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裏社長大河の悪魔版就職斡旋社 第32話 対外国資本編16

はじめに

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 この小説には暴力的表現、性的な表現が含まれています。
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裏社長大河の悪魔版就職斡旋社 第32話

 ヘイマンという男とシークという男。
 スーツを着た小太りでキャップをかぶった胡散臭い男がヘイマン、筋骨隆々の大柄な無骨な男がシーク。凸凹コンビのような見た目をしているが、スポークスマン、広報、交渉人として雇われているヘイマンと明らかに暴力と喧嘩ともしくはそれ以上のことが目的で雇われているシーク、長所が違うふたりがくっつくことでより大きな脅威となっている。
 明らかにオレなんかではタイマンではシークに勝ちようがない、身長も大きく違うが、腕や体幹の筋肉量の多さを見ればそんな作戦は無謀だとすぐにわかる。ただ、シークが日本語を話せないし理解できないと言うのはメリットだ、ヘイマンからの通訳をしている間にこちらが先手を取れることもあるだろう。通訳を介さずに理解されたらこちらの作戦も立てようがなかったが、わずかに取れるラグがオレたちにとっては救いになるはずだ。もっとも、通訳や解説を必要としない圧倒的な力による武力解決が可能ならオレたちの負けだな。
 「シークの考えることは実にシンプル、あなたたちは痛くないように死ねる事を祈る事をオススメします。」
 「ヘイマンっつったか?このシークってやつはお前らの目的ってのは知ってるのか?」
 「大まかには知ってますが、彼のミッションは上流階級民、今回だとエミレートファイナンスグループのボスを護る事。我々のように細かいお金の計算や作戦は考えなくていいんです、近付く虫を潰すことが大事なのです。」
 「へ、オレたちは虫かよ。」
 中山もオレもある程度耳も三半規管からの平衡感覚も戻った。中山が遠ざけてくれたおかげだ、直撃してたら今頃お陀仏だった。
 「エミレートファイナンス含めた中東上層民の目的は日本での死金の回収、及び経済力の奪取、ついでに繁殖用の女の拿捕。とまとめればあなたたちも分かりやすいんじゃないでしょうか。シークはシンプル。上層民に飛びかかる虫の駆除です。」
 「虫、虫言いやがって、シークのコバンザメが。」
 「シーク、やってしまいなさい。」
 シークは言われるがまま、オレたちに飛びかかってくる、既にアセチレン爆弾のような攻撃を受けたオレたちは二の矢三の矢があるのではないかと疑っていた。しかし、シーク相手の場合はそのような警戒は我々に必要な先読みという勘を鈍らせただけだった。
 「ガアアアアアァ!」
 ただ丸太のような腕を振り回しただけの野蛮な攻撃、単純で知性のかけらも感じられない攻撃だが、それだけで充分なほどの破壊力があった。
 「ワッタヘル!大河さんの頭上の壁がめり込んで凹んでます!」
 避けたが、頭上の壁が凹んでいる。壁はそれなりに頑丈な設計されているように手触りでは感じていた。ウィークリーやマンスリーで格安で借りる住宅のような薄い壁ではない。少なくともコンクリートに近い素材で強度が造られている部分が破壊された。
 「大河さん、防御したらダメです、避けないと死にます!」
 中山が声高に叫ぶ、防御ではなく回避限定。それは一撃で十分にオレも分かった。
 「グアアア!」
 襲いかかってくるシークをいなしながらも後方には既に攻略したとはいえハマると致命傷になりかねないトラップが設置されている。あまり撤退に特化してはいけないというのも頭を使わされる。
 「チッ。」
