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『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで(2008)』を観ました。

気持ちが落ちて弱っている時なんかは、明るい話だとしんどくて観てられない。そんな時にはむしろぶっ壊れるような作品の方が身に染みる。

幸せな一軒家持ちで子供もいる夫婦が徹底的に壊れてしまう今作。「こんなことにはなりたくはないが、このようにしか生きられない部分が私にもある」という奇妙な共感があった。なんだかやっと底に足がついたような気がして、あとは上にあがるしかないような気持ちにもなった。

ある夫婦の夢や葛藤を描いた人間ドラマ。1950年代アメリカ・コネチカット。郊外の閑静な住宅街に暮らし、子供にも恵まれた理想の夫婦フランクとエイプリル。しかし、2人はマンネリ化する日々に不満を募らせて、次第に溝を深めていく……。

https://eiga.com/movie/53934/

レオナルド・ディカプリオケイト・ウィンスレットと言えば1997年公開の『タイタニック』のジャックとローズが超有名ですが、今作はそれから11年後の2008年の映画で、二人は夫婦役で出てきます。
さて今作はカップルがデートで見たら最悪な作品のひとつです。例えば『ブルーバレンタイン(2010)』が愛し合う男女の最悪に険悪な瞬間を描いているように、今作では具合が悪くなるほど最悪な瞬間を見ることになります。

なにも知らずに「レボレーション(=革命)だから、なにか歴史上の大きな革命で闘いの中で、傷つきながら愛し合う二人を描いてるのではないか」などと思って観たような人(私ですが)はかなり面食らうことになります。
時代は1950年代のアメリカではありますが、劇的なお話ではなく日常ドラマなんです。郊外の一軒家から仕事に向かうサラリーマンの夫と家で掃除したりする妻の話です。

郊外に一軒家建てたらもう一つの到達点で、あとは夫が働いてローンを支払う人生なのでした。そんな人生設計に妻のエイプリル(ケイト・ウィンスレット)疑問を持ってしまう。
「このままの人生でいいのか夫(レオナルド・ディカプリオ)よ?」「それで本当に生きているって言えるのか?」「こうなったらこの家も土地も売っぱらってパリへ行くのだ!」「私が高給取って働くから夫のあなたは『本当に自分がすべきこと』を探すのよ」とか言い出す。夫はたいして乗り気じゃなくて「灰色だろうとこのままの人生でいいじゃないか」とか思ってる。
これって普通は逆だろう。夢見がちな夫を現実的な妻がたしなめるだろう。妻がそんな現実離れしたこと考えるもんだから、魂を一気に激しく燃やしてしまって、タイトルの通りに「燃え尽きた」なんてことになってしまうのだ。人生なんてもんは炭火のように弱火でボソボソなんとなく燃えていったらいいのだ。こんなのはマラソンをペース配分考えずに全力疾走するようなもんだろう。

しかし私は、この「それで本当に生きているって言えるのか」などと言い出す妻のエイプリルを他人事とは思えなかった。私はなにか人生が安定して落ち着いてくる(なんとなく先が見えてくる)と「このままの人生で本当にいいのか?」などという思いがだんだん膨らんできて、今持っているものをすべて白紙に戻して別の地に行ったりしたくなる人である。
決して私は『1箇所に住んで生きるのとか、1つの職場で働き続けるってこと』を軽く見ているわけではないです。私にはそれができないというだけで、少ない場所で深く関係していくか、多くの場所で広く関係していくかは人それぞれであろうと思います。

なんといっても今作で一番輝いて見えたのはジョン(マイケル・シャノン)さんなのでした。
「うちの子は精神病院に入ってるけどすごく頭がいいのよ、よかったら会ってあげてよ」などと近所のおばさんに言われて会ったら、まあとんでもなく強いキャラクターの方。

容赦無く場をぶち壊すジョン(マイケル・シャノン)さん

ジョンさんだけが「なにもかも捨ててパリに行くって、なんとすばらしい!」「あなたたちこそちゃんと生きてるって言える!」など言ってくれる味方のような存在であった。
でもそれが一転逆になってしまえば、そこまで言うかってくらい容赦なく攻撃してくる。空気も読まないし相手の気持ちも考えない、ジョンさんはただただ純粋な方なのでありました。

女優ケイト・ウィンスレットさんの2008年は、『愛を読むひと』と今作『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』に出ていて、どちらも一生に出会うかで合わないかのような凄まじい作品と思います。この2008年のケイト・ウィンスレットさんは神がかってるというか、無双と言っていいかと思います。
レオナルド・ディカプリオは今作の役に見事にはまっていて、呼吸の合っている二人の演技を見るのは幸せを感じます。よくまあこんなキャスティングしたもの。ただただ素晴らしい。

『アメリカ版超辛口ホームドラマ』だと思います。覚悟してみると楽しい発見がいくつもあるはず。私は見終わってから「エイプリルさんの生き様すばらしいぞ。私もしぶとく生きていこう」などと元気が出た。


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