92歳ワイン評論家は、外出制限をどう生きているか?
2020年3月25日(水)
17日正午から始まった外出制限から9日目。
「この事態を、パリの人々はどう生きているのか?」を探るインタビューの
第2回目にご登場いただくのは、ワイン評論家の大御所ミッシェル・ドヴァーズさん。
92歳・・・ということで
ほとんど安否確認のつもりでお電話したところ、
40歳年下の私が吹き飛ばされる勢いで話をしてくださいました。
いつお会いしてもお元気なドヴァーズさん、
2015年に肺の大手術をして「一度死んだ」とおっしゃっていましたが
今回の電話でも思いました、彼は不死身です!
名前:ミッシェル・ドヴァーズ氏 (男性)
年齢:92歳
職業:ワイン評論家
家族:1人暮らし +小型犬1匹
住まい:モンパルナス界隈
120㎡のアパート、1階
リビングの窓の外はお隣さんの庭
ー外出制限から9日、どんな生活ですか?
爆発寸前です!
外に出られず、車も運転できないなんて
まるで刑務所ですよ!
世の中全体が刑務所になりました!
それに民衆が愚かすぎる!
現代医学がウイルスに負け、
医療破綻が目の前にさらされているのに、
それに対して毎晩拍手するなんて!
どういう了見でしょう!
(*現在フランスのあちこちで夜8時にアパートの窓を開け
医療従事者に拍手がおくられています)
1939年、フランスがドイツに宣戦布告した時と
全く同じものを見る思いです。
この時、フランスがドイツに宣戦布告したのであって
その反対ではなかったことを覚えておいてください。
今抱えている問題は、あの時と同じなのです。
ただ1939年は、
必要な場所に武器を分配することができなかったことが問題でした。
それが今、マスクや検査キットなどに変わっただけです。
ーだいぶご立腹ですが、今、パリの人々が
この外出制限をどう生きているのかを知りたくて
始めたインタビューです。
毎日どう暮らしているか、教えていただけますか?
パリジャンなんて、どこにいるんですか?!
みんな別の場所に移動してしまいましたよ。
それができない人たちは、パリに残っているのでしょうが
街には人っ子一人いません。
犬を連れて、すぐそこのモンパルナス大通りに出ても
車もなければ通行人もいないのです。
全くの無人です!
車があったって、使えないのです!
持っていても無意味!
駐車場の車は、一体なんの役に立たつというのですか!?
すべてがおしまいです!
ー年配者は極力外出しないよう呼びかけられています。
外を歩いて問題はありませんか?
恐怖心はないですか?
恐怖心があったら、とっくに自殺していますよ(笑)
犬の散歩に出ると
警察官から呼び止められることはあります。
外出許可証を携帯しているのでことなきを得ますが、
犬の名の下に飼い主の外出が許可されるなどとは
正気の沙汰ではありません。
ご存知ですか? 最新版の外出許可証には
日付の他に、時間を記入する欄があります。
先日、これに気づかずにいたために
警察官ともめて大げんかになりました。
警察官はバカで何も理解しませんから、
彼らと話すと必ず大げんかになります。
できるだけ関わらないようにしています。
ー食料品はどうされていますか?
高齢者はできるだけ宅配を利用するように、と言われていますが。
多少の買い置きはありましたので、
まだ買い物には出ていません。
そろそろ買い足しが必要になりそうです。
その時は自分で出かけて買い物をします。
宅配は利用しませんし、誰かに頼むつもりもありません。
自立していることは、自由であることと同じです。
たとえ外出しても、人と話しませんから感染もしないでしょう。
このウイルスから身を守るのは難しくはないのです。
ただし、人から唾を飛ばされるとまずい。
その点私は、バカな人たちとは一切話しませんからね、
感染の心配も少ないわけです。
先ほども言いましたが、薬もワクチンもない、
何もできないという状況に対して
拍手を送ることができるような連中とは
話などできません。
こんなことを言って大丈夫か?
私を知っている人としか話しませんからね。
みんな、「君の言う通りだ」というだけです。
ーどんなものを食べていますか?
