて作ったことがない。分厚い改善プランなんて、それは核心ではない、枝葉の問題をかき集めてるからそうなるのだろう。

目の前にある会社が儲からない真因は、だいたいひと言かふた言で表せる。様々な問題が重なって、なんてことはまあない。真因といっても、「業界特性」「社員の危機感の不足」「経営者の人間性」なんて抽象的なものでもなく、誰にでも分かる明確で具体的なもの。だいたい、業界がどうとか業界外の人間なら誰でも言い訳に聞こえちゃうし、社員に危機感を求めるのも間違ってる。経営者の人間性の高さと、儲かる商売になっているかどうかもほぼ関係ない。

業界の外の素人から見て、
「そんな取引してたら儲からんわな」
「そんなサービスじゃ儲からんわな」
「そんな調達してたら儲からんわな」
「そんな製造じゃいい商品できんわな」
「そんな体制じゃ儲かる仕事はできんわな」
「そんな開発スピードじゃ話にならんわな」
「そんなお客も競合も見えてなかったら勝負できんわな」

大企業でもなければ、業界知識なんかなくてもこの視点で充分。大企業ですらこれに当てはまることもあるのに。

だから、赤字を黒字にするなんて、ほんとは誰にでもできるんですよね。実際、業界のことを何も知らない素人が何の下調べもなく手ぶらでいっても大丈夫なんだから。難しく考えすぎても仕方なくて。

商売って、専門知識やスキル、高度な理論、理念を持っている人たちだけが儲けられるゲームなのか、という。

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