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「されどわれらが日々-」柴田翔著を読みながら回想した。

それは、1997~8年の出来事だったと思う。

夫が私の単身赴任先に遊びに来て夜になった。自衛隊の基地のあるその町の古本屋の店先で夫はハンナ・アーレントを選んで買い求めた。そのときの店主の眼が「されどわれらが日々-」の古本屋の店主の佇まいとそっくりだったのだ。一言「ハンナ・アーレント」と言って夫と私の顔を眼鏡越しに一瞥した。それ以上何も言わず、顔も何も語っていなかった。

自衛隊の基地の町とハンナ・アーレントのそぐわなさは、基地の町と古本屋のそぐわなさにもつながっていた。異世界に紛れ込んだような気持でその夜を行きワンルームマンションに帰り着いた。それが何故か忘れられない一夜となったのは古本屋の店主の一言と一瞥の意味を測り損ねたことにあり、宙ぶらりんのまま歳を重ねたのである。

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