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共犯者は情状証人として適切か 【刑事裁判】

被告人の家族や上司が「情状証人」として法廷で証言することは多いです。刑務所に行くかどうかを分けることもあります。
では情状証人は誰でも良いのでしょうか?

情状証人とは

ケース1
芸能人Aは、覚醒剤0.41グラムの所持で起訴された。
父親と友人が法廷に立って、Aの人柄や事件のショックを証言し、Aの今後の監督を約束した。
裁判所は、Aに対して懲役1年6月、執行猶予3年の判決を言い渡した。

まず典型的なケースです。
情状証人というのは厳密な法律用語ではなく、法的には弁護側が請求した証人という立場です。
被告人の性格・生育歴・家庭環境・就労状況・被害弁償状況を話してもらい、更生のために被告人はどう取り組むか、情状証人はどう関わっていくかを証言してもらうことが多いです。

なお、「情状証人が供述するのはたいてい一般情状であり、いてもいなくても結論はほとんど変わらないのでは?」というシニカルな意見があるかもしれませんが、重視する裁判官もおり(後日執筆予定)、執行猶予の可否が微妙な案件においては決定的意義を持つ可能性があります。

首をひねるような情状証人

ところが、実際の刑事裁判では、裁判官が「大丈夫か?」と不安を覚えるような情状証人が登場することもあるようです。

原田國男「量刑判断の実際[第3版]」37頁
公判廷にたまたま会社の経理の者が来ているから証人として調べてほしいとの国選弁護人の申立てにより、調べたところ、どうやら被告人の本妻以外の女性であり、同女がさかんに被告人の今後の更生と監督を誓っているのを聞き、本妻が知ったら怒るであろうなと思ったことがある。保釈の制限住居にそのような女性の住居を申請してくることがある。また、暴力団員の被告人の場合に、その親分筋が頼んだ一見気質風の土建業者が被告人を雇って厳しく働かせると誓うことが多々ある。だから、駄目だということはないが、よく見極めることが肝要である。

前者はなかなか驚く証人請求ではあります。
一方、後者は、被告人に「気質」の知人がおらず、親族とも断絶していることがあるので、弁護人がこのような証人申請を行うことはあり得ます。
当然、情状証人の真意及び意欲を、念入りに確認する必要はあるでしょう。

共犯者は情状証人として適切か

さて本題です。次のケースを考えます。
実は決して珍しいケースではありません。

ケース2
被告人Xは、微量の覚醒剤使用で起訴された。
妻のYは、毎回ではないが、Xと一緒に覚醒剤を使用していた。
ただし警察の尿検査では陰性であったため、不起訴となった。
Xの裁判で、Yは情状証人として証言し、夫婦で頑張って覚醒剤をやめると誓った。

妻のYは起訴されていないが一緒に覚醒剤を使用していたのであり、共犯者的立場にあります。実際の裁判では、文字通り共犯者のケース(夫婦とも起訴されたが妻が先に判決を受け、夫の裁判で情状証人になる)もあるでしょう。
では共犯者は情状証人の適格性はあるのでしょうか?

いくつかの文献では否定的な意見があります。

原田國男・前掲書37頁
覚せい剤を共に使用した者のように実質的な共犯者であるような場合には、同人が被告人を監督することができるか重大な疑問があるから、同人がいなければ、被告人の更生がおぼつかないといった特別の事情が必要であろう。
東京弁護士会期成会明るい刑事弁護研究会「入門・覚せい剤事件の弁護[改訂版]」36頁
素行の悪い夫もしくは妻がいる場合(特に夫もしくは妻の影響で覚せい剤に手を出してしまった場合はなおさらである)は即刻離婚して完全に関係を絶つことを真剣に考えるべきである。
(中略)裁判所で「助け合って励まし合う」と誓約した夫婦は再び破滅の方向に連れ立ってしまったのである。
米山正明「被告人の属性と量刑」量刑実務体系第3巻129頁
監督・更生協力や扶養介護については、単に扶養家族がいる又は監督を約束するというだけの表面的な立証では不十分であり、被告人と家族の絆が強いか、親や配偶者に実効的な保護監督をする能力があるか、被告人がそれに従うことが期待できるかなど、具体的な実情の立証があって初めて、再犯抑止効果や刑の感銘性など量刑上の意味が認められる。

それでも情状証人として呼ぶ意義はある?

共犯者を情状証人とすることの評判はあまり良くないようですが、本当に意味はないのでしょうか。
そもそも情状証人を申請する意味を考える必要があります。

「情状弁護アドバンス(季刊刑事弁護増刊)」141頁
情状証人としてどのような人物がふさわしいかは、事件のケースセオリーとの関係で自ずと定まってくる。情状証人は1人に絞らなければならないなどということもない。

つまりケースセオリー(当事者が提起する事件の説明)との関係で必要があれば、共犯者を法廷に呼ぶことは問題ない。

たとえば、被告人Xのケースセオリーとして「Xはもともと薬物に縁はなく覚醒剤を最初に使用したのは妻のYである。覚醒剤を使用するのは性交時だけであり、次第にXだけ使用することが多くなった。なおYは覚醒剤の入手経路を捜査機関に供述している。」という事実を立証したいのだとしたら、Yを情状証人として法廷に呼ぶ意味はあるでしょう。

また、夫婦で離婚しないという決断を出したのであれば、その決断をした具体的な過程や今後の具体的対応を話してもらうために、妻のYが証言するのは意味があると思います。
被告人Xが1人で「妻とは離婚しないことになった。2人で頑張ると決めました。」と法廷で供述するだけでは、その実現可能性は第三者には分からないからです。

一方、夫婦で覚醒剤を使用したという事実がある以上、「夫婦の相互監視によって今後の使用は防止できます。」と述べても説得力は乏しく、ケースセオリーとして破綻していることは明らかです。
したがって、第三者(被告人Xまたは妻Yの親など)にも監視してもらう必要がありますし、その第三者にも情状証人として証言してもらう必要性が高いです。前記のとおり、情状証人は1人に絞る必要はないからです。

これまで共犯者を情状証人として呼ぶことに否定的意見があったのは、その共犯者だけ証人請求して「今後は2人で頑張ります」と単に約束させて終わるケースがあったからではないでしょうか。
そうではなく、監督にあたる第三者も情状証人として請求し、当該第三者には今後の実効的な監視方法を、共犯者の情状証人には犯情にわたる部分をメインに供述してもらうなど、供述事項のすみ分けをするのであれば、裁判所の印象や判断も違ってくるはずです。

結論
共犯者を情状証人として申請することは、必ずしも無意味ではない。
監督にあたる第三者も証人請求したり、ケースセオリーに従って尋問内容を吟味する等の工夫をするのであれば意義はある。

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