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不登校と中学受験(44)

ある子どもの中学受験と不登校(7)



ご家族は必死に彼を止めるために、地獄のような日々を過ごされたそうです。

ご家族には、相談に来られた時に、彼のお金の要求と暴力は、断固として認めてはいけないとお伝えをしていました。


カウンセラーの先生方の中には、子どもの主張は全て聞いてやらないといけない、とおっしゃる方がいらっしゃることは、私もよく知っていました。


お母様から「全部聞かなくていいのですか?」と質問されたときに、「人として間違っていることについては、断固として認めてはいけないと思いませんか?」

何でもいいとなれば、人を殺してもいい、お金を盗んでもいい、放火してもいい、とすぐになってしまいます。

どんなことをしても、親の愛情として、育ててきた親の責任として、人として間違ったことの中で、絶対に認められないことは、どんなことをしても、許してはいけない、とお伝えしておいたのです。

ですから包丁を持って外に行こうとした時には、怖くても玄関に立ちはだかり、絶対に家の外には出さなかったとおっしゃっていました。

幸い、ご家族に危害を加えることがなかったので、ことなきを得ていますが、明らかに自傷他害の恐れがあり、精神科の緊急入院の対象ではあったと思います。


そんな中で、彼は、体験を2週間行い、そのまま週1回ペースで来ることになりました。


最初に彼に伝えたのは勉強の方法論でした。

基礎的なことをしっかり身につけるために、まず、中学校の英語と数学のやり直しから始めました。

彼の勉強方法を聞きながら、良いと思うことはそのまま、変えた方がいいというところは、別の方法を説明し、時間をかけて自分で勉強することができることを、説明し、やってもらい、結果が出るまで付き合うということを行いました。


半年ほどかけて、中学校の英語と数学が、彼の納得のいく状態になったので、同じようにして高校の内容の勉強を始めていきました。


この時点で同級生達は高校を卒業し、大学へ進学する人もいたと思います。

そのことを彼は気にしながらも、少しずつ勉強を進めていたのです。


ところが、まだこの頃も、ちょっと上手くいかないと、フリースクールに来ているときはいい子を演じているのですが、家に帰ってかんしゃくをお越し、もうダメだ!こんなんじゃダメなんだ!と壁に物を投げたり、暴れたりしていました。


そのできない自分も受け入れなければいけないことを、繰り返し、繰り返し話をして、誰でもすぐに結果など出ないし、地味な努力を続ける以外に道はないと、何度も何度も伝え続けるのが私の仕事でした。


ある時、私の胸ぐらを掴み、「絶対にもっとできる方法があるはずや!なんでそれを教えてくれないんや!そうやって俺を貶めようとしているんやろ!」と怒鳴り始めたので、フリースクールの外に連れ出し、大声で怒鳴りつけました。


ふざけるな!
そんな魔法などない!
テクニックばかりを追い求めるな!

いつまで自分で自分を下げ続けるんや!
目を覚ませ!

人の胸ぐら掴んだ以上、何をされても受けて立つんやな?
ケンカするなら本気で相手になってやる!
覚悟しろよ!


などと、本気で殴り合いのケンカを辞さない覚悟で怒鳴り続けました。

他のスタッフがオロオロしながら見守る中、彼の胸ぐらを掴み物凄い剣幕で私に怒鳴られて、彼は完全に恐怖に慄く表情になっていました。


大人に本気で怒鳴られ続けたこと、しかも、ただでは済まないと覚悟しないといけないくらい、大声で怒鳴られるづけたことなど一度もなかったし、友達と殴り合いの喧嘩をしたこともなかったので、思い切り殴られることの恐怖感で声も出なかったと、後で彼から聞きました。


私が取った行動が、許されることではないかもしれません。

しかし、どこかで本気で大人がぶつかっていかなければ、彼はいつまでも同じことを続けたと思います。

仕方がなかったという言い訳をするつもりなど毛頭ありません。



大人が本気で心配をする、関わるということを彼に伝えたかっただけなのです。


ご両親が体をはって彼が包丁を持って外に行こうとすることを止めていても、それは彼の甘えからか、親の本気とは受け止めていなかったのかもしれません。

彼の心には、止めて欲しいという思いがきっとあったからだと思います。



何をしても許される、そんなことはありえないのです。

断固としてダメだと、時には大人が体をはってでも伝えないといけないと私は思うのです。



このことで、彼はまた、しばらく自宅でひきこもります。

ただ、この後、家で暴れることは、この共通テストまでの間には、もう一度もなかったのです。



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