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恵文社一乗寺店 6月の本の話 2023

こんにちは。恵文社一乗寺店の韓です。
一乗寺は連日サウナのごとく蒸し蒸しとした暑さが続いています。みなさんお変わりありませんでしょうか。

さて、6月の書籍売上ランキングと、今月の本の話をすこし。

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1位 くどうれいん『桃を煮るひと』(ミシマ社)

キャベツを千切りにする。大根を面取りする。お玉で味見をする。
その間だけはわたしのからだのまわりに薄い虹色の膜のようなものが出来て、それがわたしを守ってくれるような、そんな心地がする。(中略)
文章を書くことも菜箸を持つことも、わたしがわたしを取り戻すために必要な行為なのだと、改めてそう思う。

「あとがき」より引用

うれしいときも、やるせなくてかなしいことがあっても、何かを食べて生きていくし、そうするしかほかない。食の記憶は、いつだって生活の近くにある。歌人・くどうれいんさんによる待望の食エッセイ本が首位にランクイン。本当にたくさんの方が手にとってくださいました。
はつらつと台所に立ち食材を刻む日も、家事に手が回らず悔しい気持ちを抱える日もあっていい。あらゆる暮らしの側面をまるごと包み込んでくれる、そんな等身大のエッセイ本です。

今週末には当店COTTAGEにて対談イベントも開催されます。会場参加チケットは完売となりましたが、オンライン配信でのご参加は引き続き受付中です。


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2位 川名潤『出版とデザインの26時』
『出版とデザインの27時』

装丁家・川名潤さん手がけるリトルプレスが2位にランクイン。
本書は川名さんが『文藝』や『群像』ら文芸誌等で発表した(2016年-2021年)原稿をまとめた小冊子。書籍や雑誌のデザインについて語りながら、歴史や文脈を思い起こし、時に世情の有り様に鋭い指摘を投げる、軽やかなテンポで情報豊かな文章がならびます。


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3位 外間隆史 柳本史『雨犬』(未明編集室)

ペンキ職人の青年と一匹の老犬「雨犬」の暮らし。静けさのなかに漂う優しさと少しの哀しみを、詩情豊かに綴った物語。雨の日に出会った一人と一匹のつつましくも豊かな光景が、雨犬の視点で淡々と語られる言葉は詩のようでもあり散文のようでもあり。音楽や映画や文学の断片が少しずつ埋め込まれ、彼らのストーリーに奥行きが生まれます。「ぼくは雨犬、雨そのものもいいけど、雨の降る日が好きだ」。ひそやかに綴じられたこの一編の寓話のような書物をどうぞお楽しみください。


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4位 板倉布左子『マーケットから生まれる12カ月のイタリア料理 トリノ&出雲&東京』(風鈴社)

北イタリア・トリノに10年在住し、現在は東京と出雲を拠点として人気料理教室「effe-co.」を主宰する著者の、家庭で作れる本格的なイタリアの「家ごはん」。北イタリアはスローフード発祥の地であり、郷土に根ざした農産物・乳製品など、生産者から新鮮な食材が直接届けられるメルカート(市場)が人々の暮らしに浸透しています。そこで教わった季節の旬な食材を使った料理や楽しみ方を、シチュエーションごとに紹介します。


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5位 馬場のぼる『馬場のぼるのおえかき教室』(こぐま社)

「さて、それではボチボチ、絵をかきはじめることにしましょうか。」
馬場のぼるさんご本人が、図解をまじえて分かりやすく描き方を教えてくれます。まずは歩いているネコ。こんどは立っているネコ。ちょっとかたちをかえるだけで、イヌ、ウサギ、ブタ…。キツネみたいにむずかしい動物には、「ヒゲは下にたれるようにすると、あまりずるそうではなくなる。」なんてちょっとしたコツも教えてくれます。絵が苦手と感じている大人の方も「これなら描けるかも!」と思わせてくれるような楽しい手引き書。

恵文社スタッフもみんなで描いてみました。


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今日は七夕ですね。めずらしく昼間は晴れましたが、このあと雨がぽつぽつ降るそうな。しかしこうも暑いと食欲も落ちてしまいがちですね。炊きたてのごはんの湯気にやられそうで、ついつい米より麺に心移りしています(麺も結局茹でるので湯気浴びるのは変わらないですが…)つめたい蕎麦、つるつるしておいしいですよね。

さて、偶然にも、そんな夏の台所にもうきうきと足を伸ばしたくなるような本たちが届いています。

まず稲田俊輔さん著『食いしん坊のお悩み相談』(リトルモア)から。
ごはんを作り(つくらなくとも)、食べること。私たちの生活の営みの中で最も身近な行為であるからこそ、さまざまな疑問ももやもやも生まれてきますよね。「ファミチキは何故ごはんのおかずにならないのか?」「若い女子に「スパゲッティー」と言ったら笑われてしまった」「カロリーを気にせず暴飲暴食したい!」などなど…。あらゆる「食」にまつわるお悩みを、料理人・稲田俊輔が痛快に親身に答えていく当書ですが、寄せられた悩みに「わかる…!」と頷いたり、稲田さんの回答の潔さに笑ってしまったりと、するする読めてしまいます。
「豊かな朝食」のコーナー、ぜひお読みいただきたいです。

つぎに『伊丹十三の台所』(つるとはな)。こちらは当店に並びはじめた直後から、本当に早々にたくさんの方が手に取ってくださいました。食通というよりは食いしん坊、食べること、食べてもらうことが好きだった伊丹十三さん。名文「スパゲッティのおいしい召し上がり方」をはじめとする数々のエッセイとレシピ、愛用の料理道具や器を紹介しています。伊丹さんより影響を受けられた方々から寄せられた寄稿文や談話もたのしい。
ひとりの生活者・伊丹十三を知るための、奥深くもゆたかなアンソロジーです。

さいごに、野村友里さん著『とびきりおいしいおうちごはん 小学生からのたのしい料理』(小学館)。
こちらはご担当の営業の方が案内をお持ちくださったとき、ひっきりなしに盛り上がりました。おとなもこどもも隔たりなく楽しめる料理の数々。幼少期の頃そこまで台所に立つようなこどもではなかったので、小学生の頃にこのような本に出会っていればな、と思わず考えてしまいます。
失敗しないチーズオムライス、生姜焼き、皮から作る水餃子…。どれも丁寧に手順をふまえながら説明されており、レシピでなく、まるでひとつの物語を読んでいるようでもあります。
そしてなんと、この本に載っている図は全て三宅瑠人さんによる手描きなんです(調味料の描き込み、うっとりもするしぞっとする仔細さ…。)
ぜひ台所の傍におすすめしたい一冊です。


それでは、来月のお話もどうぞお楽しみに。


(担当:韓)

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