朝はコーヒーを1杯と、
ごく薄くスライスしたパウンドケーキを食べています。
栄養としてはなんの役にも立ちませんが、
喜びのために。
パウンドケーキは日持ちがしますから、今のところ困っていません。
そういえばそろそろ、買い足さないと・・・
パンもそこをつきました。
明日あたり、外出制限から初めての買いものをするかもしれません。
昼はほとんど食べません。
夜は、買っておいたジャガイモやクスクス、
いろんな種類の米があるので、
それらをたっぷりそろえたスパイスや調味料を使って料理して、
何かしら食べるものを作っています。
そうそう、そろそろ麺もなくなります。
サラダのような野菜も、もうありません。
日持ちのしない野菜ですからね。
ー以前、私にアスパラガスを作ってくださいました。
そろそろアスパラガスの季節なのに、
マルシェがしまっているなんて!
本当におしまいです!
屋外のマルシェがダメで、
締め切った大型スーパーはいい、などという
不可解な取り決めはスキャンダル、とんでもないことです!
私はアスパラガスはスーパーでは買いません、
マルシェでのみ、買います。
アルコールは、もちろん毎日飲みますよ。
これは外出規制以前からの、私の長年の習慣です。
ワインだけでなく、アルマニャック、カルヴァドスなど
オー・デュ・ヴィ(蒸留酒)も飲みます。
第一、ウイルスはアルコールを嫌うようですね、
手の消毒に使うくらいですから(笑)
ー1日、何をしていますか?
書物を読んで、ラジオを聞いて。
パソコンに向かうこともしますが、サーバーの問題が多く
イライラする原因なのであまり長いことは使いません。
新聞を買いに行くことはありません。
ジャーナリストはなんの役にも立ちません。
まともな質問ができないのですから。
ニュースを見ていると、1940年のエグゾードを思い出します。
この時、パリの住人と北国の人々が、
ドイツ軍を逃れるために南へと移動しました。
で、一旦南仏に到着した彼らはどうしたと思いますか?
何をしたらいいのかわからなくて、また北へ戻ったのですよ!
ー運動不足は気になりませんか?
スポーツはしません。
その昔チャーチルは、インタビューで健康の秘訣を聞かれ
「No Sport」と答えました。
作り話じゃありませんよ、事実です。
スポーツはしませんが、
いつもどこかしら家の中を修理していますから
体は動かしています。
本棚を付け足したり、水回りを直したり。
以前、南仏の城に住んでいた頃は
山への通路を自力で作ったこともありますよ、
専用のトラクターを使ってね。
こういう日曜大工はなかなかポジティブです。
でも今は、修理したい場所があっても
材料を買いに行くことができないのです!
本当に終わっています!
普段であれば、すぐに車に乗って、必要なものを買いに行くところを!
いいえ、車は毎日乗っていたわけではありません。
しかしとても頻繁に使っていました。
車は、自由と同じです。
特に、夜に運転するのが好きです。
今はそれもできない!
何をする権利もないのです!
ー今の生活は辛いですか?
刑務所よりひどい生活です!
刑務所なら食事も出ますし、どこかを訪問することもできますし、
いわば世話を焼いてくれている人がいるわけです。
私たちにはそれすらありませんから、刑務所より悪いというわけです!
こんなことをして何になりますか?
私の好きな言葉の一つを教えましょう。
「大勢死んだら、病人は減る」
どうです。
これに対する反論は、誰にもできないでしょう。
ー・・・そうはいっても、外出制限のおかげで発見した
ポジティブなことはありませんか?
民衆はバカだと再確認できましたが
これは発見ではありません。
1939年からわかっていたことです。
あれ以降、フランスには多少の進歩があったと思っていましたが
そうではありませんでした。
別の戦場があるだけです。
なんの進歩もありません。
ーこの外出制限が解けた暁には、何をしたいですか?
そうですね・・・車に乗って、
どこへ行きましょう・・・田舎もいいですね。
今私にできないすべてのことをするでしょう。
友人に招かれたり、招いたり。
通常の日常が戻ってくるはずです。
メルシー、ミッシェル・ドヴァーズさん!
御年92歳、
約15年の付き合いになりますが
年齢を重ね、手強さを増しています!
この手強さ、健康長寿の秘訣だと思います。
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