 中山が舌打ちしてシークとの距離感を一気に詰める。デカい相手はある距離から内側に入られると往々にして脆さがある。それを踏まえてだろう。しかし、シークは天性の才能があった。
 中山が狙って行った攻撃は刃物による攻撃、それを探知したシークはスッと身を翻し最低限のダメージで中山の攻撃を回避した。剛と柔の使い分け。めんどくせぇ相手だ。
 「大河さん、ヤツの弱点はないことが弱点です。」
 中山が哲学的な事を言う。
 「どういうことだ?」
 「ヤツは訓練された戦闘ではありません、天性のもの、センスでやっています、つまりはパターン化されている可能性があります。」
 「センスでやるヤツにパターンがあるのか?」
 「はい、オレのような軍隊上がりは同じ策は読まれるので避けようという前提がありますし、そういう教育をされるので・・・。」
 「ガアアアアアァ」
 「おっと。功があろうとなかろうと次は別の手をしますが、ヤツの場合は上手くいったら続けて同じ作戦をしながら品を変えてくると思われます。」
 「同じような攻撃できてるように見えて相手の動きでその場で変える・・・。なるほどな。変化するにも無限のパターンがあるわけじゃないし、前半部は同じ動きをしてるってことか。」
 「はい、分析して弱点を洗うしかありません。」
 分析っていうが、こんなキングコングが金属バット持ってるようなやつをじっくり観察する余裕はねぇよ。
 「ゴアアアア」
 「くっそ。」
 「ははははは、避けるのが上手い連中だ、シークがあっさり仕留められんだけでも褒めてやろう。だが、避けてるばかりではお前らの方が都合が悪くなるぞ。」
 ヘイマンが声高に笑っているが、アレに構う余裕はオレにはない。
 「グオオオオオ」
 床材にヒビを入れたり壁のコンクリートを変形させたりおおよそ人類とは違う生命体じゃねぇのかと疑わせるほどの攻撃をシークは繰り返してきやがる。当たったらほぼ終わりだ、直撃したら首から上が消し飛ぶかもしれねぇな。
 「1、2、3、4、5」
 「マハル、お前何を数えてやがるんだ。」
 「ひぃぃ!」
 「なんのカウントだそれ!」
 「ひぃぃぃ、ヤツの動き出してから被害が出るまでの時間です!」
 「は?」
 「ヤツが叫んで腕を下ろしてくるまで3秒、殴り始めて当たるところまでで2秒です!こわぃぃぃぃ、ジーザスクライスト!」
 「グオオオオオ!」
 「まさかとは思うがな・・・。1、2、3、おっと。」
 「今のはマハルのカウントにほぼ近かったですね。」
 「ガアアアアアァ。」
 「1、2、3・・・がああああ危ねぇ!」
 タイミングはマハルのカウント通りに見える、だが、それがわかったところでどうしろってんだ。絶対的な力の恐怖感に襲われる。
 ところが中山は違った。カウントの話を聞いてから冷静沈着に動きを見ていた。そして。
 「フッ!」
 「ごあっ!?」
 中山の手から放たれたアレは忍者の使う苦無とでも言うのだろうか、撒菱の大きいようなものがシークの足下や脛に突き刺さっている。デカいやつを倒すにはまず脚からとはよく言うが、よくこんな化け物相手にできるもんだ、沼地で怒れるサイと戦ってるようなもんだっていうのに。
 「マハルも戦力になりますね。」
 中山はそう言い残すと颯爽とシークに突っ込んでいく。近距離戦で勝算があるわけではなかろうに、一体どういうつもりだ。
 「デカいやつを倒すのは脚ですよ!」
 シークの脛に刺さった物質に蹴りを与えてさらに深く差し込む。痛みが強いのかシークが叫ぶが何を言っているのかはわからない。
 「力自慢をぶっ倒すのは打撃じゃない、筋肉と神経を攻めます!」
 中山は小さなナイフのような物で細かくシークへ攻撃する、一撃で致命にはならない武器を使っているが筋腹や神経を的確に攻撃している。筋断裂や末梢神経障害疼痛は人類であれば痛みを伴い続ける。
 「ガアアアアアァ!」
 シークも抵抗するが悲しいかな、実戦の経験数が違いすぎる。オレ相手だったらあっという間に処分できただろうが、ここに居るのは現役軍人に近い経験と年齢の人間。
 「視力も奪います。」
 催涙スプレーを顔付近に噴射し視覚を奪ったかと思いきや、その避けた先で催涙スプレーを直接顔面に振りかけた。味方でよかった、中山、凄すぎるぜ。
 「あぁぁぁぁ、そんなシークが・・・!」
 「そんじょそこらの力自慢なら今頃雑巾のように搾って血の池地獄がここに出来てただろうが。相手が悪かったな。」
 中山はヘイマンを確保する。そして、目が見えなくなって悶えている巨大なシークの頭に目がけて持っていた銃から残っていた2発を撃ち込んだ。痙攣したシークはそのうち動かなくなった。
 「オートマティックは6発、銃弾の残数は経験で覚えておく物だ、お前らオレの弾がなくなったと思っていたんじゃないのか?不用意な場所と攻撃の選択だったな。」
 「ひぃ・・・あなたが猛者でした。大河じゃなかった。」
 「相手間違えたってこと?悪いね、力だけならアイツが圧倒的に上、オレじゃ勝負にならないけど。動けなくなったらこっちのものだ。さてと、ここからは大河さんにお任せしよう。」
 「ありがとうよ、中山。恩に着るよ。さて、ヘイマンとやら。ボスのいるコネクティングルームってところに案内してくれ。状況はわかるだろう?」
 「イエス、もう我々はどっちにしてもジ・エンドです!ボスに殺されるか、此処で死ぬかです!」
 マハルがヘイマンに諦めるように促す。
 「協力したらお前らの命は奪わねぇとオレが保証する。少なくともオレたちは殺さねぇ。あっちからはお前らがどうにかしろ。」
 「大河さん、それ本当ですか?マハル信じるよ?」
 「あぁ、大船に乗った気でいろ。」
 「お船?私船はウィークポイントね、ボミットの嵐よ。」
 「マハルは黙ってろ。」
 「はい!船はだめです!」
 「で、ヘイマンとやら。この条件でどうだ?聡明なお前ならわかるだろう。オレよりも専門家の武闘派がいる、お前にとっては袋小路。ネズミ以下だぞ。」
 「分かった、わかった・・・だが、ボスを呼び出してどうするつもりだ。ボスは中東UAEかバーレーンかサウジか知らんが何処かに身を潜めていて日本にはおらんぞ。武力で解決できない以上、お前らができるのは『エミレートファイナンスの日本支部をめちゃくちゃにしてぶっ壊した』だけの存在だ、きっと本国から応援部隊も来る。お前らの命もそう長くないぞ?」
 「それはやって見なくちゃわかんねぇだろ?」
 「やるって何をやるんだ?ボスと会話するのか?わざわざ正体を明かすっていうのか?そんなことする意味もメリットもないぞ?反抗がバレて死が近づくだけだ、今トンズラすればみんな助かる、引く方を私はオススメする。」
 「中山、小刀貸して、頸動脈切って始末するわ。」
 「ノーーーーゥ!!!分かった、私ヘイマンは協力する。だから、穏便に行こう、死ぬ前に妻と最後の会話のしたい。ボスに殺されるのは辛いが、お前に殺されたくもない。協力する。協力します!」
 「というわけだ、中山逃げないように確保しておいてくれ。」
 ヘイマンとマハルを確保した合間にオレは電波が最悪だが、届くことを期待してスマホを操作した。
 「大河さん、余裕がありますね、アメージングです。」
 「マハル、オレは大河の嫁を見たぞ?あの女こそアメージングだ。顔良し、胸良し、ケツ良しだったぞ。日本で見た女の中でも最上級だ。」
 バグォゥ!!
 オレはヘイマンの下腹部を貫かんばかりの勢いで殴り抜いた。ヘイマンは気を失ったのか動けなくなったが、仕方がない引きずっていくとしよう。

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